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【140】王宮の女たち


 私の夫はアルバン・フリートホーフ。

 大きくて強くて賢くて優しくて、お金持ちで身分が高くて、顔半分が傷に覆われてはいるが、ベースが凛々しい男前の美丈夫。滅多に妻に対して怒ることもせず、マメにこまめに「好きだよ」と「愛してる」を伝え続ける、釣った魚に責任もってずっと餌を与え続けるパーフェクトな夫である。

 私などがこんな素敵な男性と結婚できたのは何かの間違いでは?

 そう思いはするものの、偶然の積み重なりまたは運命のイタズラで手に入ったこの幸福を手放すつもりはサラサラない。

 私は強欲な人間なので、この幸福、死ぬまで手放したくない。なんならしがみ付く気満々である。

 気持ちとしてはもう開き直って「おうおうおう、金で没落貴族令嬢だった私を娶ったんだ。覚悟は出来てんだろうなぁ?」と悪い反社会的なゴロツキのようになっている。

 故に、強く主張したい。

 私は正妻です! と!

「アルバン様、傷、ちょっとカサカサしていますよ? 薬を塗りましょう」

「え〜? 僕あれ、薬臭いから好きじゃないんだよ。香油じゃダメ?」

「駄目です。薬を塗ります」

「今日、午後からアレクたちと打ち合わせあるんだけど……。」

「薬を塗ります」

「うん。わかった……。」

 いつも通りに、アルバンのお膝の上に乗って仲良く平和にお喋り。

 いつもと違うところはといえば、そんな私に、女官が塗り薬の入った容器をパスしてくれるところ。

 王宮女官の皆さんが、お茶淹れてくれたり、窓開けて換気してくれたり、暖炉の様子を見たりしてくれている訳だが、そんな中で私とアルバンは堂々とイチャイチャしているのである。

 何故か。

 アルバンの血筋が良過ぎるから。

 どうにも、アルバンの証言など諸々を纏めると、私とアルバンがうまくいっておらず、次の子供が期待できそうにないと王宮管理官に判断された場合、色っぽい美女が次から次へとアルバンを狙って送り込まれてくる。らしい。ヒットマンかな?

 幸い、私たちはまだまだ仲良しだし、なんなら蜜月期間。しかして、私の体力がゴミであり、虚弱体質であるばかりに……心優しいアルバンは「ツェツィーリアの体調が良くて、したい気分の時にだけしようね」とおっとり構えていてくれるのである。好き。器がデカい。

 そんな訳で、アルバンの貞操が狙われてしまう! これはピンチ! と思ったので、女官が監視しているのを承知の上でメイクラブ。

 とりあえずこれで、マンネリとかじゃないんだからね! 私が太刀打ちできない美女を送り込んでこないで! という感じで手は打ったのだが……夜の方だけじゃなくそうじゃない時にもずっと仲良しベッタリですよ、とアピールするため、もう女官の皆さんの前でこうしてベッタベタに甘えているのである。

 残念ながら私にはお色気がないので、色っぽいお姉さんが送り込まれてきたら対抗できる気がしない。怖い。アルバンの愛を失いたくない。絶対に。

 なので、事前にそういった事態に陥ることがないよう手を打つのが最善の策であろう。

「そろそろ行こうかな」

「今日はかなり早めに行くんですね」

「うん。産婆の免許制の件、議会でもうちょっと詰めたいみたいでさ。とりあえず、王宮で働く女性スタッフや、家族の女性にもアンケート取ろうって話になったんだけど、議員はおじさんばっかりだし、難航していてね。王妃殿下が仲の良い貴婦人たちにお願いしてそっちでも意見を纏めてくれることになってるから、王妃殿下も今回は議会に参加されることになったんだ。それで迎えが欲しいって話なんだけど、他の王族は軒並みスケジュール詰まってるから、僕はその代理でエスコート役」

