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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第三章 龍公討伐

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第六十八話 開戦工作Ⅲ

 時間、猶予が無いのは惟義や魁世たち群蒼会の方だった。

 ドラクル公らの異世界委員会は既に主要の国々を支配している。もし異世界委員会が傘下の国の軍を率いて攻めてくれば魁世たちは逃げることは可能かもしれないが、安定した豊かな生活を送れなくなることは必至である。友好関係、せめて不可侵を結ぶにはまずは対等な立場となる、そのために群蒼会はいち早くドラクル公を斃して自分たちの力を彼ら異世界委員会の連中に見せつける必要がある。

 これは群蒼会の全体会議で雨雪から出された考えだった。あくまで今回の対ドラクル公国戦はその後の異世界委員会との対等な交渉のための手段に過ぎない、勝っても負けても膨大な資金と人的資源の費やされる戦争は本来なら避けるべきことであり、最終的な手段であって目的では無い。

 雨雪としては至極当然のことをわざわざ言って聞かせて全体に共有していた。それは一種の懸念から生じた行動だったのだが、一番伝えたかった人物に伝わっていたのかと言えば、伝わってはいたがその人物の思考が変えさせることにはならなかった。


 群蒼会の面々の動静が細かく記された“朽木文書(くちきもんじょ)”には当時の魁世の発言も記述されている。


「これは絶対戦争だ。思想戦争とも言えるだろうね。つまりドミトリーズ世界政府という空間移動もできる超技術を持った超勢力を“天災”と捉えて身を任せる集団と“敵”と認識して対抗しようとする集団の互いの原理を懸けた戦いなんだ。

 だから戦いはドラクル公に戦場で斃しても終わらない。異世界委員会という僕らと似た境遇を持つ集団を完全に屈服もしくは壊滅させてもなお終わらない。脅威となる存在を無くさない限り僕らは戦い続けなければならない。

 もしそれが嫌になったら()めればいいし辞めればいい。だが早紀さん、それはいつ僕らを殺しにくるか分からない連中が居続けることを意味するよ」


 ……

 …

 かつてのウル・ハム国の王城、帝国との共同侵攻で略奪と破壊の末に廃されたはずの城、現在は帝国と公国を結ぶ交通の要地にある廃墟となっていた。

 ドラクル公国がその廃城を復旧して要塞化させている。宮廷上層部にその報をもたらしたのは北方辺境伯だった。


「どういうことだ?北方辺境伯は裏切っている可能性が大なりではないのか?」


 惟義は純粋な疑問を魁世に投げかける。


「その辺の宮廷での権謀術数は帝都に顔を出している惟義にしか分からないだろ」


「知らん!知らぬものは知らん!」


 ああ、やっぱ惟義には常に側にいる参謀が必要だよな、うん。こういうのは僕らの参謀長がやってくれると良いんだが透は“ものぐさ”だし向いていない。ここは人材発掘のプロ、今荀彧(じゅんいく)の斎藤操さんにお願いするか


「兎に角これで透の言っていた戦う条件が揃った。あとはおれが代表して皇帝陛下に開戦の(みことのり)を発するよう上奏して、その先兵に南奧州軍を願い出る」


 なお帝国と公国の国境付近で工作活動を行っていた明可や直は要塞化を察知しており、既に群蒼会では共有されている。惟義が明可たちの情報を元に帝国宮廷にドラクル公国の脅威を伝えることもできたが、両国の村をつかっての開戦工作が終了していなかったからである。また公国と南奧州が隣接しているわけでも無いのにどうして惟義が知っているのかと余計な勘繰りを受けないためである。


