その、なな 試運転、までたどり着きました……
今回は短いです。
会議室には神々と捜査霊課の面々が揃っていた。
最前列にオモイカネ神、その隣にウカノミタマ様、その後ろの席に大直毘神・神直毘神と大禍津日神・八十禍津日神が座り、さらにその後ろに捜査霊課の術者5人が着席していた。
「では、説明をします。邪気を結晶化させて魔物として倒すためにダンジョンを作り、この付近の細い気脈から邪気をフィルターと新しい気脈を使ってダンジョン内に引き込むシステムを作りました。
フィルターの方は大禍津日様から部下の神様をお貸しいただいて設置が終了しております。
試作の段階ですので、東西1㎞、南北1.5㎞になっています。捜査霊課の方は、配られた地図に赤印が付いていると思いますので、試運転の際はそこに行って下さい。
それから、ダンジョン内はまだ携帯電話が使えませんから通信符を持って行ってください。
ここまでで何か質問はありませんか?」
「はい」
赤井ちゃんが手を上げる。
「はいどうぞ」
「魔物の発生する位置は決められているのですか?」
「発生位置は決めてあります。邪気はある程度形作られるまで吹き出し口から1m地点以上離れられないように結界が張られています」
「ありがとうございました」
赤井ちゃんは頷いてくれた。
「他にありますか? …………なければ試運転に入ります。
今から30分後に新しい気脈を開けて邪気を1時間流します。記録用紙を渡しますので、捜査霊課の皆さんは配置についてください」
会議室から捜査霊課の面々は入り口で記録用紙と記入板を渡されてダンジョン内へと入って行った。
新しく作った気脈は近くの細い気脈2本から引いている。フィルター設置作業の時に気の流れを見たがどす黒く、あれでは気脈が滞るのも無理はない。
最初は太い気脈から採ろうと考えていたが、一気に邪気が流れ込んでは困るので、急遽細い気脈から枝分かれするようにしたのだ。
「ふむふむ、内部はこのようになっておるのか」
「素材も邪気に強いように補強しとるようだの」
配置に着くまでに神々に内部の見取り図を見て貰う。
「まずは機能するかじゃな」
「そうじゃな」
「それが大事じゃ」
「機能さえすれば問題はない。他に問題があった時にはあった時に改良するようにすれば良い」
神々の意識はその一点のみに集中していた。
『こちら赤井です。到着しました』
『穴井です。こちらも到着しました』
『松本です。いつでもどうぞ』
30分になる前には全員が到着したとの連絡があった。
「皆さん、開けますよ。16時5秒前です。 5・4・3・2・1・0」
フィルターをオンにすると開いたばかりの気脈に邪気が一気に流れ込む。予想よりもかなり速い速度で流れ込んでいる。
『こちら穴井です。1分40秒で邪気が噴き出し始めました』
「はい、観察を続けてください」
気脈から一番近い穴井の場所ではさっそく邪気が噴き出し始めた。
『松本です。3分10秒で形を形成し始めました』
「完全に魔物になってから連絡した後で討伐してください」
指示を出しているのは天司だ。征也は気脈の滞りが無いかに目を配っていた。
「ほうほう、なかなか回収率は高いようじゃの」
「数日で作ったにしてはまずまずの出来のようだ」
神直毘神と八十禍津日神が言い合う。
『穴井です。5分52秒でおろちが完成しました。6分11秒でその場から移動を開始しました。討伐してよろしいでしょうか?』
モニター越しにもはっきりと≪おろち≫が見える。今回、捜査霊課が討伐に向かった先には人数分モニターが設置してあり、それぞれの場所の確認が取れるようになっている。
「うむ、討伐せよ」
「霊珠が出るかも確認しておくのじゃ」
神々が短く指示を出す。
『出ました。小さいですが、霊珠が出てきました』
穴井はおろちを倒した後、床から何かを拾った。モニター越しにはよく見えないが、あれが霊珠なのだろう。
『松本です。こちらも7分44秒で鬼火が完成しました。討伐後には小さいながらも霊珠が回収できました』
設定は今の所正常に機能しているらしい。
「すみませんが、邪気が形成する前に壁から一定以上離れたところへ流れていないか確認をお願いします」
『『『『わかりました』』』』
報告によるとそれも大丈夫のようだ。
17時半、ダンジョン内から捜査霊課の全員が帰ってきた。
「霊珠の0.005カラットが4つ、0.01カラットが2つ、0.02カラットが1つで0.025カラットが5つね。
1時間しか開いていなかったのに細い気脈からこんなに採れるなんて……これは相当邪気の溜り方が酷いわね」
坂本課長補佐が霊珠を測定しながらため息をつく。カラット、というのが霊珠の単位らしい。実に宝石のようではないか(征也が実際に宝石と同じカラットが使われているのを知ったのは、ダンジョンが開かれて大分経ってからのことだった)。
「だからこそ、我らがお役目を賜ったのじゃ」
「さよう、このままでは気脈が滞り世界が荒れてしまうからの」
「今回の件、邪気が浄化された故一応このまま進めることを認めよう。
津田殿や、今回の試運転で何か気になったことはないかえ?」
ウカノミタマ様が征也を振り返る。
「は、はい。今のところは機能に特別問題はないと思いますが……。
邪気がヘドロのようにドロドロなので、気脈や配線が途中で詰まる可能性があるのではないかと思いました。
定期的に掃除をする機能を付け加えてはいかがでしょう?」
気脈を開いたときにはいつか保健室の掲示板で見たようなタールのようなドロドロのものが、気脈を凄い勢いで流れていた。
あれでは気脈も配線もいずれは詰まってしまってダンジョン自体が機能しなくなるだろう。
「ああ、確かに」
「似ているのぅ」
「見た目ヘドロじゃ」
皆それぞれに遠い目をして呟いた。
「あれだと気脈が塞がるのは時間の問題だな」
「さようさよう、詰まる前に掃除をしておくが良いじゃろうな」
「津田殿、このダンジョンとやらは良くできておる。仕上げに定期的な掃除機能も追加しておくように」
勝手なことを言って、神々は完全に征也に丸投げであった。
ようやく人が入ってダンジョン機能が働いています。
毎回丸投げにされる征也君、お疲れ様です。