「アルバン様なら王妃殿下の甥ですし、身分としても適任ですよね」

「そうそう。議事堂に王妃殿下が入るのは初めてだからさ、一応はフォーマルにいこうって話になって」

「そういうことなら、確かに薬臭いと気になりますよね」

 既にぺとぺと、アルバンの傷に薬を塗りたくってしまった訳だが、どうしようねこれ。

 と、思っていたら、すかさず女官の一人がサッと香水瓶を差し出してくれた。どうやら、ハーブと薔薇の香水らしく、確かにこれなら薬の臭いを誤魔化せそう。有能。すごい。助かる。

「ありがとうございます」

 受け取って、二人でくんくん。どの系統の香りなのかを確かめてから、アルバンの首筋あたりにひと吹き。うんうん、今日もぶっとい首。強そう。健康で良いことだ。

「どう?」

「良い匂いです」

「なら良かった」

 ちゅ。アルバンが私の頬にキスしてくれる。

 下すよごめんね、の合図だ。

 大きな手にそっと体を支えられて、猫のように長椅子の座面に下される。そばに置いてあった膝掛けを掛けてくれるあたり、優しい。こういうところ、本当に好きだなぁって思う。

「今日も絵のモデルだったよね? あったかくしてね?」

「はい。アルバン様も。今日は冷えますから」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃいませ」

 ふたりでホンワカしつつ、行ってらっしゃいの挨拶。ほんのり寂しい。

 何しろ、フリートホーフでは常に一緒なので、仕事だからと離れることがまずない。おまけに、カクトゥス元伯爵の企みのせいで起きた例の事件のこともあり、以降、私は単独行動が許されていなかった。どこかに移動する時にはアルバンかニーナかハインリヒさんが居ないと駄目です、という感じであり、今年のハインリヒさんは次から次へと現れるグリズリー退治のお陰で大忙しであり、主に私の護衛はアルバンとニーナの仕事となっていた。

 けれども、王宮内ではそんなこと起きようもないし……私が承諾したことを受けて、アルバンも身の回りに女官の方々が居ることを許可したため、現在、私一人のために、同じ部屋に六人もの女官が配置されている。多い。やることそんなにないのに。

 しかしこれが身分の高い貴婦人のスタンダード。

 万に一つも、この王宮という場所で辺境伯夫人の身に何かあってはいけないため、武力のない女官のみで固めるとなると六人は必要なのである。

 考え方としては、私の身を狙う暴漢などがいきなり武力にものを言われせて現れたとしても、六人も居れば誰か一人くらいは逃げられるだろうし、逃げずに私と共に拘束されたとしても、誰かが生き残りさえすれば、事件の現場で何が起きたのか証言できる。証人の確保という観点が主であるし……もし、お命頂戴系だった場合は、余り考えたくはないが……私の代わりに物理的な盾となる、というのも想定してのこの人数であるのだろう。

 うぅん、そう考えると、やっぱり武力を持った女性、女騎士って本当は王宮にこそ居た方が良いんだよね。

 身分の高い貴婦人の体と命と名誉を守るとなると、万が一の緊急事態が起きたら、六人前後の女官が犠牲になるのが前提になってしまうんだし。本当なら男性の護衛が居たら良いのだろうけれど、私の身分と性別だと、ルールとしては部屋の扉の外に立っていて貰うのでギリギリとなってしまう。王宮の慣例として、高貴な女性が居る部屋に、夫以外の男性が居るのは余りよろしくないとされてしまうので。

 なんでこんな不便なくらいガチガチなの?

 疑問に思ったのでアルバンに聞いてみたところ、昔、まだ我が国がゴリッゴリの血統至上主義だった時代。不仲な政略結婚夫婦が多数派だったせいで、夫も妻もそれぞれ浮気をしまくっていた。故に、人が集まる王宮で浮気相手を見繕い、借りた王宮の部屋で密会する……なんてことが頻発したらしい。しかしながら、そうなると書類上の家系図は整然としていても、実際には誰と誰が血縁なのがぐっちゃぐちゃ。世代が進むと本人たちが意図せぬところで、近親婚を繰り返したりしかねない。下手をすると、最悪の場合、腹違いの兄弟姉妹と結婚してしまいました、という事故が起きかねない。まあ、結婚ということなら、血が濃すぎると神に誓いが立てられないようだからガード可能として、籍を入れずにエロいことしたら、まあそういうことは起きる。

