その、ろく ダンジョンの作成をはじめました
ようやくダンジョン作成に手が入りました。
墓穴を掘った征也は、結局朝まで落ち込んで眠れなかった。
眠れなかった征也はバイト先に行って
「うわっ! 何その隈! 大丈夫なの?」
と同僚に心配され、
「今日は単純作業で良かったわね。頭使う作業だったら絶対ミスってたわ」
と上司に叱責され、
「これでも飲んで頑張ってください」
と後輩に栄養ドリンクを手渡されて気を使われた。
フラフラヨロヨロしながらも、とりあえずは大きなミスなく終えることが出来た。
現在時刻18時41分―
「津田様、顔色が酷いですよ?」
「そうですね。ちゃんと寝てます? まあ、昨日の事で大仕事が降って来たから眠れなかったのかもしれませんが、しっかり休んでください」
捜査霊課の小会議室で征也・キエート・天司が集まっていた。
ちなみに、銀・春仁・右近・左近は征也に着用されている(征也は嫌がっていたのだが、『どうしても』と懇願され『着てもらってこそ服に意味がある』『履いてもらってこそ靴に意味がある』と押し通されたため、着ているのだ)。
「うん……なんとか形になるまではこの状態続くと思うけど、頑張る」
征也は覇気のない声と青白く隈の浮かんだ顔で応じる。
『僕たちは主がしっかり休めるように家事はしておくから、大丈夫』
銀が従神を代表して話す。服に話されるのはまだ慣れず妙な感じだ。
「では、進めましょう。まず、ダンジョンをどこに作るかから始めようと思います。
僕は東京近郊で地下鉄の通っていない場所を考えていますが、津田さんはどうでしょう?」
天司の提案に、
「んー、ダンジョンは、確かに地下迷宮、だけど…………」
生気のない顔の征也が反論する。
「これから先、地下に何か作られても困るし、そもそもダンジョン埋められたら困るよね? 地震とか来て崩壊したらさらに困るよね? 異空間作ってそこをダンジョンにするのはどうかと思うんだけど?
この間捜査霊課に行った時に、自分の神社が出来るまでは異空間に自宅を作ってどうのって話があったから、そんな感じで……」
「いいですね、それなら周囲の環境に左右されませんから」
天司とキエートはうんうんと頷いてくれた。
「で、でもね、異空間なんて作ったことないから、どうやって作っていいのかわからなくって……。……ええっと、どうしよう」
天司とキエートを交互に見る。
「そうでしたね、津田様なら大きくて丈夫な異空間を御造りになることが出来ると思いますよ。異空間は一度作ったら解除するまでは残りますから最初に大きく作れば大丈夫ですぅ」
キエートの声は絶賛明るい。できればどちらかに作ってほしいと思っていた征也の願いは潰れた。
「それから、≪悪しき感情≫をどうやって持ってきたらいいかとか…………」
悩み所はたくさんあるのだ。
「それなら、気脈の流れをふさいでいるので、その流れから送ってもらうことが可能です。ただ、気脈に流れ込むように各地で調整は必要だと思いますけど」
ここは天司が答えた。
「倒してもらわないといけないから、霊珠の付加価値とか……」
「ああ、それでしたら霊的な能力を持つ者はよく判っているので問題ないかと。むしろ霊珠欲しさに向こうから押しかけて来てくれると思いますよ?」
「それからそれから……」
頭を悩ませ続ける征也にキエートと天司が淀みなく答えていく。
「なにはともあれ、作ってみましょう! 気に入らなければ空間を閉じてまた作ればよいのですしね!」
何やらノリノリでキエートはダンジョン作成を急かす。
「空間をつくる感覚は僕が補助しましょう」
天司も何だか早く作りたがっているようだ。
「そんなに急がなくても……ゆっくり考えてからにしようよ」
消極的な征也に二人がにっこりほほ笑んだ。いつぞや見たことのある綺麗な微笑みなのに怖い笑みだ。
「津田様は放って置くと考え過ぎてドツボに嵌るでしょ?」
「案ずるより産むがやすし、というでしょう? 作ってしまってから考えましょう? ね?」
子どもを宥めるような口調で言い募ってくる。征也も単純なのかそう言われると少しずつ不安が落ち着いてくる。
「そ、それはそうだけど。……そんな簡単に言ってしまって大丈夫なの?」
「また、大丈夫かな、と悩んでいるようですが、毎回それでしょう?
