表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第二章 征途洋々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/305

第四十九話 ハイドリヒ・天城・華子Ⅲ

 華子の予約した料理店は、帝都の名だたる名店に比べれば穴場の店だった。

 たまにある農務部主催の夕餉、通称“榛名デー”で食べる料理、榛名が少ない食材と調味料で精いっぱい作った夕食とは違い、帝都という東西の要衝として最高の立地を最大限に使って集めた食材と調味料、果ては食器に至るまでこだわり抜いた数々、いつもとはまた違う美味しさがあり、魁世は食舌の許容範囲を広げることになった。

 魁世は南奧州では味わえない食事に他の群蒼会メンバー(クラスメイト)には申し訳ないと思いつつも、別の世界であるが故の料理を食べた時の舌の違和感によって榛名の手料理、榛名の存在がいかに得難いものなのかを再認識していた。


 魁世は華子と夜の帝都を歩き宿屋に帰っている。


「あの魚のスープは美味かった。元の世界じゃ食べたくても食べられない味だったね」


「喜んでくれて嬉しいです。いつか、いえ近いうちに南奧州でも気軽に食べるようになりマース」


 南奧州は辺境であり、先日まで戦地であった。料理店の誘致はどうやってするのか?魁世は気になったので聞いてみる。


「僕が言うのもなんだけど南奧州はド田舎だ。どんな物好きが出店するのかな」


 華子は微笑して答える。


「いいえ。いずれ南奧州、特にコンリトの漁村にはあのような料理店がこぞって出店するようになります」


「どうして?」


「そうデスネー、南奧州は必ず帝都を凌ぐ交易の要地となるからです」


 魁世は華子の話を黙って聞いてみることにした。


「先日百足隊のアキヨーシ(明可)が探検した南方地域、そこには例の島と呼ばれるものがありました。ワタシはそこを眷属の渡り鳥で上空から探索してみたんです。そしたら驚くべきことが判明しました」


 二人の前方を一羽の鳥が巡回するように羽ばたいている。


「結論だけ言いますと、それまで西方の人類諸国、特に商業国家群が海路を使って帝都に向かう際に大きく迂回していたディーオン半島が実は半島と大きな島の合体物で、例の島とディーオンの間には狭い海峡が存在したことが判明しました」


 魁世は群蒼会の大商人、商務部の部長にハイドリヒ天城華子はやはり適任だと感じた。


「そうか新たな海路を啓開して群蒼会による商業圏を確立させるのか。完成したらすごいことになる」


「オー!カイセが褒めてくれました。もっと褒めて欲しいデース」



 ——帝国には“帝国の道”と呼ばれる建国以来の大幹線道路が存在する。大半の交易はその陸路を用いて行われていた。華子の言った通り、ディーオン半島を大きく迂回する海路は確かに存在する。だが半島沿いには最短の航路を阻み複雑な航路を船乗りに強制させる小さな島々と、それに伴って発生する不規則な海流と渦巻は多くの商船を難破船に変えた。また海路の直ぐ向こうには人類数百年来の敵たる異種族の領域が存在し、その危険性と遠路であるが故にその海路を用いた交易は少なかった。

 その状態が変わらなかった期間はおよそ千年、いつしか安全な交易陸路が絶対的な交易陸路と化したことはなにも可笑しくなかった。

 魁世はどうして今までの帝国が新海路を啓開するに至らなかったのか甚だ疑問に思ったが、それは自分でも言った通り南奧州が地図も不十分な辺境であること、帝国は海域の確保も儘ならないこと、


「ちなみに新海路は商務部が独占する感じかな」


 ——海路は陸路よりも早く、かつ大量の物資を輸送できる。もっとも造船といった初期費用に加え船舶の維持費は馬鹿にならない。


「いいえ、ワタシはどんな物事においても独占はその物事を先細りさせると考えています」


 ——華子の啓開する新海路は海からの帝都への移動を大幅に短縮させる。だがそれでも異種族のある一種族の領域と接触する。その一種族は暗色の髪色や眼、人間には考えられないような長寿と特徴的な外見を持つ黒耳長人であった。


「つまり新たな海路は華子の言うコンリトの漁村が港湾都市として開発し、多くの商船団を収容可能となった時に初めて本格的に使えるようになる。それと同時に他商人にも海路は解放される。そうすればいつの間にかこの世界有数の海洋商圏、貿易港が確立される…。

 まったく、これまで以上に土木建設部が忙しくなりそうだ」


 ——つまり新海路啓開に直接的な障害は存在しない。利益“のみ”を論ずるのであればこれ程投資に見合った“事業”は無いだろう。


「そうデース!その通りデース!カイセとワタシは一心同体ですね」


 ——ただ新海路が啓開した場合、“帝国の道”を交易路とする商人たちと権益を巡って争うことになる。魁世はなんとなくそう思った。

 だが華子はそうは思っていなかった。陸と海で商業圏が“統合”され、大商人たちは新たに船を用意して海路も使うようになる。目端が利くならば南奧州商務部との対立ではなく“利用”を企むだろう。と


「これは南奧州、いや群蒼会の総力を挙げた事業になりそうだ。惟義と雨雪にお伺いを立てて吟味して始めないと」


「別にあの二人はいいじゃありませんか。雨雪サンはどうせ予算とかを渋りますよ」


「いやいや、勝手にやって怒られたく無いからね。そもそも属領領主は惟義、内政全般は執権の雨雪が意思決定者だ。手順は大事だよ」


 ——南奧州コンリト村への港湾都市建設、新海路による新たな商圏の確立、それに伴った商務部の拡充等は後に雨雪によって問題なく承認され、つつがなく実行されることになる。また初期港湾施設の建設完了も“序計画”と同様に三年が目途とされた。


