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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第二章:どうしよう、ダンジョンを作ることになってしまった…
6/70

その、ご 沈黙は金、なのである

新章です。

やっとダンジョンの話が出てきました。

「何をちまちまやっているんですかぁ!」

征也が神様になって10日目、現在時刻23時24分。

 お休み前に今日も今日とて肩こりと腰痛・膝痛の願い事を叶えていると、キエートがやってきた。夢渡りが出来るようになってから毎日、肩こりと腰痛に膝痛と1人ずつ計3人の治療を行っている。ポイントは一つずつしか増えないけれど、確実でしかも人数が多い。

 結構いい仕事だと思っていたんだが? 

 霊課も腰痛は湿布代にマッサージ代と治療費が地味にかかるので、毎回どこどこの誰々と申告したら来月には診療報酬明細書レセプトの医療費削減が目に見えてわかるはずだ、と言うことで好評だ。

 そんな堅実で地味で明確な仕事のどこが悪いと言うのか?

「悪いとは言いませんが! せっかく健康の神様になったんですから一回ぐらいは奇跡級のどーんとしたお仕事をしてみてくださいよ!」

「いやいや、寿命に関わるようなのはいろいろと問題があるから。解りにくいくらいちょっとだけ、叶えるくらいがいいんだよ」

「この○○ちゃんを救う会、何てどうです?」

と言って寄付を呼びかける重病の子どもの書いてある手作りチラシを持ってくるキエートは絶対人の話を聞いていない。全く聞いていない。

 ピリリリリ……

キエートの腰から電子音がした。

「はい、神さま情報局、中級三等神、キエートです」

『神さま情報局より中級二等神・アサーシャです。新中級二等神・津田征也様、および新中級三等神・葉月天司様へ、召喚命令が下っております。

葉月様へは場所をメールで指示しますので、津田様には早急に出頭いただくようにお願いいたします』

キエートの携帯から聞こえた声はまるで電子音のような話声だった。

「では、今から参ります」

「は?」

ピッと携帯を切ったキエートは征也の腕を掴み、

「はい行きますよー!」

と言って俺の部屋の壁を切り裂いた。

 スパッと切り裂かれた壁の先には、いつぞやの大きな神社のような場所があった。

「もしかして、また、会議か?」

(俺、寝る所だったのに……既にパジャマなのに……)

そのまま腕を引かれて空間を抜けると、何故か神主風の和装に変っていた。

「まだ何も言われていませんけど、多分そうだと思いますよー」

キエートにいつもの軽い感じで言われると、偉い人のいる場所に行くはずなのに力が抜ける。

「あれ、天司君?」

神社の階段前に見えているのは天司君の後姿ではないか?

「ああ、葉月様は連絡用の携帯をお持ちですし、こちらの事もよくご存知ですから。津田様はまだ慣れていらっしゃらないので、連絡して何処何処と言われても場所も専門用語もご存じないでしょ?」

ごもっとも。

 肩こりと腰痛の軽減させ方くらいしかわかりません。しかも感覚でやっているだけだから、それすらも専門的に言われたら絶対理解できない自信がある。

「さあ参りましょう」

天司と合流して3人で中へ入って行く。すると飛鳥風(?)に結い上げた黒髪の長い女性が出て来た。無表情の女性は、見るからに神様のような後光がキラキラしているのが見える。

(俺も頑張って修行でもしたら、いつかこんなになるのだろうか?)

