第七十一話 轡を並べて
魁世は惟義と馬のクツワを並んで進む。後ろには属領南奧州軍の兵士たちが整然と歩いていた。
惟義はふと思い出したかのように呟く。
「そういえば、おれ達の企みが宮廷にバレたかもしれない」
「え、まじ?」
「うむぅ、マジだ」
話は惟義が皇帝に開戦の詔を願い出ようと帝都帝城を訪れていた時に遡る。
惟義は宮廷の豪華に飾られた廊下を歩いていると不意に後ろから声をかけられる。
「もしかしてシマヅ男爵殿でいらっしゃいますか」
振り返ると軽装の鎧を着た三白眼の特徴的な女性がいた。髪をかなり短めに切っていたこと、鎧を着ていたことで最初は性別がわからなかったが声は間違いなく女性だった。
「うむ、ではなくて、はい。惟義です」
惟義は人物の着る鎧を側見る。胸部に小さく草花の意匠があり、男装の麗人を思い起こさせる。
「いきなり失礼いたしました。わたしはしがない一騎士であります。異種族から帝国を救われた英雄に出会えたとあってお声かけさせていただきました」
惟義は群蒼会の男子の中でも身長が高い方だが、目の前の女性は頭頂が惟義の額であり、かなり背が高い。
「英雄なんてことは無くて、おれが今こうしているのは仲間たちのおかげなのだ」
「ほおーそうなんですかシマヅ男爵殿」
「うむ、おれはあくまで表で動く顔役だ。それと、男爵と呼ばれると変な感じがするので惟義と呼んで欲しい」
三白眼の女は目をそばめて応じる。
「ではコレヨシ殿と呼ばせていただきます。そういえばコレヨシ殿はドラクル公と戦おうとしていますが、勝算はあるのですかな?」
その言葉に惟義は頭に疑問符を浮かべ、素直に聞いた。
「質問に質問で返してすまぬが、どうして戦おうとしていると分かるのだ?」
「なんとなく、です」
「そうなのか…」
惟義はつい先ほど皇帝に開戦を上奏したが、謁見の間に目の前の女性は居なかったと記憶していた。
「引き留めて申し訳ありませんでした。それではさようならだにゃー」
「うむ、さらばだ」
にゃー?
……
…
「それ絶対バレてる。名前は聞かなかったか」
「うむ、聞いておらん。いつの間にかいなくなっておった」
魁世は思う。宮廷の貴族たちが全てを了解済みで惟義を送り出すことはあり得るだろうか?もし知っているとしてどこまで知っているのだろうか?皇帝しか知らないはずの魁世たちが別の世界から来たことまで知っているのか、それとも単に功名欲しさで戦おうとしていると思われているのか、分かりようが無い。
「僕らは本当に何も知らない。困ったな」
群蒼会は諜報能力と防諜能力が欠けている、欠陥は埋めなければならない。だが今の魁世にはどうしようも無く、もし帝国宮廷やドラクル公が全てを知っていたとしても今更だと諦める。この戦いが終われば本格的に対策をはじめよう。魁世は未来の自分に丸投げすることに決めた。
惟義は話を変えるように主任参謀の魁世に問う。
「明可が吸血姫エルジェベートの参戦を断ったそうなんだがアレでよかったのか」
「あれでいいさ。惟義たちには今後のためにも英雄になってもらわないといけない。上位存在の力を借りてはいけないんだ。そもそも」
「そもそも?なんだ」
「吸血姫は別の生き物だ。何百年と生きてきた強者が、僕ら何十年しか生きられない生物と価値観が同じとは考えにくい、擬態している可能性すらある。そういう存在が、僕らになんの見返りもなく協力してくれる筈が無いだろ。なにを要求されるのか知れたもんじない。あとな、一回強大な力を持つ一個人の戦力に依存して仮に勝っても、今後も協力できるとも分からない。信用も難しいだろ」
魁世の弁に惟義はそんなものかと納得した。




