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【141】公爵令嬢ディートリンデ


 皆様ごきげんよう。ディートリンデと申しますわ。

 フルネームはディートリンデ・コルネリウス。王国内に三つしかない公爵家の令嬢、そして未来の王子妃でございます。ちなみに、三人姉妹の次女。男兄弟は居ませんが、姉が婿を取って家を継いでくれるため、実家は安泰です。

 偶然ですが、私はたまたま、姉や妹よりやや顔の出来が良かったので、お父様が「じゃあディートリンデが第二王子妃ね」とお決めになられたのです。

 貴族令嬢とは、楚々として慎ましく、物静かで穏やかで、小鳥のような声で喋り、体は細く軽く薄く華奢であり、体重も軽く身長は小柄で愛らしく……というのが理想形ですわ。

 そして、私はたまたま「子鹿のように愛らしい」と言われる体型であり、声もそれなりであったので、色々な方々からそのように誉めそやされて育ちました。なので、それに関しては本当に得だったと言えましょう。本来なら。

 こんな容姿、クソ喰らえですわ〜!

 私は昔から、別荘に居る間はずっと、広大な庭を駆け回るのが好き。裸足で芝を踏んで息が切れて動けなくなるまで走りたいのですわ。可能なら毎日。そうでないなら、馬に乗りたい。遠くまで駆けたい。疲労困憊で落馬直前ギリギリまで乗りたいのですわ。横向きの、女乗りで。犬と遊ぶのも良いものです。フリスビーを投げて取って来させるのは勿論、犬に声を掛けながら自分も走って、同時にちょっとした障害物をジャンプして乗り越えたりして、筋肉痛で眠れなくなるまで遊びたいのですわ。出来ることならば毎日。

 ですが、私は「妖精のよう」とか言われる容姿で生まれてきたのです。どうしても、コルネリウス公爵家令嬢として、第二王子アロイスの婚約者として注目されてしまうのです。

 家の恥に、王家の恥にならぬよう、子供の頃から細心の注意を払って、分厚い猫を被りながら生きて参りました。これからもきっとそうすることでしょう。

 模範的かつ理想的な貴族令嬢という立場は何かと得がございますので。

 ですので、私は慎重にその秘密を守ってきたのですが、10歳になったあの日、婚約者であるアロイスはニコニコ、お面のような笑顔でいきなりこう切り出したのです。

「ねぇディートリンデ」

「なんでしょうアロイス様」

「この間、君がコルネリウス家の別荘で犬と一緒にぶっ倒れるまで裸足で走ってたのを見ちゃったんだけど、面白かったから言いふらしても良い?」

「……アロイス様」

「みんなはディートリンデのことを鈴蘭とか雛菊とか呼んでるけど、本当は野薊だって知ったらどう思うだろうね〜!」

「墓前のお花は何がよろしくて?」

「じゃあ雛菊かな? ディートリンデ、君って思ったより面白いんだね。退屈な令嬢に当たったってがっかりしてたけど、これから楽しめそうだ」

「おくたばりあそばせ!」

 扇子を投げ付けたところ、それは見事にアロイスのこめかみにヒット致しましたわ。アロイスはというと……あの悪魔は大爆笑。

 それまでは婚約者である私に対して一欠片も興味など無かったというのに、あの日以来……あの悪魔はしつこくしつこく、衆目の前で私の猫を剥ぎ取ろうとするのです。

 故に、私は口内炎が十個くらいアロイスの口に出来て欲しいと常に祈り続けているのです。

 私とアロイスの結婚は生まれた直後に決められていたことでした。

 三つの公爵家はいずれも、元は王家の分家。過去の国王陛下の兄弟で、特に優れた功績のあった人がご先祖です。家が別れて以降も、パワーバランスを保ち、ある程度の血統を保持するために、三大公爵家に生まれた令嬢は王族の男性と結婚するのが習わしです。とはいえ、生まれたタイミングによって、王族と結婚するか否かは変化します。