 華子は魁世の前に回り込んで腰をかがめ、彼の表情を覗き込むようにして尋ねた。


「カイセはそれでいいんですか?」


 上目遣いの華子から仄かに良い香りが鼻孔をくすぐる。だが魁世の態度は一貫していた。


「僕は精々がNo.2か3くらいの人間だ。いやこれも本来なら分不相応だと思う

 なんせ僕は自分一人ではなにも出来ない。最初の帝都防衛戦から今に至るまで僕一人で何かを成したことなんて一度も無い。友達を、クラスメイトを、群蒼会メンバーを権利も無いのに酷使することで今に至っている。僕に組織の最終決定をする器は無いよ」


 魁世は腑抜けたように笑う。だが華子は真剣そのものだった。


「ワタシは、カイセはこの世界の支配者になるべきだと思っています」


 浪岡為信といい、本多直といい、僕のことを買い被り過ぎじゃなかろうか。まあ直は僕のことを嫌いなだけだろうけどな


「ワタシには不思議です。どうしてカイセはあのバルバロイ(嶋津惟義)の配下に甘んじているのか。どうして自分の能力を十二分に発揮しようとしないのか」


 バルバロイ(野蛮人)、魁世はその言葉に少し眉を顰める。


「華子さんにそんな言葉遣いは似合わない。僕の前なら良くても他の人がどう思うか」


「確かに言い過ぎました、テッカイします。けどカイセが誰かの部下に収まるような人では無い、それは申しておきますよ」


 華子は魁世の意に介さず話を続ける。


「この世界は(すさ)んでいます。いえ、別にこの世界と“前”の世界は本質的には同じですね。

 ワタシは思います。そうした世界を統べる人物が必要だと、完全な支配下に置いて改革を成して世界全体を救済する必要があると。その資格のある者はその資格を全うする義務があると」


 華子はその陶器のようなきめ細やかな肌を夕日に照らしつつ、道路脇に目を向ける。

 その先には、この世の全てに疲れ切ったように横たわる浮浪者や、もう何日も着替えていないであろう服、というより布切れを纏った浮浪児たちがうずくまるようにして地べたに座っていた。

 魁世もその方向に視線を向ける。そして変わらぬ口調で言った。


「華子は僕という人間を誤解しているね。僕は世界が荒んでいても、困った人がいても、その全てを何とかしようなんてさらさら思っていないよ。精々が問題の根本的解決にもならない少々の施しを人前でやって周囲に褒めて欲しいと願う小心者だよ」


 だが華子もそれで納得はしていなかった。

 むしろ裏を掻いたような表情をして言い返した。


「嘘はよくありまセーン。ワタシはカイセが立案し現在進行中の“序計画”の真の目的を理解しています」


「南奧州だけでも誰もが飢えずに生きていられる場所にするといのがあの計画の趣旨だ。けれど真の目的というのが分からないなあ」


 華子は嗤った。


「あの計画は帝国からの分離独立、もしくは乗っ取りのための下準備の一環、そうですよネ?

 この世界、少なくとも帝国領内ではどの領地でもあそこまで領民の生活を思いやり、かつ重要な資源と捉えることはしません。この世界の王侯貴族は婚姻といった縁故によって自身の力を伸ばすことが主流です。領地経営と言っても、大抵が『こんな作物を育てよ』といったように頭ごなしに命令するか、代官に適当に徴収させてそれで終わりです。

 計画が上手くいき、そうした統治を続ければ噂を聞きつけた各地から移民、流民が相次ぎます。基本的にデフレ経済のこの世界で人口も生産量も増え続けることは即ち、国力の増大に繋がります。

 その“異常な事態”に帝国貴族、周辺国家は畏れ慄くでしょう。

 民衆はワタシ達に心酔し始めた時はもう遅い。あとは国を分捕るか独立宣言をするだけデース」


 華子は思い出したかのように最後の語尾を普段通りにした。


「それは全てが上手くいったことを前提にしている。それにその考えはこの世界の常識と前の世界の常識が混在しているよ」


「けれど間違ってはいないですよね、正しいかどうかなんて結果次第デース」


 魁世は驚いていた。驚いている仕草をして見せておいて、内心は本当に驚いた程に。

 だが彼女は喋りすぎだとも感じた。


「驚いたよ。そこまで思いついたならもう言う事は無い」


 本心だった

 華子は歩道を歩く魁世の前に躍り出て、白色金髪(プラチナブロンド)を月光できらめかせながら言葉を紡いだ。


「カイセ、ワタシはカイセが世界の支配者、独裁者(ディクタトゥール)たる行動をしてくれるなら別にあのイジューイン(アショール)を愛そうが問題ありまセーン。あ、本当はワタシを一番に愛して欲しいですよ?

 ただこれだけは覚えておいて下さい。ワタシは何がなんでもカイセを世界の支配者にしてみせます。やって欲しいなら何でもしますし、なんだって手助けします。その代わり絶対に成し遂げてもらいます」


 二人の周囲には誰もいない

 それは華子が望んだ状況だった

 魁世にとってもそれは望ましい状況だった

 ここに魁世と華子とのたった二人の秘密の盟約が結ばれる。片方は片方の行動を全力で支援し、もう片方はそれに応える。それはありとあらゆる勢力、組織を越えた不可侵の盟約だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