【151】義母襲来
妊娠による不調で精神的に不安定。
アルバンに対してくだらないことで駄々を捏ねてしまった。反省。こればかりは喉元過ぎても熱さが忘れられない。
こんなんでは離婚されるのでは?
ビクビクしながら嫌いになっていないですかと聞いてみたところ、こんな回答が。
「正直に言うね。ツェツィーリアが怒っていても、全然怖くないから、はっきり言って、気にしてない」
一刀両断。まさしく東の国にあるタケ、バンブーを割ったような回答であった。切れ味抜群。
「ツェツィーリアは魔力がないし、力だって弱いでしょ? 僕はこの通り、体が大きくて強いし、白銀だから魔力もある。ツェツィーリアが何したってどうともならないから、君が怒ろうが何しようが、別に影響はないんだ」
「きょ、強者の驕り……! しかし厳然たる事実ですね!?」
「僕が怖いのは一つだけ。君に嫌われたり軽蔑されたりすること。だから、我儘言って、その直後にごめんなさいとか、嫌いにならないでとか言ってくる分には全然大丈夫。癇癪起こしても泣いてても可愛いだけだから。幾らでも見ていられる。だから安心してね!」
ある意味、舐められているのだが……私は世間のどんな人間より弱い自覚があるし、舐められてもしょうがない要素しか存在していないのは事実。
加えて、そんな要素しかないのに、それを踏まえた上でアルバンは私のことを愛してくれているし、本人が素で強いから本気で痛痒を感じていないっぽい。
「それに、どんな時でも冷静沈着な君が、妊娠による変化で感情をそのまま表に出すの、甘えられてる感じで凄く、なんていうか……興奮する」
「息が荒い」
「ツェツィーリアを僕が妊娠させたっていう、薄暗い歓喜があるし、君をそうしたのは僕だから……正直、凄く興味深いよ」
「やべぇ男と結婚してしまった」
「ふふ。それ、今更だからね?」
久しぶりにハァハァしているアルバンからそんなことを言われたのでこの話は終了。
夫が変態で命拾いしたぜ。
とりあえず精神的にもちょっと不安定であることを胸に留めておこう。
ご飯に関しては、色々試すうちに分かった。
腹八分目までなら、何を食べても平気。普段は大好きな魚に対する食欲が低下しているけど、それだけ。
ただし、一定のラインがあって、欲張って一度に沢山食べると吐く。それが分かってからは大分楽になった。
「ちょっとアカデミーに寄るついでに、ガブリエラに会ってくるね」
一昨日はそう言ってアカデミーに出掛けて行き、帰りにガブリエラさんとガルデーニア姉弟を連れての帰宅。義妹のガブリエラさんは「お姉さまがご懐妊と聞いたので」と様子を見に来てくれたらしい。
以前よりも明るくなってイキイキしており、年明けからは西の国に留学するための準備をしているんです、とも教えて貰った。
ガルデーニア姉弟は定期的にこの屋敷に通って家庭教師によるレッスンを受けているらしく、改めて家主であるアルバンに挨拶。主人が不在の中、このお屋敷の部屋を貸してくれてありがとうございますがきちんと言えている。偉い。
二人はアカデミーではガブリエラさんの取り巻きとして動いて貰っているが、留学には同行しないため、今後は家庭教師によるレッスンを増やすかどうするかの打ち合わせも兼ねての来訪だった。
私は私で、火竜の首を運んできた時、港で助けてくれてありがとうを伝えるなどした。
昨日は昨日で、議会のお手伝いをするも忙しすぎて帰れなくなっているコンラートさんがご来訪。
私の妊娠を聞いて「まだ安定期ではないと知ってはいますが、我が子とあなた方の子供が同じ年に生まれるかと思うと、とても嬉しい」と大変喜んでくれていた。
最早アルバンとコンラートさんは親友なので、子供同士、次世代も仲良くして欲しいなとか思ってしまう。仲良くなれるかどうかはまだわからないけれど、夢を見るのは自由なので。
コンラートさんは、今は王都にある家に住んでいるらしい。