 例えば、アッヘンバッハ公爵家。

 あちらに関しては、現在の王妃殿下アッヘンバッハ公爵家の出身であるため、歳の頃が私より少し下とはいえ、王子とも婚姻可能な年齢のガブリエラ様が居るも見送りです。従兄妹は結婚可能ですが、血が近過ぎる上に、アッヘンバッハに権力が偏るのを防ぐためです。

 今回、私たちの世代で最優先となるのはバイルシュミット公爵家。

 あちらはバイルシュミット公爵家令嬢であるシャルロッテ様が王太子アレクサンダー殿下とご婚約。

 何故ならバイルシュミット家の姫が王家に嫁いだのは二代前の国王陛下の時が最後。

 本当なら先王陛下の時にバイルシュミット家のご令嬢が嫁ぐのが理想的だったのですが、婚約式で神のご意向によりご成婚ならず、当時のコルネリウス家の令嬢が王妃となられたからです。

 私たち公爵家始め、身分の高い高位貴族や王家の婚姻によくあるのが「神のご意向により婚約・婚姻が不可能」という現象です。

 市井の人々の間でも稀にはあるようですが、それは大半の場合、本人達が知らないだけで血の繋がった兄弟姉妹であったり、というパターンですが、身分が上がると、そういった近親相姦の可能性が皆無の間柄であろうとも結婚できないという現象が起きやすいのです。原因は不明ですが、神の意思に逆らうことは不吉とされているため、その場合は縁談を組み直さねばなりません。

 そのため、高位貴族、特に王家の公爵家の監修として「婚約式」というものがあります。

 結婚の前、婚約を神に誓うと同時に、婚姻可能かどうかを司祭を通じて神に伺う儀式です。

 過去には、とある王子が神の意向により婚約を拒絶され、当時の年齢が釣り合うご令嬢と、身分が高い順に婚約しようとしたが、四十回以上も拒絶され、結局、とある伯爵令嬢と婚約することになった、という例もある程です。その時にも理由は不明でしたが……それは極めて稀な例です。千年を数える王族の歴史でも、四回しか起きておりません。

 私たちの世代ですと、王太子アレクサンダー殿下、あの悪魔アロイス、そして辺境伯アルバン卿と、三人もの白銀が同時に生まれているが故に、これは縁組が難しいのでは……と言われていたそうですが……全員、すんなりと決まりました。

「僕らさ、直接神に聞けちゃうんだから、候補が居たらその時点で聞いちゃえば良いんだよ。いちいち婚約式やってダメでした、ってなったら段取りしても無駄になるし、婚約式ってパーティーもセットなんだから予算の無駄。教会は儀式を軽んじるなってゴチャゴチャ煩いだろうけど、僕ら自分たちで勝手にやれるんだから。黙ってやっちゃえばいいんだって。タダなんだし」

 当時、少年だったアルバン卿はそう言ったそうです。

 白銀は生まれつき神と繋がっており、誕生したその瞬間から司祭を兼ねます。なので、アルバン卿始め、白銀のお三方はそれぞれ、ご自分の婚約者候補や想い人と婚姻可能かどうかを直接ご確認され……私はアロイスの婚約者に、シャルロッテ様はアレクサンダー殿下の婚約者になりました。

 関係者の誰もが「数十回は弾かれることを覚悟しよう」と思っていたそうですが、結果は拍子抜けでした。

 そうして、私は国のため家のため、分厚い猫を被ってあの悪魔アロイスの婚約者となり、三人の白銀の貴公子たちと、シャルロッテ様と共に王宮で教育を受けることになりました。六歳の時に始まったそれは今日でも続いています。

