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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第二部:管理・整備が始まるよ
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その、五十三 お狐さん、進化しましょう




 9月も終わりと言う頃に眷属たちが帰って来た。

「さて、各種ご利益ごとに行っていた神社研修も終わった事だし、これからは少し人間生活を送ってもらうことになるみたいだよ。

 まず、銀は小学4年生に転入する予定。

 春仁は事情を話してある会社で社会人の研修を。

 右近は大学1年生に編入の上、自動車学校へ通ってもらいます。学校に行きながら旅行を色々と経験してね。

 左近は介護の学校から施設へ、10月開講の所だから……忙しいだろうけど、自動車学校行っておかないと就職したら困るかなぁ。

 期限は約1年半で3月末日までって話だけど、皆研修続きで疲れてない? 大丈夫?」

一気に話した。

 補佐が色々と準備してくれているとはいえ、こう研修続きでは苦労するだろう。

「大丈夫です」

春仁は顔色も声も大丈夫そう。

「「頑張ります!」」

右近・左近も元気な返事だ。

「……はい……」

銀は涙目で返事をしている。これは駄目だろう。

「銀は大丈夫じゃなさそうだけど……少し休む?」

「征様、大丈夫です! ……でも、ちょっとだけ、ちょっとだけ数日でいいので征様のお傍にいても良いですか?」

しばらく会議室で見ていた方がいいのだろうか? 眷属の中では最年長だが見た目に引き摺られるのか、時々妙に幼い言動が入る。勿論知能は一般の成人と比べても随分高いのだが。

 こ、これは児童虐待に当るのか?! などと心の中で慌てて

「う、うん。……というか銀は小学生だから保護者の僕と一緒だけど……」

と言うと

「本当ですか?!」

パッと表情が明るくなる。

「うん、その見た目で保護者ないしはないから、人間社会は」

「ボク、小学生になります!」

抱き着いてきた銀を膝に抱き上げて頭を撫でる。

「いいなー、銀ばっかり……」

右近がぼやくので

「右近は大学生だから実家からってことでうちから通うことになるみたい。……左近は学校に通ってる時はうちから、就職したら職場次第になるかな。

 春仁は……最初の会社は近いからうちからでもいいみたい。こっちも後は会社の場所次第かな。

 どうする?」

と話すと

「良かった……」

「はい」

「私もこちらから通わせていただきます」

と春仁を含めて全員が家から通うことになった。

「家事は一応分担するけど、春仁と左近は多分忙しくて手が回らなくなるだろうから、出来るだけ僕と右近と銀で何とかしよう。右近は文系の大学だし、車の免許をとったら大分楽に動けると思う」

「はい」

「分かりました」

銀と右近がしっかりと頷いてくれた。

 現在、霊課の寮で2LDKを借りており、片方の部屋が異界に通じている。異界の天司君が作ってくれた神域に各自部屋を持っているのだ。自室の掃除以外は分担予定だがどうなることか。

「しばらく新規のダンジョン作成も入力待ちだから、僕も家の方をみられると思う」

ダンジョンはデパートと駅の言われたところを修正したら、赤井からペンダントのデザインと補佐の確率計算を待つだけだ。

 作成前に設計図は見せていたのだがやはり図と文書説明だけだと理解に難しいのか、7・8階の説明時には妙な顔をしていたし地下鉄の所では後でまともな休息所をと求められた。


 新しいエリアの洋館エリアは薬草園にする予定だ。

 全世界から<知る能力>で一定以上効果のある薬草と霊薬の原料になる草木の知識を既に抽出してある。抽出した知識を式に移して安倍さんの集めてきたパソコンに20体で交代しながら入力中だ。それが終わるまでは洋館エリアは手を出せない。

 うん、正直やりすぎた。

 東洋の、とか西洋の、とかにしておけば良かったのに、世界中の、とか欲張ったので植物の種類が1万を超えてしまった。流石にあんまりだったので効果の薄い薬・実証できない程度の薬は外し、7千種類弱までは減らすことができた。