なんでも、コンラートさんとモニカさんはどちらも学生時代、最初はアカデミーの寮で暮らしていたそうなのだが……領地が遠方にあったとしても、裕福な家は王都に屋敷を構えてそこから子供をアカデミーに通わせるもの。いわば、子供が寮生ではなく通学組というのは貴族のステータス。
コンラートさんとモニカさんは在学中に婚約して、二人揃って最後までしっかりアカデミーに通った稀なケース。普通、下位貴族の女性は婚活のために二年生くらいまでで自主退学するが、モニカさんラブなコンラートさんはどうしても離れ難く思ったちめ、自力で稼いで王都に家を買い、高学年からは二人で同じ家に住んでアカデミーに通っていたらしい。両家のご両親に認められた上でソレだったらしいから、本当に凄い。それもこれも、コンラートさんがモニカさんに首っ丈で、かつ死ぬほど真面目なので、結婚するまで清い仲のままだろうと信頼されてのことらしい。強い。
青春の波動をモロに浴びてしまって、アルバンが心の底からの「いいなぁ」を漏らしていた。
アルバンはここ数日、アカデミーに行ったり王城に行ったり、議会に顔を出したりと相変わらず忙しいようだったが、未だに愛しのモニカさんの元に帰れないコンラートさんに黙ってトンズラかますのは良くないと思ったらしく「ここだけの話だけど」と事前に報告していた。
「そろそろ雪が降るし、僕たちは先に逃げるよ。コンラートも、こんなに長く拘束しちゃってごめんね。帰りはうちの船を使えるように手配しておくから」
「いや、気にしないで欲しい。私も、議会にコネが欲しかったんだ。モニカに成果を持ち帰ると約束した以上、成し遂げるまでは戻れない。だが、船を貸して貰えるのは有り難いな」
「ありがとう」
「だが、アルバン、船の貸し出しだが……二隻あるのだろうか? 君たちはもう帰るのだろう?」
「ああ、それなら、僕たちは馬車で帰るつもり」
「馬車で? それは……時間がかかるのでは?」
「いや、すぐだよ。正確には、車だけで帰るつもりなんだ。馬を繋がない馬車を、僕が魔法で飛ばす。それが一番速いし、揺れないからツェツィーリアの負担にならない」
「……暫く、王都では空飛ぶ馬車が噂になりそうだ」
「そうかな? みんな空なんてそこまで見ないんじゃない?」
「アルバン、君という奴は……!」
とうとうコンラートさんがツッコミを放棄したが、アルバンがわざとらしくすっとぼけているため、二人してニヤッと笑って終わっていた。
どうやら、二人は親友に加えて、悪友にもなったらしい。
そんな感じで、昨日一昨日は楽しく過ごしていたのだけど……今日、アルバンが王宮へと、アレクサンダー殿下に呼び出されて行った後、いきなりビッグなゲストがやって来た。
その来客の知らせを告げたこのお屋敷の執事長に二回も聞き直してしまったが、どうやら聞き間違いではないらしい。
どうしよう……と戸惑いつつも、無視できない。
とりあえず王宮に行ってアルバン呼んできて下さい、と指示出しして、迷いつつも、とりあえず、やってみるかと腹を括って、お庭で素振りしていたニーナを呼んで同席をお願いする。
お屋敷のメイドさんとニーナに頼んで、シックだけどお高いドレス着て、アクセサリー付けて髪型もメイクもしっかりキメて、それから応接室へ。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。アッヘンバッハ公爵夫人」
細心の注意を払ってカーテシー。
応接室のソファには、小柄な赤い髪の女性。
アルバンの生母。私にとっては義母の急なご来訪。
門前払いしてしまいたかったが、公爵夫人を無碍に扱うのは辺境伯夫人とて難しい。アルバンなら拒否するだろうなとは思いつつも、流石にうちの敷地内で常識外れな真似はしないんじゃないかなぁ、ということで、会ってみることにした。
「……顔を上げなさい」
案外アッサリお許しが出たので顔を上げる。
な、なんだ?
初対面の時より随分と大人しいな?
少なくとも、トゲトゲした魔力が私に向いて来ない。敵視されていない。なんで?