 最近ではアレクサンダー殿下やアロイスは公務のために勉強の時間が余り被らずにおりますが、シャルロッテ様とはずっと一緒です。

 シャルロッテ様は絶世の美女。社交界にて赤薔薇姫と呼び名も高い、燦然と輝くような美貌をお持ちでいらっしゃいます。

 そんな方が王太子妃、いずれは王妃となられるという事実はーーシャルロッテ様に足を向けて眠れないほどに感謝しております。大変助かります。

 私も周囲から口々に誉めそやされる美姫ではございますが、私が雛菊とか鈴蘭とか妖精とか、イメージがあやふやな程度の地味な美姫であるのに対して、シャルロッテ様は身も心も美しく圧倒的な、派手でオーラのある絶世の美姫です。

 自然、私たちが並ぶと全ての注目はシャルロッテ様とアレクサンダー殿下に向かうため……私はとても気が楽です。私よりも美しい方が同世代に、それも公爵令嬢として生まれて下さったことには心より感謝しております。

 何をするにも注目は全てシャルロッテ様に向かうため、私は年に一回の休暇で別荘に行き、筋肉痛になるまで走り回れるのです。休暇中にまで注目されるのは全てシャルロッテ様。本当に有難いことです。

 更に、私が幸運なことが、もう一つございます。

 やはり同世代に、シャルロッテ様と並ぶ圧倒的な美女、絶世の美姫として、ツェツィーリア様が居るということです!

 ツェツィーリア様はグリンマー子爵家の出身。下位貴族とはいえ由緒正しきオールド・クラシックのお家柄。血筋だけならそこらの侯爵家に引けを取りません。昔からアルバン卿には好きな女性が居るとは聞いていましたが、それがまさか、ツェツィーリア様だったなんて! 素晴らしいことです!

 ツェツィーリア様は子爵家の生まれでありながら、なんとアルバン卿に身染められてのお輿入れ。持参金も要らないから嫁いでくれと熱烈に乞われてのご成婚。これだけで話題性が満点。

 しかも、魔力なしの黒髪黒目。黒い髪と瞳はそれだけでも目立ちます。

 加えて、その身長の高さ! 最高ですわ! 物理的に目立つ! どこからでもよく見える!

 おまけに、髪と瞳のみならず、特異体質のせいで常にドレスも黒! 頭からすっぽりヴェール! その下には猫のような瞳の凄まじい美貌! 

 トドメとばかりに、先日はアルバン卿の無実を訴えるために火竜の首を持って参内。夫のためなら首を捧げるのも厭わぬあの賢夫人としてのパフォーマンス! 話題性しかない! 注目の的!

 ああ、私、あの悪魔と結婚しなくてはならないのは面倒だけれど、シャルロッテ様とツェツィーリア様と同じ世代に生まれて来られて、本当に良かった……!

 私の貴重な羽根伸ばし休暇は、あのお二人が居る限り脅かされることはないでしょう。ああ、無難で地味なタイプの美姫に生まれてきて助かりました。

 そのような理由がございますので、私は幼馴染でもあるシャルロッテ様が大好きですし、ツェツィーリア様にも興味がございます。

 なので、シャルロッテ様と共にピルツ議長からお願いごとをされた際にも、二つ返事で了承致しました。

 とはいえ、それなりの理由と事情を説明されたからこそ、ですけれど。

「シャルロッテ嬢、ディートリンデ嬢、お二人にはツェツィーリア夫人のお人柄を見極めて頂きたい」

 真剣な表情で切り出されたピルツ議長に、優秀なシャルロッテ様も戸惑っておられるようでした。

「辺境伯夫人には先日、既に議会による聞き取りが行われたと伺いましたが」

「その通りです。議会は既に、フリートホーフ辺境伯夫妻との対話をしている。その上で、我々は新たな取り組みを考えているのです。我が国の今後三百年の進退を賭けた、大きなプロジェクト。その草案がある。これは何としてもやらねばならぬ今後の課題。しかし、今すぐ実行可能であるかどうか、それは辺境伯夫人に掛かっているのです」