ちゃんと僕たちも内容は考えていますし手伝いますから、大丈夫ですよ。
ほら、昨日の神々も時々は見に来て下さるとおっしゃっていらっしゃいましたし、困ったことがあれば相談に乗ってもらえばいいのですから」
2人はとにかく作れと笑顔の圧力をかけて来る。
「大丈夫です。感覚の補助は僕がします。津田さんは空間をつくる事だけに集中してください」
征也は言葉を重ねてくる天司に慎重になっても許してもらえないと判断して知る能力を使い、空間作成の感覚を調べる。
「わかった。じゃあ、作るよ? …………せい、の!」
一気に周囲が真っ白になった。いや、真っ白な空間が出来上がってその中に3人が立っているのだ。
「広いですねー。初めて作ったにしては上出来ですよ」
『主、素晴らしいです』
『大体10㎞四方で高さ7㎞といった所でしょうか? お見事です』
キエートを始めに銀も春仁も褒めてくれる。しかし、征也が考えていたよりもずっとずっと広い。もっとも、ただ白いだけの空間なので広さがイマイチ分かりにくいが。
「このくらいの広さだったらダンジョンも広めに作れるかな?」
「十分だと思いますよ。空間の維持方法は分りますよね?」
征也はしっかり頷いた。空間をつくるときにそれも一緒に検索を掛けてある。
「大丈夫、内側に保護膜も張って崩れないように補強もしてあるから。……接続先は会議室でいいのかな?」
「そーですね、差し当たっては会議室でいーと思いますよー」
「後日変更しますけど、とりあえずは会議室にしておきましょう」
同意が得られたため、会議室に繋げる。扉が付き、ドアノブを付けて会議室の後ろの壁に接続して出て来た。
「では、最初は1階から作りましょうか。津田さん疲れていませんか?」
「大丈夫。1階の設計図作るの?」
キエートが広用紙とマジックを用意していた。
「入口から階段で降りて1階部分とくっつけて…………」
設計図と言っても酷く簡単なものだったが、壁に≪悪しき感情≫の通り道を配線して魔物の出現する位置を調整する。≪悪しき感情≫は≪邪気≫とも言うそうで、普通は≪邪気≫のほうを使うそうだ。
1階の型が整ってきて、壁が配置される。異空間と広用紙を繋げているためキエートがマジックで描く配置の位置に従って、壁や邪気を通すラインの配線がダンジョンとして異空間の中で実体化する。
「んーっと、気脈から邪気を引き入れるルートも作らないといけないよね? でも、気脈から邪気だけ分けるのは難しいかな?」
「でしたら、フィルターを使ってはどうでしょう? 確か気流から邪気だけをシャットアウトするフィルターがあるという話を聞いたことがあります」
「ありますよー。ただ、昔それを使ったら邪気が貯まって気脈が塞がったから申告制になって、勝手に使用するのは禁止されたと聞きましたけど。
あ、何か所か気脈の流れが滞っているところもありますから、そこも綺麗にしたいですねー」
「…………そのあたりはキエートに任せるよ」
難しいことを考えたり複数の事を同時に行ったりするのは苦手だ。できる人ができる状態であれば切実に丸投げにしたい。
征也は差し当たってダンジョン内の作成に神経を集中することにした。
1階はあらかた決まったが、2階以降は全くの手つかずだ。
「あ、そういえば天司君」
「はい何でしょう?」
「捜査霊課は何か言ってた?」
ダンジョンを作ることに関して天司君の時間をとってもいいのだろうか?