 国として、王宮としてはそれにどうにかしてストップを掛けたかったので、結果、貴婦人が夫と離れて一人で過ごす部屋には、複数の女官が張り付いて監視することになった訳だ。

 では男性の浮気はというと、正直こちらは防ぎようがない。

 前提として、爵位を継承できるのは原則として男性のみである。貴族家の当主に対して、女官を始めとした王宮のスタッフたちは行動を制限できない。身分に応じて入って良いエリアじゃないので駄目です、というルールを提示するのは可能だが、どこに行くとか誰に会うとかに対しては制限できない。だって爵位持ちだから。

 加えて、そんな爵位持ち、いわば権力のある男性が、無理矢理女官に手を出そうとしたり……なども起きた。むしろそうなると女官が危険であるため、一人行動中の貴婦人に女官を複数付けてガードした方が合理的、ということらしい。なんせ、男女ともに隣に配偶者や目撃者が居る状況では浮気なんて出来ないので。

 故に、その時代の名残として、私には常時、六人もの女官の方々が手持ち無沙汰に控えてくれているという訳だ。

 居た堪れない。

 だって、私が座っていようが寝ていようが、女官は仕事なので立っていなくてはならない。

 やる事がある内はまだわかる。いつもありがとうございますという気持ちであるが、しかし、特に何もない場合、女官はずっと、伏目で黙って立って待機していなくてはならないのだ。

 す、す、座って欲しい〜〜!

 フリートホーフ辺境伯邸では、大体常に、メイドさん達は働いていた。元気よく「おはようございます奥様」なんて言ってくれつつも、くるくる素早くお掃除したりなんだりしていた。ニコニコ笑顔でシュババと動いていたし、たまにだけど、家の中から外を見ると、隅っこの使用人の溜まり場みたいなスペースで座って休んだりしていた。なので、私やアルバンの前ではしないが、仕事がひと段落したら、屋敷の主人の目に付かないところでは休んでいるんだなぁ、と認識していたし、ナースメイドに関しては、育児という特殊性もあって、座っている場面が多かった。

 なんなら、子供部屋、子供達が全員寝ている時とか、乳母とナースメイドが大人用休憩スペースのテーブルについて、お茶飲み飲み産着縫ったりしていた。私やアルバンが入室すると、立ち上がってくれていたし、別に気にしていなかった。アルバンはアルバンで、乳母に関しては「良質な乳をアルビレオに与えるためには、乳母の体が疲れていない方が良いから」という理由で許可していたし、なんかその、ナースメイドに関しては割となぁなぁな感じでついでに許されている。だって、乳母は座って良いけどメイドは駄目だよ、なんてなったら、乳母だってやりにくそうだし。

 いやまあ、余った時間で針仕事してくれていたから当然座ってやって下さいよ、というのはあるのだが、なんか、なんかこう……女官の方々は、私のためにこうして待機しており、裏に下がって休んだり、別な仕事進めるとかも出来ず、ずっと立っていなくてはならない訳で……。

 ど、どうしよう。

 ちょっと聞いてみようかな?

「あの、すみません」

「どうされましたか?」

「失礼な質問だったら申し訳ないのですが、あの、女官の方々は待機中、座ってはいけないのでしょうか?」

 分かりやすくびっくりされた。

 見た感じ、一番のベテランっぽい人に聞いてみたのだけど、目を丸くしている。

「……ツェツィーリア様、それは、わたくしども女官に対する要望、という事でしょうか?」

「えっ、あっ、はい。そうですね」

 とりあえず肯定。

 なんかまた何かのフェーズに入った気がする。

 そうか、これ、私が正式に要請すればいいんだ。私たちはゲストで、女官の仕事はゲストの応対。いわばおもてなし係だから、ゲストが女官に我儘言った、という形式なら承認されやすいのかも。

 でもこれ、勝手に私が決めて、アルバンは怒らないかな?