「それは、私たちでは不足、ということでしょうか?」

「いいえ。違います。断固として否定します。シャルロッテ嬢、並びに、ディートリンデ嬢、貴女がたには貴女がたにしか出来ない仕事がある。お二人とも兼ねてより、厳しい王宮教育に耐え、今もって研鑽を続けておられるのは議会も知っています。役割の問題なのです。王太子妃には王太子妃の、王子妃には王子妃の仕事と、その本分がある。更に言うのであれば、能力としての種類の違いです」

「どのような意味でしょうか?」

 怪訝な顔をするシャルロッテ様に対して、ピルツ議長は言葉を濁さず言った。

「辺境伯夫人は、アカデミーに入学していません。ですが、彼女はあのアルバン・フリートホーフの妻なのです。愚かで無教養な人間を蛇蝎の如く嫌い、無分別な相手をウジ虫程度にしか思っていないあのアルバンと普通に会話している。今も離婚の気配すらない」

 ハッとした。

 私たち五人は、アルバン卿が辺境伯家の養子に入るまでは関わりが深かった。一時期は五人で王宮の教師に習っていたこともある。尤も、アルバン卿は飛び抜けて優秀でいらっしゃったから、アカデミーにも早期入学して、アレクサンダー殿下やアロイスよりは過ごした時間は短いけれど、それなりに顔を合わせて会話する機会はありました。

 彼は、私たち王子の婚約者とは会話することもあったけれど、他の令嬢とは一切喋ろうとすらしませんでした。

 あからさまに他の令嬢を無視するアルバン卿を、シャルロッテ様が一度、嗜めたことがありましたが……彼は「だって君たち以外の女性は全部、会話が成立しないから」と返していましたっけ。

「辺境伯夫人……ツェツィーリア夫人は、はっきり言って異質です。無論、良い意味で。彼女はアカデミーに通わなかった。他の、一般的なご令嬢がアカデミーで魔力制御を学ぶ間、全く別な系統・分野の学習を続けていたのでしょう。よくお聞きください。シャルロッテ嬢、ディートリンデ嬢。夫人は、自らの資産と人脈を駆使して、数百名に及ぶ人員の配置と役割を割り振り、火竜の首を自己判断で王宮まで運んだのです。議会で聞き取りを行いましたが、調査の事実と本人の証言にも齟齬はなし。現時点で……彼女は国内で最も優れた兵站輸送指揮官なのです」

 言葉が出ませんでした。

 私も、シャルロッテ様も。

 アカデミーに入学もせず、子爵家が教育の質を上げるのは難しいでしょう。

 私たちのように王子妃としての教育を受けた場合は例外ですが、裕福とはいえ子爵家が令嬢のために高度な教育を授けられる教師を探すことさえ困難です。そもそも下位貴族の令嬢に教えようという教師など居ません。

 私たちは国内で最高水準の教育を受けた令嬢という自負があります。ですが、そんな私たちであっても、ツェツィーリア様のやった事が出来ない。

 更には、議会が、ピルツ議長が認めたということ。現状、どこでどう教育を受けたのかさえ不明な女性が、この国で軍事に関わるすべての男性よりも優れているというと。

「アルバンは我々の前で断言しました。夫人は自分より頭が良い、と。これは国にとって喜ぶべきことです。国防に於いて最も懸念のある北側に、白銀の辺境伯と、国内で最も優れた兵站輸送技術を持った指揮官が居るのですから。夫人さえ居れば、アルバンは前線に赴き自由に動ける。しかし、あの能力はそれだけに脅威です。辺境伯夫妻がその気になれば、力だけで国が獲れてしまう」

