【第11話】『 白猫庭 』
50.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第11話〉『 白猫庭 』
そこはとても年季の入ったゴシックな雰囲気の宿屋だった。
名前にある“白猫”が入口に小さなオブジェクトとして置かれていて、横には小さなベンチがあった。
カランカラン
「いらっしゃい。」
ホテルのドアを勢いよく開けると、そこにはフロントで軽作業をしていたであろう1人の従業員と目が合った。
「あ、こんばんは!今晩泊めて貰えますか?」
彼は僕を見るなり深々とお辞儀をした。とても物腰の柔らかそうな髭の生えたおじさんだった。
「やぁ、もしかして君は旅人さんかなぁ?」
「えぇ、そうです。」
「いやぁ久方ぶりだ。この街に旅人が来るなんて。」
「そうなんですか?」
「えぇ。ささ、中へどうぞ。お1人ですか?荷物をお預かり致しましょう。」
「わわ、そんなご丁寧に。ありがとうございます!」
彼は茶色いエプロンをしていて髪は黒色で後ろに束ねていた。
そして耳の辺りから顎まで髭が生えており、頬には十字の傷があった。
「ここ白猫ハウスは私が立ち上げたホテルなんですが、なにせお客様である旅人さんがほとんど来なくてね。きっとあの戦争があったからだと思うんですが、かれこれ10年くらいか。」
「戦争ですか?」
「えぇ、ご存知ありませんか?この国は昔他国と争っていたんですよ。私も一時期戦場にいた事がある。だが現国王であられるマーガレット・アイン・バーディング姫陛下がたった8歳の身でありながらも五次元魔法を行使し、この国を空間ごと大樹の幹に隠したんです。」
「そうだったんですね。魔法……五次元魔法とは?」
「魔法の階級の事ですよ。現在では第六次元まであったんだけなぁ。私は魔法の事はあまり詳しくは無いですがね。それではお部屋までご案内致します。」
「あの、お支払いはどうすれば?実は僕、この街のお金を持っていなくて。ご迷惑ですよね?」
「ご迷惑だなんて。久しぶりの旅人さんなので今晩はサービスさせて下さい。ぜひこれを機にこの国をどうぞ好きになってくれたら私は嬉しいです。」
おじさんは不器用ながらも歯を見せてニコッと僕に笑いかけた。なんだか落ち着く笑みだった。
彼は少し小太りで作業着もボロボロ。お世辞にもかっこいいとは言えない人だったが、なんだか自然と嘘を付ける人には見えなかった。
ほんの少しだけ孝徳がおじさんになった姿にも見えた。
「ささ、ここが旅人さんのお部屋です。ツインベッドに浴槽付き、暖かいカーペットもランタンも付いてます。なにかお困り事があれば私はフロントに居ますので。」
「色々とありがとうございます。」
「私はここ白猫ハウスのオーナーをやっております。アラドドと申すものです。」
「僕はちさ……。えっと、僕はアデンです。アデン・グラ・ヴェオレンス。今晩はお世話になります。」
「若いのにしっかりしてらっしゃる。もしやどこかの国のご貴族様だったりしますかな?育ちの良さが体格や仕草から感じ取れます。ささ、今日はもうお疲れでしょう。どうぞごゆっくりお寛ぎ下さい。」
おじさんはそう言って、部屋の鍵を僕に手渡した。
「わかりました。このお部屋をお借りします。」
「後で娘に紅茶を淹れさせます。お好みの味だといいのですが。」
「そんな!こんなに良くしてもらって、本当に感謝してます。是非頂かせて下さい。」
「では。」
そう言っておじさんは部屋を後にした。
暖炉もあり、羽毛のソファ、そして何よりクラシックのような音楽が流れている。ホテルの内装はまるで暖かなリビングのような雰囲気で、とても落ち着く場所だ。
僕はそのまま吸い込まれるようにベットに横になった。
「はぁ……何ヶ月ぶりの毛布……何ヶ月のお布団だろう……。ここ最近、色々あったな。」
ロウソクの火にチラチラと照らされて、僕は毛布の中へと潜り込む。
「……っ………ヒ……ッグ…………。」
なぜだか、涙が溢れた。
疲れているのか。苦しいのか。この涙の理由は分からない。
ただ、ここ数日、寂しかったんだ。ずっと一人で戦っているつもりだった。だから余計にあの子に出会えて嬉しかったんだ。出会いは最悪だったけど。
真白……もうこっちの世界に着いたのかな?
ソロモンはどこまで僕の事を見ているんだろう。こんな情けない姿誰にも見せたく無いや。
けど、ダメだなぁ、なんだか止まんない。
「……ッ……ヒッ…………グ…………」
僕は深々と暖かな毛布を強く掴んだ。
そして目元を中心的に覆い、顔を擦り当てた。
トントントン
すると3回ドアがノックされる音がした。
僕は思わずベットから飛び起きて、毛布をベットに投げた。
「……開いてます。どうぞ。」
僕がそう言うと、車椅子にお盆にティーカップを乗せた少女が部屋の中へとゆっくり入ってくる。
「失礼します。お飲み物をお持ちしました。温めるものは?」
優しそうなその声がゆっくり部屋の中へ響きわたる。少女は車椅子に目を覆う包帯を付けていて、少し不慣れな様子ではありつつもお客を心配させまいと穏やかな表情をしていた。
僕はその姿を見て自分からドアを開けずにはいられなかった。
「……すいません。手伝います。」
「あら、ありがとうございます。私の姿に驚かせちゃいましたか?」
「いえ、そんな。」
そう言うと少女はクスッと笑った。
「お手数おかけしてすいません。生まれつきなんです。足も、目も。」
「そうなんですね。どうぞご無理なさらず、全然僕は無料で泊めてもらっている身なので。あ、紅茶頂きますね。」
僕は彼女からゆっくりと紅茶を手に取り、机へと置いた。
「……あの、お父さんから聞いたのですが、あなたは旅人さんなのですよね?」
少女はとても期待に満ちた声色で問いかけた。
「え、まぁ……旅人ってほどではありませんが。」
「まぁ!それは素晴らしいわ!私旅人さんのお話を聞くのが夢だったんです!」
僕が答えた途端、彼女の声はとても希望に満ちた声に変わった。これまでの接客用の話し方とは打って変わり、その様子はとても年相応の女の子の反応だった。
「宜しければ少し旅人さんのお話を聞かせてくださいませんか?」
少女は少し不器用そうな様子で僕にそう言った。
「えっと、旅人らしい話はできないかも知らないけど、僕の故郷の話で良ければ。」
僕がそう言うと、少女は包帯越しに目を輝かせているのが分かった。
「是非!是非、外の世界の話を聞かせてくださいませんか!」
キラキラと期待に胸を膨らませる彼女の言葉を、僕には断る事など出来なかった。
「分かった。じゃあその代わりに良かったら君の事も教えて欲しいな。この国の事も。」
「わかりました!私で良ければ是非!」
そう言って僕らは暖かい紅茶を片手にお互いの話に花を咲かせるのだった。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。