「≪睦月の間≫へご案内いたします」

抑揚のない声で案内される。2人は慣れているのか平然とついて行くが、無表情の上抑揚のない声など征也には不安と恐怖しか浮かばない。

 一瞬冷や汗が浮かんで固まってしまったが、他のみんなが行ってしまったので慌てて後を追った。

「どこの女神様でしょうね?」

「違いますよ、あれは式神です。

おそらく高位の神が作ったので神力を察知してそう見えたのでしょうね。もう少し神力を細かく精査する能力を身に着けてくださいね?」

小声でキエートに訊くと、駄目だしを食らって課題を追加された。



 案内された広間≪睦月の間≫には、左右両側に二人ずつの神々が並び御簾の奥に誰かいるような気がする。多分両側に1柱ずつ。

 征也と天司も両側の末席に分かれて座らされ、キエートは退出した。

「皆の者、集まったか。これより御前様がお見えになる」

御簾の奥から二重の声がした。

 御簾の奥のさらに奥、襖が開いて誰かが出て来て座る。

 ハッキリ見えないがそのシルエットから、十二単の女神だろうと推測する。

「大義である」

入ってきた女神は甲高い声で宣言した。

「力ある神達よ、悪しき感情がこの世を狂わせておる。対策を考えて実行せよ。尚、これは恐れ多くもアマテラス様のお望みじゃ。必ずや叶えるよう、心いたせ」

周りの神々が、深く頭を下げたため慌てて同じように頭を下げた。

 十二単の女神はそれだけ見届けるとさっさと襖の奥へ御簾の中の二人を連れて帰って行った。

「え?」

説明ってこれだけ? 意味が分からない……。頭を下げたまま周りを見回しても不思議そうな顔をしている神は誰も居ない。

(仕方がないから後で天司君に聞くしかない。もしくはキエートか)

「では、議題に入る」

上座にいる見た目60代くらいのおじいさん神が話し始めた。

 皆ずりずりと円になったため征也も中に入る。征也と天司を入れて6柱。できればまず自己紹介から始めてほしいな、と思っていた。

「発言をよろしいでしょうか」

議題に入る前に天司君が手を上げる。

「なんじゃ、霊課の者か。議論の後にせい」

「しかし、彼は意味が解っていないかと」

ばっさり切って捨てられたが天司は征也の方を見て付け加えてくれた。

「彼は10日程前に神になったばかりですから、議題の前に何のことを言っているのか理解できていないと思います」

さっと周囲の目が征也に向く。

「そうなのか、お主」

「は、はい!」

強い声に返事をするだけでやっとだ。別の美人女神が思い出したように呟く。

「そう言えば、αを受けた者の内もう一人は何も知らぬただの人間であったと聞いたな? そなたのことか、まずは名を名乗れ」

「はひぃ! 津田征也です。先日神になった中級二等神です。よろしくお願いします」

ふぅ、と呆れたようなため息をついておじいさん神(仮)は説明を始めた。

「まず、自己紹介から行くか。私は思金神オモイカネという知識神じゃて。

前の青年神が大禍津神、その向かいが大直毘神、どちらも穢れを祓い直す双子の神じゃ。

こちらの女神は宇迦之御魂ウカノミタマという五穀豊穣の神じゃ、そうじゃの、稲荷神やお狐様というたほうがわかりやすいか?」

「はい」

3人の神々は名前を呼ばれると手を上げてくれたので解り易い。

このメンバーのまとめ役はオモイカネ神のようだ。

「ここからが本題じゃ。

今、人間の悪しき感情は増えに増えておるのじゃ、強い感情は強い力となる。生まれた強い力によって気脈の流れが狂っておる。気脈の流れが狂えば、世界はおのずと崩壊へ向かうのだ。ゆえにこれを治さねばならぬ。

どうしたものか……」

オモイカネ神が口をつぐむと沈黙が流れる。空気が痛い。

「い、今まではどうしていたのですか?」

「これまでは主に土地神が浄化して力を大気に帰しておった。

 じゃが、最近は人間の信仰心が弱まって土地神達も自分の存在を維持するだけで精一杯。増加する悪しき感情を全て浄化することなど不可能」

「然り、然り。土地神の力が弱まれば、かつて土地神が広まる以前のように悪しき獣が出ぬとも限らぬ。

 最近では浄化が追い付かず小さいながらも獣が発生しておるようじゃ」

大直毘神が同意する。その険しい表情から、どうやらほとほと困っているようだ。

「獣が発生しているんですか?」

「そなたは知らぬかもしれぬが、獣を倒すことで浄化することが出来るのじゃ。まだ存在の強い神が定期的に見回って退治しておる。浄化さえできればただの霊珠が残るのみじゃて」