「アルバンはそんなことをしないと、議会もご存じでしょう!?」

 シャルロッテ様が悲鳴を上げるように叫んだ。

 アレクサンダー殿下とアルバン卿は特に仲が良い。その関係で、シャルロッテ様もアルバン卿との関わりが深い。大切に思っておられるはず。

「その通り。アルバンは何があっても王家に牙を向くことはないでしょう。しかし、夫人は違う。彼女は夫のためなら、王宮にフリートホーフの精鋭兵三百人を、一日半で謁見の間まで運べるのです。もし、万が一、王家が陰謀によって足元を掬われ、その何者かが王家の仕業だとして、アルバンの身を脅かしたら? 夫人がそのような局面に置かれた場合、どのような選択をするのか。そこで、国の運命が決まってしまう」

 ピルツ議長が、何故私たちに頼み事をしたいのかがやっと分かった。

 これは国家の存亡を賭けた社交なのでしょう。

 シャルロッテ様と私は、ツェツィーリア夫人からの信頼を勝ち得なくてはなりません。

 もし彼女が王家や王宮を疑うような局面に立たされても、その力を奮うことがないように。

「……わかりましたわ。謹んでお受けしましょう」

 そうして、シャルロッテ様がお茶会のご招待として、ツェツィーリア夫人に宛ててお手紙を出したのですけれどーー。



「そう! そう! 鳴るわよね!?」

「ですよね! 鳴りますよね!」

「ねぇディートリンデさん。私、ちょっと姿勢を変えてみるわ。聞こえるか確かめて」

「何も聞こえませんわ……?」

「よ、良かった……! 本当に聞こえないのですね?」

「正直に言ってディートリンデさん。本当に聞こえないのよね? 安心して良いのよね?」

 お茶会を開始して三十分しか経っていないのですが、シャルロッテ様とツェツィーリア夫人が既に貴婦人としての儀礼を捨てて打ち解けていらっしゃいますわ。

 最初は、無難なご挨拶で始まりました。

 シャルロッテ様はアレクサンダー殿下とアルバン卿が兄弟のように仲が良く、いわば私たちも親戚のようなものだから、と建前を作りつつも自然かつ優雅な態度で接しておられましたわ。

 それから、フリートホーフ領の暮らしなどについての雑談が続き、シャルロッテ様が中心となって、ツェツィーリア夫人の知識の種類と深さ、そして考え方などを推し量っておられましたが……頻繁に「夫が優しいので」と惚気が挟まっていましたので、シャルロッテ様はこれ幸いとばかりに切り口を変えましたわ。

 要はツェツィーリア夫人が、アルバン卿の身に今回のような事件が起きて火の粉が降り掛かった場合にどうされるか確かめたいということですので、所謂恋バナを期待して「女性同士ですし、何でも話して頂きたいわ」と。

 そうしましたら、ツェツィーリア夫人はこう仰いました。

「では、一つだけ……お聞きしたいことがございます」

「あら、何かしら?」

「これは、家のメイド達にも、女官にも、聞けなかったこと、なのですが……。」

「うんうん」

「ブラって、ギシギシ鳴りませんか?」

 物凄く真剣な表情で、ツェツィーリア夫人はそう仰いました。神妙な表情と空気で。

 沈黙。

 私はこれまで一度も下着が鳴ったことはございませんし、何を言っているのか理解さえ出来なかったのですが、シャルロッテ様はふるふる小刻みに震えて……それから、しっかと、ツェツィーリア夫人の手を両手で握りました。

「そうよね!?」

 シャルロッテ様のいつにない力強いお返事に、ツェツィーリア夫人からもパァ、と明るい雰囲気が漏れ出しましたわ。

 巨乳がなんか通じ合っていらっしゃいますわね?