「随分と支度に時間がかかること」
あっ、そうでもなかった。
気難しい。やっぱりそこは指摘されますよね。妊婦だからって油断して部屋着のままゴロゴロしつつ児童書読んでましたすみません。
「申し訳ございません。体調が優れず……臥せっておりました」
「体調が。どこが悪いのです?」
おっ、意外。聞いてくれる。
どうしたどうした? 今回は友好的だぞ?
「悪い、という訳では、ないのですが……。」
どうしようかな。個人的に親しい人には伝えはしたけど、まだ妊娠初期だし、何があるか分からないから、お義母さまに伝えても良いものか。
悩んでいたら、先にお義母さまの方が察したらしい。
「まさか……懐妊したのですか!」
手にしていたティーカップを置いて立ち上がっている。
が、嫌そうではないし、息苦しいような魔力も襲って来ない。喜んでくれているらしい。
「はい。まだ、どうなるのかは分かりませんが」
「何ヶ月ですか」
「まだ、三ヶ月と」
「そう。確か、春先に息子を産んだと聞きましたが……そうですか。もう、第二子を。良い心掛けです」
あっ、要は嫁ならアルバンの子供を沢山産みなさいということですね。分かります。
でもごめんなさい。一人目は反則技使いました。
が、お義母さまはそんなこととは知らないので、納得した様子で改めて着席している。ちょっと嬉しげ。孫が増えるのは普通に喜んでくれるらしい。
「お前が、アルバンの冤罪を晴らすために、謁見の間に入るのを見ました」
驚いた。
あの場に居たのか。
アルバンが罪人として裁かれる場所で、この方は、それを見届けようとしていたのだろうか?
わからない。私はこの人のことを何も知らない。
でも、あの場でアルバンを救うために飛び出して来ないのは意外だった。
「何故、アルバンがお前を選んだのか……疑問でしたが、よく分かりました。アルバンの為なら、お前は己の首さえ捧げようとする。その忠誠心は見事なものでした」
「あ、ありがとうございます」
「お前は自分の立場を理解している娘のようですから、他の不心得な令嬢よりはマシでしょう。ですが、黒髪というのは到底、アルバンの嫁に適しているとは言えません。そのことは理解していますね?」
「はい」
「よろしい。ならば、アルバンがいつか王として立った時、お前は側妃となって、正妃の座は然るべき者に譲りなさい。良いですね?」
おっ、と……?
まだアルバンの王位継承を諦めていないとは驚きだぜ。
普通に考えたら丁寧に丁寧にその道を潰しているのがアルバンの行動なのだけど、この人……やっぱりそうだ。高度な教育は受けているのだろうけれど、多分、家督を継ぐための教育は受けていない。最初から入婿に家を運営させるのが前提で育てられているんだ。だから、政治的な駆け引きとか、戦略を根本的に理解していない。
本当なら適当な頷いておけば良いのだろうけど、でも……私は、アルバンの正妻の座、譲る気は毛頭ない!
「いいえ。お断りします」
「なに?」
「アルバン様のため、首くらい捧げられるお相手でない限り、到底譲ることなど出来ません」
この世でアルバンに対して一番メロメロなのは私。
確信している。他にも居るかも知れないし、もしかしたらその人は魔力がとても強くて、身分が高くて、淑女らしい淑女かも知れないし、アルバンは私よりもその人の方が好きになるかも知れないけど……でも、いざという時に、アルバンを助けずに見捨てるような人に、正妻の座、絶対に渡したくない。
でも、これ、お義母さまとしてはブチギレ案件なんだろうな〜!
やっちまったな〜!
もうどうにでもなれ。
なんて、やらかしに対して意識を明後日の方にカッ飛ばしていたら、お義母様はキリッとした顔で私の目を見た。
「よく言いました!」
「……ぇ?」
「妻としてアルバンに仕えるのであれば、最低限、お前と同じほど忠義に厚い娘でなくてはいけません。現状、他に心得のある娘が見つからない以上、お前がその座に収まるのが良いでしょう。あくまでも仮にですが……黒髪の娘に負けるような者では話にもなりません」
そうなるのか……!
えっ、なんか良く分からないけど、私、お義母さまに気に入られたのか?
そうか。私がやらかしたことをお義母さまは全く理解していないから、私はこの人の中では「息子の窮地を体を張って助けてくれた嫁」になっているのか!