「霊珠?」

オモイカネ神専門用語はまだ分からない。

「霊力の高い珠のことですよ。小さな獣からはあまり取れませんが、エネルギー量が多いモノはお守りや霊符など様々に加工して使えます。

 霊珠で捜査霊課の電気を全て賄っているように、電気変換機で電気としても使用できますから便利ではあります」

「獣って怖いよね? 倒すのって大変だよね?」

便利な品は欲しいが獣は怖いはずだ、そんな怖いモノは回避だ。

「そうでもないですよ。小さな獣なら道具があって余程弱くなければ普通の人でも簡単に倒せるでしょう」

天司はあっさりそう言ってのける。周囲の神々も倒すことに大して気にしていないようだった。

「そうじゃな、小さければ問題ない」

「中型でも大したことはないしな」

「ヤマタノオロチくらい大きくなければ怪我をすることもないだろう」

それは神々の感覚である。

 通常人間が獣を倒すのはかなり大変なことであり、当然それ相応の装備も能力も必要である。

 それを全く知らず、神々が口々に言うのを真に受けた征也は天司にわたわたしながら

「はあ、なら獣になりそうなエネルギーを集めてきて獣を作って倒して、霊珠を取り出して電気にして売って見る、とか駄目かな? 簡単でお金にもなるなら仕事してくれそうだよね? あ、どれだけ現金が入ってくるかわからないから駄目か」

とこっそり言ってしまった。

 征也は事を簡単に考え過ぎていた。世界崩壊など言われてみても気脈の流れなど感じたこともないため全く実感がないが、とにかく痛い雰囲気だけが怖いのだ。沈黙が怖くてただ思ったことが口から流れ出ているだけなのだ。

「それ、やってみましょうか」

出来もしないとつらつらと言うだけ言っている征也の案に天司が乗ってきた。

 そしてこっそり言ったはずなのに地獄耳の神々にも聞こえていたらしく、

「うむ、どうせ案など何もないのだからやってみてはどうじゃ?」

「気脈の中でつかえておるのじゃ、流して回収してしまったほうが良かろうて」

と言って他の神々まで乗ってきた。

「いやいやいや……」

「しかし、どこで獣を倒すのじゃ? わらわの管理する田畑が被害を受けるなど御免被る」

びっくりして慌てた征也に、反対してくれたはウカノミタマ様だった。

「ですよね、こんな思い付き却下ですよね」

「良い案じゃ。ただ、田畑のない所でせよ、というだけで」

反対ではなかった模様……。

「素人案に同意しないで下さい! この世界にダンジョンなんてないんですから!」

半泣きでさらなる妙な提案を自分が口走っていることに気が付かないくらいには、征也は混乱していた。

「ダンジョン?」

「だんじょんってなんじゃ?」

ゲーム等しないであろう神々が首をかしげた。

「ゲームの地下迷宮の事ですよ。魔物とか隠し財宝があって、魔物を倒すと隠し財宝が手に入るとかそんな奴ですよ……」

ほとんど泣きながらも無意識に律儀に応えると言う征也にしては高等技術を使ったものの、

「「それじゃ!」」

「よし、お前。だんじょん、とやらを作れ! 地下に悪しき感情から獣が生まれるようにして、倒せば霊珠が得られる仕組みにするのじゃ!」

と、押しつけられてしまった。

「良かったの、これで案件はひとまず棚上げじゃて」

「そうじゃの、これ新米、頑張るのじゃぞ。報告はわしらから上げておくゆえ」

「面白い新米が入ったものじゃ。捜査霊課もついておるなら安心じゃの。

 わしらも時々は見に行ってやるゆえ、初めは何事も我武者羅にやってみるが良い」

神々はそう言って去って行った。

「え? …………、…………………え?」

呆然として言葉の出て来ない征也だった。

そんな征也の肩を、どうしようもないと言った風情で天司が叩く。

「やれるだけ、やってみましょう」

人間諦めが肝心です、と聞こえないはずの声が聞こえたような気がした。

沈黙は金、そうだ。沈黙は金、なのである。





言わなくてもいいことを言ってしまったがために、苦労を背負うことになってしまった征也君。

もう少し考えてからモノを言おうね。

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