「大賛成してくれていますよ。最近邪気のせいで仕事が急激に増加していますからね。これで少しは楽になってくれるかもしれないと。ですから、僕も通常業務よりもこちらを優先するようにと言われています」
「そう? よかった」
実行要員は多い方がいいし、相談役にしても一緒の時間が多い方がいい。そう言う意味で天司が協力してくれるのは非常にありがたかった。
「では、今日はここまでにしましょう。また明日、ここに……10時くらいでいいですか?」
「うん、わかった」
「僕は出口になる土地を選定しておきます。津田さんはどこか希望がありますか?」
現在時刻22時半、さらに仕事をすると言う天司に頭が下がる。
「特にないよ。できれば周囲から怪しまれないような場所がいいかな…………?」
「わかりました。津田さんは明日・明後日バイトが休みですよね? 一度見に行きましょう」
「ではでは、私は気脈の方を少しいじってみますねー。邪気のみ遮断するフィルターも当ってみますか」
キエートが気脈、天司が周辺環境を担当することで終了した。
翌日―
『主、起きてください。集まりに遅れますよ』
銀の声で起こされ、左近が作った朝食を食べて出る。
5分前集合には何とか間に合った。
「おはよーございまーす」
「おはようございます。津田さん、大丈夫ですか? 昨日慣れないことをしてお疲れではありませんでしたか?」
「ああ、妙に神経使ったから疲れたみたい。でも大丈夫だよ、今日はどうするの?」
眠気の抜けない声で応じる征也だったが、他の2人は気にせず進んでいく。
「では、僕からにしますか? キエートからにしますか?」
「葉月様からにしましょう。まずはどこに出口を繋ぐかですよね」
天司は一つ頷いて地図を広げる。
「候補は2つに絞りました。
1つ目はビル街の一角です。古いビルが建っていますので壊してからになりますが、不特定多数の人間が出入りしてもおかしくありません。広さは大体……そうですね、普通の家6軒分くらいでしょうか。
2つ目は捜査霊課の近くです。住宅地ですが近くに繁華街もありますから、どんな見た目の人が出入りしていても気にならないと思いますよ。元の家は建ったままですが、結構大きくて新しいのでリフォームすればそれなりに使えるでしょう。普通の家の3軒分くらいでしょうか。裏には手付かずですが広い更地があります。
どうでしょう?」
天司が場所を指示しながら話す。
「津田様、どうでしょう?」
「え、俺が決めるの?」
征也がそう言うとキエートは呆れた顔になって
「当たり前でしょう。決定権はこの中で一番格式の高い津田様にあるんです! 自覚してください」
出来の悪い困った子どもに言い聞かせるように告げる。
「あ、そなの? でも、決めるのに協力はしてね? 自分だけだと分からないから」
自信のない征也はとりあえず逃げ道だけは確保する。
「それはかまいませんよ。で、どこがいいですか?」
「えっと、捜査霊課近くがいいかな?
せっかく広い所探してもらったけど、機能を全部異空間に入れるなら扉を隠す家と目隠し用に周りを囲む木を植えるくらいで良かったかも」
気付かなくてゴメン、と謝る征也に天司が笑う。
「いえ、大丈夫ですよ」
「そーですね、安全面を考えると何かあった時にすぐ駆けつけられる距離が便利ではありますよね。繁華街も近いので邪気も多いでしょうし」
キエートが唇に指を当てながら同意する。
「分りました、ここで契約しておきます。あと、大きな扉を入れられる様に家のリフォームも手配しておきます」
「ん?」
ふと思った、土地やリフォームの代金はどこから出ているのだろう?
「どうしましたか?」
「あ、えっと、お金はどうするのかなって思って」
「ああ、気にしなくていいですよ。ここの土地は捜査霊課の仕事料が払えなくて受け取った土地ですし、リフォーム会社も似たようなところに頼みますから、実質的な予算は不要です」
あ、あれって仕事料の一部なんだ。捜査霊課って実はお金持ちなのか? 恐れ慄いているうちに天司は携帯電話でチャッチャと連絡して手配を済ませてしまった。
「では、次ですね。邪気の配線について」
「うん」
ダンジョン内での配線は、1階部分は既に終わっているので、後は外とのラインを繋ぐだけだ。
「フィルターについては既存の物がありますので、大禍津日様からそれを貰うことになりました。
津田様の神力認証システムでフィルターのオンとオフを使い分けることが出来るようにしてもらいます」
「うん」
「気脈からダンジョンに新しいラインを引いてもらって、接続部分にフィルターを取り付けます。フィルターの取り付け作業は大禍津日様から借りた専門の技術を持った神様に取り付けてもらいます。
ラインは2カ所くらいから採ってくればよろしいかと思います。
お昼から取り付けに来てもらうことになっていますので、13時までにラインを作ってください。
あ、難しければ葉月様に手伝っていただいても構いませんよ」
「わかった。フィルターが付いたらラインの栓をとればいいね。で、フィルターがオンのときだけラインが開くように設定する」
検索をかけてラインの製造方法を学びながら返事をする。
何となくではあるが、段々神力の使い方が解ってきたような気がする征也であった。
どうしようと言いながらも出来てしまう征也君。
だが、この先道は長いぞ。