 いや怒んないな。

 うん。確実に怒らない。

 ちょっとびっくりはしそうだけど、二秒後には「座らせてあげたんだね。確かに、女官が立っていようが座っていようが変わらないし、良いんじゃない?」とか言いそう。

「えーと、私が座っている時、女官の皆さんが立っていると、なんだか落ち着かないので、可能でしたら、特に用事がない時は座っていて貰いたいのですが」

 我ながら、ギクシャクした要望の出し方である。

 あ、合ってるかな?

 これで良いのかな?

 ドキドキしてお沙汰を待っていたところ、女官のリーダーさんはスッと会釈をした。

「承知致しました」

 言うなり、部屋を出て行って、少ししてから背凭れのない丸椅子が六脚運び込まれた。

 座面はビロード張りでややフカフカしてはいるが簡素なもの。が、なるほど、座ってラクそうだと見て分かるタイプの椅子ではよろしくないということだろう。

 それらを、部屋で暮らす私やアルバンの邪魔にならないような、花瓶の乗った台の横とか、柱の影とかにそっと配置していった。

 おお、凄い。家具が六つも増えたというのに、完璧に溶け込んでいるし狭くなった感じがしない。配置が絶妙。

 配置が決まったら、リーダー以外の全員が一礼してからスッと着席。完璧に揃っている。そして静か。お見事。

「ツェツィーリア様、他に何か、お困りのことはございませんか?」

 ぉ、おお、なんか、心なしかリーダーさんの声が柔らかい。

 やっぱり、そんなに高くなさそうとはいえ、ヒールのある靴で長時間経っているとしんどいんだろうな。脚パンパンになりそう。

「ぇ、ええと、特にはありません」

「左様ですか。失礼致しました」

 リーダーさんも頭を下げて、スッと着席。

 実は、相談したいこと、ある。

 これ私だけなのかなって思いつつも、誰にも聞けずにいること、ある。

 でも、今これ質問したら折角座って貰ったのにまた立たせてしまうことになるかもだし……私の、くだらないけど小さく地味な悩み事、もし、他の人はそんなのないよってことだったら、どうしよう、とか思っている。

 王宮の女官に質問してみたいこと。

 それは下着事情について。

 王宮の女官は、王妃殿下や両王子殿下の婚約者はもちろん、他にも王宮に来る数多の貴婦人のお世話をするプロフェッショナル。従って、王宮に泊まる貴婦人達のお風呂やお着替えも手伝うし、貴婦人のスタンダードとは何かを知り尽くした存在であろう。

 だから聞いてみたかった。

 これってなんですか、って。

 座り直す。腰の位置を直す。背筋を伸ばす。これはごく普通だと思う。だが、だがしかし、である。

 背筋を改めて伸ばす、その瞬間に……!

 ギシッ。

 明らかな軋み音。そこまで大きくもないのだけども、確実に鳴っている。ソファのスプリングなどではない。ブラが、鳴っている。

 そう、前から地味に悩んではいた。

 ちょっと動くと、なんか、ブラ、やたらギシギシ鳴る。そんなに大きい音じゃないけど、これ、隣に居る人には聞こえてるのかな? って。気にはなってた。そもそも聞こえてなどいなかった場合、そんなこと言ったら「えっ、鳴ってる?」ってことになってしまうし「ああなんかギシギシいってるよね」って言われたらそれはそれで微妙。というか、私が詳しくないのがいけないのだが、ブラって鳴るのが普通なの? わからない。少なくとも、そばに居るメイドさんとか、他のお家のご令嬢とかから聞こえた覚えはない。

 みんな鳴ってるけど自分にしか聞こえないよ、ということなのか、そんなん鳴ってるのはツェツィーリアだけです、ということなのか……。

 お屋敷のメイドさんに聞くのはなんだか恥ずかしい。彼女たちならいつも通りに「これはこういうことですよ」と教えてくれそうだが、しかし、普通は鳴ったりしねぇよというパターンだったら、その後ずっとそういう女として、同じ家で働いてくれているメイドさんたちに認識されてしまう訳で。