合点がいったぜ。
「アルバンは子供じみた反抗をまだ続けるようですが……お前のような娘が隣に居るならまあ、良いでしょう。邪魔をしました。帰ります」
「もっ、もうお帰りになられるのですか?」
思ったより帰宅が早い。
せっかくフルメイクしてヘアセットもしたのだけど、会話時間十分もないぞコレ?
「くどい。お前の仕事はアルバンの子を無事に産むことです。死産は恥と思いなさい」
なんだこのツンデレ義母。
えっ、気を遣うための思考回路が限りなくアルバン。これは親子。間違いなく親子。
未だにちょっと怖くはあるけど、そう思うと急激にこのお義母さま、愛おしくなってきたな……?
「ツェツィーリア!」
息せき切って、アルバンが駆け込んできた。
バン! と派手な音。衝撃。これドア壊れたんじゃないかな? そんな感じの不吉な音だった。
初対面の時にはお義母さまがブチギレて我をなくしていたし、強めの火魔法で大怪我させられそうにはなったので、アルバンはまた私が何かされていないか心配で、慌てて帰ってきたらしい。必死の形相。
遣いを出してからそこまで時間が経っていないし、これ、さては風魔法で空飛んで帰ってきたな?
「アルバン様、お帰りなさいませ」
ヘイヘイ、猫被るぜ。義母の前なので厚めの猫だぜ。ついでに、アルバンに「別になんもされてないよ」アピールしてくぜ。察して欲しいぜ。頼むぜお願い。
アルバンは動転していたようだが、私の側にお澄まししたニーナが控えていること、部屋の中が荒れていないことなどを見て、ひとまず警戒を解いた。
「全く、落ち着きのない……。」
嫌いな母親からの、これ見よがしのため息と呟きを受けて、アルバンの心の扉が物凄い勢いで閉じたのがすぐ分かった。
「一体、何をしに? アッヘンバッハ公爵夫人」
「単なる見舞いです。息子の嫁の顔を見に来るのが、そんなにおかしなことですか?」
「私の不在時に、事前の知らせもなしに押し掛けるのは不躾では?」
「急なことであったのは認めます。ですが、ハァ……お前はいつまでも子供のよう。この娘は嫁として私を歓待したというのに」
義母の言葉に、一瞬、アルバンが止まった。
私を褒めるような言い回しに、何のつもりかと考えたのだろう。
「アッヘンバッハ公爵夫人、この度は、貴重なお話をありがとうございました」
「……私の名はコルドゥラです」
「畏まりました。コルドゥラ様。出口までお見送り致します」
「不要です」
直訳すると、妊婦なんだから座っていなさい、だなこれは。
呆然とするアルバンの横をスッと通り抜けて、小柄な義母、改めてコルドゥラ様は去っていった。
「……えっ、どういう状況?」
混乱するアルバンという世にも珍しい現象を前に、つい、笑ってしまった。
そこから、何があったのかを説明したのだけど……アルバンの眉間に皺が増えるばかりだった。
「と、いう感じです。特に虐められてはいないですし、むしろ、気遣って頂いたというか」
「あ〜、頭が痛い! ツェツィーリア、あの人と会話していて嫌にならないの? 僕は話を聞いているだけでイライラするんだけど!」
「えぇ……? うーん、特には。今回は魔力も私に向いていませんでしたし、別に気にする程でもないといいますか……?」
「あの女は子供を鞭で打ったり、食事を抜いたり、そんな教育虐待をするような人間なんだよ? 現にガブリエラもそれで追い詰められていた!」
「それは……すみません。考えが足りませんでした」
「いや、僕も……取り乱した。ごめんね。大きい声、怖かったよね? 気を付けるよ。でも、ツェツィーリア、あの人は愚かな野心家なんだ。それを忘れないで。目的のためには手段を選ばない。アッヘンバッハの権力で強引にでもことを進める可能性だってある。もし、あの人が僕を諦めたのなら……アルビレオを奪おうとすることだって考えられる」
血の気が引いた。
その可能性は考えたことがなかった。
普通なら無理だから。