 そうです、この貴族社会に於いて、淑女は軽やかで儚げ、小柄かつ頼りなげな体つきが理想とされます。私はまさにそれに該当するのですが、ツェツィーリア夫人は高身長で、露出ゼロの真っ黒なドレスの上からでもお胸がはっきり分かるほど。

 シャルロッテ様はサイズがツェツィーリア夫人ほどではないものの、お立場上、首や肩、デコルテを出すドレスをご着用される機会が多いため、お胸が豊かなのが目立ちます。シャルロッテ様はバイルシュミット公爵家の令嬢であり、王太子妃が内定しておられ、ご本人も絶世の美姫と名高く、人格にも品性にも優れているため、悪口を言う方も居ませんが……お胸が豊かな女性は、奔放だと言われてしまうものなのです。

 私のような華奢で薄く細くの体型は上品で慎ましやかとされますが、お胸がしっかりあったりすると、大胆で奔放、時には淫らとさえ言われてしまいます。

「やっぱり鳴るものなのね!?」

「シャルロッテ様もなんですね。私だけでなくて、良かったです」

「同じ悩みを持った人から聞けて良かったわ。私も以前から心配だったの。でも、自分以外には聞こえないとわかって安心したわ」

「あと……シャルロッテ様は、ブラの肩紐ってどうされてます? 食い込みませんか? もっと幅広にすれば改善されるのではと……。」

「きゃー! 同じよ同じ! 考える事は一緒ね。私はね、ブラの上から着けられる、サポーターを特注したの。肩の出るドレスの時には無理ですけれど、こう……胸の下側や横を支えてくれるもので、伸縮性のある生地を使って……肩紐の上から更に幅が広くて柔らかい生地のものなの」

「そうなのですね。それを使ったら楽になりますか?」

「ワイヤーは食い込むけれど、肩は楽になるわよ。後で女官に言ってツェツィーリアさんの部屋に一枚、未使用のものを届けさせるわ。お店も紹介するわね!」

 ワイヤー……知りませんでしたわ。お胸が大きいと、ワイヤーが入りますのね。私のものは布とレースだけで作られていますし、知りませんでしたわ。他のご令嬢もきっと私と同じ筈ですわね。

 いいえ、でも、よく考えてみたら、どこからが境界線なのか私、全く存じ上げませんわ!?

 いつもの仕立て屋にお願いしているだけで、そんなにも個人差があるなんて考えもしませんでしたわ。気になりますわね。

「ありがとうございます! 助かります! えっ、サポーター、シャルロッテ様はご自分で考えられたんですか?」

「そうよ。以前、ダンスパーティーが月のものと被ってしまって、疲れ果てて休憩していた時……アレクに、胸をテーブルの上に置いているのを見られたのよ。いつもはそんなことしないのよ? でも、あの時は本当に、もう体が重たくって」

「わかります。疲れ果てている時ってそうですよね」

「それで、アレクがその時、二人きりだからって後ろから胸を掴んできたのよ! 俺が支えてやろうか〜? ですって! 馬鹿にしてっ……! 腹が立ったから頬に一発平手を入れてやったわ!」

「それはっ……! イラっとしますよね?」

「でしょう!? 私は胸がこんなだから、何か一つでも失敗したら、淫らでだらしない女だと言われると思って、常に気を張っているのに!」

「お察しします。未来の王太子妃となると、嫌が応にも注目されてしまいますよね」

「ツェツィーリアさんはどう? やっぱり、視線が気になるかしら?」

 シャルロッテ様、意気投合し過ぎて様呼びが崩れていらっしゃいましてよ!?

 私たち、ツェツィーリア夫人に心を開かせて本音を聞き出さなくてはなりませんのよ!?

「そうですね。私は常日頃からずっと、このような格好ですし、特にそこまで注目された覚えはないです。黒一色で露出がないので、誤魔化しが効くのだと思います」

「嘘よ!」

「それは、ご無理があるかと……!」

 いけませんわ。私までついつい、シャルロッテ様と揃って会話に参加してしまいましたわ。

 ですが、ツェツィーリア夫人のサイズだと服の上からでも丸わかりにしかならないと思いますの。周囲から気付かれないのは無理が……いえ、むしろ、あの謁見の間での男性陣の挙動……まさかとは思いますが、布に覆われているだけで男性の大半は胸のサイズの判別が付かない疑惑ございますわね!?