 だから、聞くなら王宮の女官が一番良いんだろうなと思いつつも、聞けない。勇気が出ない。

 何より、これ、すっごいどうでも良い悩みだって自覚あるし。下らないから。

 あともう一つ。

 相談というよりは単なる愚痴なのだけど、ブラの肩紐ってなんでこんな細くなってるの? 食い込んで痛い。もっと幅広にしてくれたら痛くなくていいのに。とか。

 言えない。淑女の話題じゃない。あと、何より……私、貴婦人としてはかなりデカい女だし、体型も、なんか、他の人より逞しいというか、うん。分厚いから、こう、私だけだったら赤っ恥じゃないか! という気持ちから聞けないでいる。背丈もそうだが、しっかりモリモリ食べたせい、だと思う。多分。

 こればっかりは、アルバンに相談した所で答えは出ない。

 断言できる。絶対知らない。

 でも、アルバンは「鳴らないように改良出来るか相談してみれば?」とか「肩紐を替えるだけで楽になるならそれが良いんじゃない?」とか言ってくれるだろう。

 だけど、そういうことじゃないんだ。

 解決策としてはそこしかないのは分かっている。でも、うん、私はこの件に関しては……世の真実が知りたいのだ。解決策を講じたらその時点で真相が分からなくなってしまうので。いや、いずれは仕立て屋さんに相談してどうにかするつもりではあるのだけれども。

 そんなことを考えつつ、何でもないようなツラして、やってきたクサヴェリアに肖像画の下絵を描いて貰う。

 真剣な表情で描いてくれているクサヴェリアに申し訳ない。

 ブラに思いを馳せ続けていたところ、部屋の入り口近くに居た女官の方が、何やらお手紙をスススと持ってきてくれた。

「ツェツィーリア様、招待状でございます」

「どなたからでしょう?」

「バイルシュミット公爵家令嬢シャルロッテ様、並びに、コルネリウス公爵家令嬢ディートリンデ様から、ぜひ午後のお茶を共にとのことです」

「わぁ」

 未来の王太子妃と未来の王子妃のお二人からご招待されちゃったぞぉ。

 辺境伯夫人となると、なかなかどうして、それより身分の高い貴婦人も居ない。だから「肖像画のスケジュールがありますのオホホ」でお断り出来たりもするのだが、公爵令嬢でしかも王子殿下のご婚約者となると、そんな理由じゃ断れない。もう招待状出届いた時点で詰み。行くしかない。

 会ったことない人という訳じゃないからまだマシだけど、ちゃんと喋ったことはない。

 い、行きたくない……!

 めんどくさい。

 今からこれ、良いお高めのドレスに着替えてヘアセットしてフルメイクしていくの?

 予定にない行動、本当に億劫。

 既に女官の皆さんは椅子から立ち上がってお仕事モードである。

「何人くらいがご参加されるのでしょうか……?」

 この状況は余り良いとは言えない。

 私は子爵家の出身。高位貴族の令嬢貴婦人とはほとんど関わりがない。加えて、フリートホーフでの狩猟大会では、スマラクト家やファイルフェン家など、協力的な方々でがっちり脇を固めていた。が、三大公爵家のご令嬢のお茶会となると……多分、交流のない高位貴族の方々ばかりなんだろうな。運が良くて、義妹でもあるガブリエラさんが来ているかどうか。

 大勢の中でのアウェイ、今の私の立場的に、すごく面倒くさい。

 などと思っていたら、招待状を開けてびっくり。

 私含め三人だけの集まりであるらしい。

「こういったことは、よくあるのでしょうか?」

「王宮でも稀なことではございます。しかしながら、シャルロッテ様とディートリンデ様に関してはその限りではございません。お二方は同時に王宮の一室で講義を受ける機会も多いため、親交が深くていらっしゃいます」