アルバンはコルドゥラ様の実の息子だが、今はアッヘンバッハ公爵家から籍を抜いて、フリートホーフ辺境伯になっている。だから、その息子であるアルビレオをアッヘンバッハが奪うというのは無理筋だ。アルビレオは長男として、フリートホーフ辺境伯領を継ぐのが妥当だ。
けれど、コルドゥラ様にその考えはない。
そうなると、親戚筋から後継を貰うというのは普通のこと。身分としても、辺境伯より公爵の方が上なので、アッヘンバッハが優先させるべきだと主張すれば、要望が通らないまでも、争うことは出来る。
その過程でもし、アルビレオの身柄を奪われてしまったら……きっと教育に携わるのはコルドゥラ様だ。アルバンやガブリエラさんがされたのと同じことを、今度はアルビレオがされることになる。
私は自分が気に入られて安全圏に入ったから、つい、この人は怖くないと思ってしまった。けれど違うのだ。全てはアッヘンバッハ公爵家の中で起きている。部外者の私には分かっていなかった。
まだ心の脆い子供の頃に、鞭で打たれるのはどんなに恐ろしいだろう。
私にとって、家というのは無条件で安心できる場所だが、アルバンやガブリエラさんにとってはそうではなかったのだ。そのことを、私は理解しなくてはならない。共感することは出来なくても、覚えていなくてはならない。
「芯から、悪い人間ではないのは僕も、ガブリエラも分かっているよ。でも、愚かなのはどうしようもない。そもそも、何がいけないのかさえ、分かっていないんだ。なまじ、勉強が出来ただけにたちが悪い」
これから対話すれば、なんて、とてもではないが言えなかった。
だって、そんなこと、もう既に何度も、アルバンとガブリエラさんはやってきたのだろうから。そしてきっと、その度に失敗して、傷付いて、失望していったのだ。
分かり合えない人はいる。
血が繋がっていても。
「……あの人には、退場して貰う。議会も、王妃殿下も反対しない筈だ。僕はアルビレオや君に、酷い思いをさせたくない。いいね?」
「はい……分かりました」
それでも、私はもう、コルドゥラ様のことが芯から嫌いとは思えなくなってしまった。だから、少しだけ心配になってしまう。
「コルドゥラ様は、これからどうなるのですか?」
「そうだね、まず、アッヘンバッハの家でははく、個人的にフンベルトと繋がりがあった、ということになるかな。直接犯罪に関わってはいないけれど、資金提供があったということにして、その咎で、もう一生、表舞台には出られないという処置に持ち込む」
「殺されたりはしないのですね?」
「うん。公爵夫人を処刑するのは難しい。だから、どこか適当な別荘に隠居して貰うことを考えているよ。そもそも、あの人は……他の誰かと接することなく過ごす方が良い性格なんだとは思うし」
「それは……確かにそうかも知れませんね」
アルバンの実母だけあって、色々不器用。ガブリエラさんの話を聞くに、致命的なまでに社交とか、コミュニーケーションの才能がない。
誰かと接することで過度に気持ちが揺れてしまう繊細な人なのかも。
もしそうなら、確かに、静かな田舎でひっそり好きに生きる方が圧倒的に楽だろう。
私も、実家に居た頃は大体そんな感じだったし、どちらにせよ、落ち着いて過ごせる場所に移って貰った方が、コルドゥラ様にとっても良いのかも知れない。
うーん、人間って難しい。
後日、世間には発表されないまま、ひっそりとコルドゥラはアッヘンバッハ公爵邸を去ることになった。
公爵領の片隅にある、小さな別荘へ療養という名目で居を移した。社交界では様々な噂が飛び交ったものの、やがてその噂も静かに収束していった。
公爵夫人コルドゥラはアッヘンバッハ家に女王の如くに君臨しており、親戚筋から取った夫を始め、他の人々は彼女に家臣の如くに仕えているというのは周知の事実であった。
アッヘンバッハの家では直系の者が実権を握る。
以降、コルドゥラの娘であるガブリエラがアッヘンバッハ公爵家に君臨することとなる。
彼女は実兄であり、フリートホーフ辺境伯でもあるアルバンと共謀し、実母であるコルドゥラを陥れたのだと言われたが……その後、コルドゥラが静かに余生を送ったため、真相は闇の中であったというーー。