「ですが、私はこれまで、ありとあらゆる悪口や陰口を浴びせられて参りましたが……胸については一度も言われたことがございませんし、その……嫁いでから初めて、デコルテの出るドレスを着たのですが、その時にやっと視線を感じたくらいなのです」

 男どもがクソバカでございますわ!?

 女性なら、誰が見たって、初対面でツェツィーリア夫人のお胸がしっかりある事は分かりますわ!

 服の上から、しかも目立たなくなるような形状のドレスでも尚分かるくらいですし、これは本当は相当……と思うレベルですのに、男にはわからないだなんて…節穴にも程がありませんこと?

 きっと、女性がそれを言わなかった点については、武士の情けということでしょう。女性ならではパーツ、お胸やお尻についてのことを口にするのは、幾ら意地悪な性格であっても淑女として許容出来ないものでしょうし。

「……ありそうね。確かに、私も、余り機会はありませんけれど、そうね。喪服……を着た時には胸に視線を感じませんでしたわ。覆えば良いのね?」

「恐らく……ですが、アルバン……夫のような男性には通用しないと思います。毎朝窓辺に来る小鳥の個体識別をするくらいなので、布一枚で誤魔化されないかと」

「あれは例外よ。ツェツィーリアさん、その、嫌かも知れないけれど、私よりその……大きいわよね」

「……僅差ですが」

「僅差ではないわよね?」

「僅差ということにして頂けませんか?」

「……いいわよ」

 ひと周りは違うのですが。僅差という言葉の定義が揺らいでいますわね?

 ギリギリ僅差という形容詞にかからないぐらいの差ですわ〜!

「でも、これ、後でアレクに聞いてみても良いかしら? 服装の大体の印象でしか判断していないのだとしたら、今後のドレス、私もちょっとデザインを変更したいのよ。王太子妃の間は無理かも知れないけれど、王妃になったら切り替えて、ツェツィーリアさんのように首元まで覆う形に変えたいわ」

「シャルロッテ様、ツェツィーリア様、私も……アロイスに質問してみてもよろしいでしょうか? 結果は共有致しますわ」

「ぜひお願いします」

「そうねアロイスにも聞いた方が良いわね」

 そこから、濃厚な女子トークを致しましたわ。

 最初の計画とは大幅な変更がございましたけれど、心からの親睦を深めるという点に於いては大成功。アルバン卿に纏わる昔話などもして、ツェツィーリア夫人が心から卿を愛しておられる惚気もきっちり聞きだしましたわ。仕事の社交とはいえ潤いましてよ。他人の恋バナほど楽しいものってありませんわ〜!

 途中、ツェツィーリア夫人がヤキモチを焼く場面もありましたが、ご本人の能力に対して、かなりお可愛らしい性格の方なのは分かりましたし、人格としては問題がないものの、やや騙され易そうなお人柄とだけピルツ議長に報告すれば良さそうですわ。



「ディートリンデ、何を書いているの?」

「アロイス様、ハンカチをお持ちになって?」

「何のために?」

「決まっていますわ。人の手紙を覗き見しようとした痴れ者の鼻血を拭うためでしてよ」

 油断も隙もございませんわ。

 ノックもなしに婚約者の部屋に勝手に入ってくるなんて、第二王子としてマナーがなっていませんことよ。万死に値しましすわ!

 書き損じの生乾きのインク付き便箋を顔面狙ってぶち当てたかったところですが、風魔法で防がれましたわ。シット!

「ところで、アロイス様。今日、シャルロッテ様と、ツェツィーリア様をお招きしてお茶をしましたの。そこで思ったのですが……お二人のうち、どちらの方がお胸が大きいと思いますか?」

「そりゃあ、勿論シャルロッテさんじゃないかな?」

「え」

「ツェツィーリアさんは別に普通じゃない? 比較対象がおかしいよ」

「ク、クソバカでございますわ!!!!!」



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