「そうなのですね」

「お二方が、他の貴婦人を招かれるのはこれが初めですが」

「わぁ」

 もうアホの感嘆しか出てこない。

 なんだろうな。何の話をしたいのか、見当がつかない。何が飛び出してくるか分からないし、私より身分が上の人だからどうして良いかわからん。何より、これ、関係性としては限りなく親戚に近い立ち位置。というか、本当はアルバンも王族だし、ガチの親戚。なんならもうアルバンは両王子と兄弟同然だから、義理の姉とか妹とかになるわけで……距離感、掴めない。

 駄目だこりゃ〜。何の心構えも出来ない時に対策なんて打てる訳ないからなんかもう……うん。諦めた方が早いかも?

 とりあえず、行かなきゃならないのは確定なんだし、もんどり打って嫌がっても現実は変わらない。更に、もしかしたら、行ってみたらなんてことないじゃん! で終われる可能性もまだ残っているし、行く前から己の嫌度を上げるの、余りよろしくない。

 ……よく考えてみれば、隠蔽していた火竜の首を早とちりで持ってくるなんて空前絶後のやらかしをしてもアルバンは全く怒っていなかったのだし、それに比べたら、私がちょっと社交でトチっても怒りそうにないな?

 傲慢にも「ここまではアルバンに怒られないからセーフ」を学習してしまった。

 女官の皆さんに手伝って頂き、先にお昼をガッツリ食べて、歯磨き洗顔。お着替えしてメイクにヘアメイク。着るものはどのくらいのレベルにすれば良いのかは女官が先方のドレスを確認してくれて、それに合わせて選んでくれる。楽ちんである。

 うーん、思ったよりフォーマル度がそこまで高くないドレス。少なくとも首とか鎖骨とか出さなくっても良いらしい。いつも通り首の詰まった、レース使った真っ黒なドレスに、パールのネックレスと指輪でまあ、いつも通りのスタイル。

 いつも変わり映えしないといえばそれまでなのだが、一応、レースの模様が変わっていたりとかする。

 今日は蔓薔薇模様の黒レース。このドレス、首元はレースだけで、肌の上に黒いレースということになるので蔓薔薇の模様が見えてなかなか可愛い。首元以外は黒い布地の上から全面にレースが貼り付けてある仕様。よく見ると可愛い系。シンプルながらもシルエットが綺麗に見えるからなかなかのお品。だって、全面レース張りだと、素材そのものはそうでもなくても、完成までに人の手が物凄くかかるから。素材を厳選して贅を凝らしたものも悪くはないが、私はこういう手間暇が掛かったものが好み。

 パールは薄紫に見える感じのもの。白に紫の光沢があって、割とフラットな印象の一品。アルバンが私の両親のセールスにまんまと乗せられて、色々沢山購入し、アクセサリー職人に発注しまくったもののうちのひとつ。カラバリ豊富なのが淡水パール。アルバンは全色揃えるつもりで作らせていそうなので、今や私のための淡水パールのアクセサリー、誇張でも何でもなく唸るほどある。

 い、いっぱい服もアクセも作ってくれる夫で助かった……!

 いつどこで何があるかも分からない。

 例えば今みたいなのとか。

 高位貴族がドレスをどのくらい着回しするのかとかは知らないが、とりあえず私はそんなに社交もしないので、毎度違うドレスにアクセサリーなら、少なくとも絶対に恥を掻くことはない。

 いや、正確に言うのなら、それならフリートホーフ辺境伯家の恥にはならない、だな?

 私は結婚前まで後ろ指さされてプークスクスと笑われるのがデフォルトだったし、今更それをやられたって特に何の痛痒も感じないのだけど……でも、私のせいで、アルバンが馬鹿にされたり、嫌な思いをするのは嫌だ。

 何しろアルバンは私を愛しているという奇矯な人なので、私が馬鹿にされると彼は悲しいのである。

 だから、なるたけ馬鹿にされたりしないように……頑張るだけは頑張りたい、と思う。

 上手く出来る気はまるでしないけど。

 と、とりあえず、やるだけはやるか……!




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