「ケンボージュッスウは無理だが、事前に用意した話を話すことはできる」


 それでは行ってくる、そう惟義は言って宮廷へ参内するために帝都へ向かった。



 惟義に前の世界で謂うとことの遊説家の才能は無い。だが実直な姿が宮廷上層部からは評価されており、惟義自身も自分が口下手であることを悪いとは思っていなかった。


「惟義が開戦工作の最後の一幕を飾ってくれた。今まで華子が醸成させてきたドラクル公国脅威論、国境での小競り合いと村人を串刺しするという強烈な事件、旧ウル・ハム国の城を要塞化するという懸念事項。これで宮廷の貴族も戦う気になった、そして戦争の尖兵として僕らだけで戦うことにもなった。宮廷の皆さんは負けたら串刺しの恐怖があったんだろうし、単純に南奧州軍を使い倒してしまおうって腹かもしれない」


 魁世は深夜に執権執務室を訪れていた。既に大半の本庁詰め官吏は帰宅か酒屋に繰り出しており、執権執務室にだけ煌々と明かりがついていた。

 雨雪は机から身を乗り出して聞く。


「報告は別に直接しなくてもいいのよ。たまたま残業だったから会えたけどもし居なかったらどうするつもりだったの」


「そりゃあ明日の始業時間まで待つさ」


「…そう」


 そうして魁世は鞄から書類を取り出す。黒檀の机に置かれたソレには“緊急時マニュアル”と書いてあった。


「なに、これ」


「僕らがドラクル公に敗北し、帝国が滅びそうになった時の行動計画だ」


 雨雪は手にとってざっと眺める。


「負けるつもりは無い、そう言ったじゃない」


「とは言っても万が一のことがある。戦場で負けたら僕や惟義たちはドラクル公に撤退も許されずに討ち取られるだろう。その時は秘密同盟の黒耳長人(ダークエルフ)の地に逃亡して欲しい。援軍の出した仲だ、悪いようにはしないだろうさ」


「そうならない様にするのが貴方の役目でしょ、私だって貴方が勝てると言ったから本来なら別の用途に使う財源を戦争に費やしているの」


「戦争は何が起こるか分からないんだ。このくらいのリスク回避は当然だ」


「リスク?負けることがリスクではないの?それとも今更自信が無くなった?」


「あのな、リスクは雨雪たち後方にいるメンバーの安全を——」


「なに?私たちの存在がリスクを伴うって云いたいの」


 売り言葉に買い言葉、だが折れたのはいつも通り魁世の方だった。


「あー悪かった。うん、僕が不甲斐ないのが悪いんだろ」


 そして魁世は気づく。これは失言だったと。


「そう、そういうこと言うのね。もう用は無いでしょ、私も残業が終わったから帰るわね」


 雨雪は淡々と机を片付けて部屋の明かりを消して執務室を出る。

 暗くなったそこに魁世は立つ。そして雨雪と入れ替わるように人物が明かりを持って部屋に入ってくる。


「なんだ。昌斗か」


 魁世は明かりを持つ昌斗に言葉を投げかけるが当人はいつもと至って変わらない。

 能面に無口無味乾燥、そんな昌斗は必要最低限のことだけ伝える。


「高坂寧乃の魔法通信で嶋津惟義より連絡が入った。すぐに来てくれとのことだ」


「僕と雨雪の会話は聞こえた?」


「……。」


「そんなこと今はどうでもいいって顔しているぞ、昌斗」


「………。」


「今夜が戦いの前にここ(南奧州)に戻れる最後のチャンスだったから来たんだ」


「保安隊から出撃の準備が整ったと連絡だ」 昌斗は口だけを動かした。


「それじゃあ行くか」


 最終的に揃った使える戦力は

 紫電隊二〇〇〇、百足隊二〇〇〇、青菱隊二〇〇〇、保安隊一〇〇〇、白鯨隊三〇〇、合わせて七三〇〇。

 他に通信要員で技術部より高坂寧乃と但木翠、後方支援部隊で軍務局も出動する。

 対するドラクル公国軍は分かっているだけで

 旧ウル・ハム国駐留軍五〇〇〇、公国本軍三〇〇〇〇、合わせて三五〇〇〇。

 ……

 …

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