 その、入力だから結構時間がかかるだろう。その後更に各地区に分類して配置、レシピも入力して貰う予定なので、また時間がかかる。

 ……一か月で終わるだろうか? 最悪レシピは後回しでも構わないが、薬草園は補佐と課長から結構急かされているのだが。

 種類がありすぎたため洋館エリアは諸外国の薬草園にして、日本で取れる薬草はその次の日本庭園に持ち越しの予定だがいつ終わるのやら……。

 補佐は動物由来や鉱物由来の薬もできないかと希望しているようだが、絶対無理! ……動物由来はまだしも、鉱物関係はごり押しされそうだがな。









 十月に入り銀の初登校に付き合ってから出勤したところ、会議室には伝言メモが残されていた。昨日の午前中に来たときはなかったはずだ。


『津田様へ

 お疲れ様です。

 お尋ねしたいことがございますので、またお伺いいたします。

          松林      』


「? 何だろう?」

会議室の内線から松林の職場である邸宅の母屋に電話を入れる。

『はい』

「おはようございます。津田ですが、松林さんお手すきでしょうか?」

『ああ、津田様。松林です。伝言を見ていただいたのですね?』

「はい、何かありましたか?」

『はい、今使役しているお狐様達が進化したいと言っていらして……。私ではわからなかったので津田様がお分かりになるようでしたらお尋ねしてほしいと』

「ああ、…………えー、午後からそちらにお伺いしても?」

『はい、お待ちしております』

「14時くらいになると思います。進化の手順を教えますので、身を清めておいてください。貴方も進化する狐さんも。ああ、最初なので多分疲れると思います。疲労具合を見ながら1匹ずつ順にしましょう」

『はい、14時ですね』

電話を切って補佐の元へ向かう。ということは、狐さんは今の尻尾の能力上限まで達しているわけだ。慌ただしかったから忘れていたが、開始が8月の末だったから約1か月になる。確かに最初の上限に達してもいいはずだ。

 コンコン

「はーい」

「失礼します」

補佐の返事を聞いてから入室する。

「あら、津田君。どうしたの?」

「松林さん所の狐さんたちが尻尾の上限に達したそうです。一応今までの進行具合と報告書を見せてもらおうと思いまして。あ、午後から狐さん進化しますけど、見にいらっしゃいますか?」

「ええ、そうさせてもらおうかしら」

「14時に約束しているのでキエートに連絡して一緒に、という形でどうですか? 今日は天司君も辻本君も大学に行っていていないので俺とキエートだけになりますけど」

「いいわ」

ファイルを受け取り、会議室へ帰る。そうかー、もう14匹まで増えているのかー。26種類いるはずだから約半分、当初の予定だと3か月で半分呼べればいい方と言っていたから予想より随分早い。

 墨をすり、進化用の札を書き、進化に使う供物を確認する。



「こんにちはー」

会議室から車宿に出て東の対に声をかける。

 パタパタと足音が聞こえて

「こんにちは! お待ちしておりました!」

松林さんと楓君が小走りで駆けてくる。その後ろからまだあったことのない狐さんたちがついてきている。

「お久しぶりです。しばらく慌ただしくてすみません」

「いえいえ、神社を開けたりお茶会が正式に始まったりしていたのでしょう? お忙しい所申し訳ありません」

互いに頭を下げあい、

「上限に達したらの説明を先にしておくべきでしたね。北東の対にいろいろ道具を置いていたんですけど説明していませんでしたね」

とぞろぞろと移動する。

「必要な物は清めたお米とお神酒と霊珠、それと進化に使う進化札ですね。霊珠は進化する狐さんの格と尻尾の本数に応じて増えるので気を付けてください」

儀式場の隣の部屋から高杯を取り出して祭壇の組み立てを頼む。

「少し時間が空いてしまったので道具を拭き清めて貰ってもいいですか?」

「ええ」

召喚の時より少し低い祭壇と高杯を清めてもらい、リュックの中からお米とお神酒と札を取り出す。

確認しながら配置し、

「この祝詞をゆっくりでいいので正確にお願いします。術者はこちらに、相手はここに正座してください」

最初の相手は楓君だ。

 松林は丁寧に祝詞を上げる。

 祝詞を受けて身体が淡い光を発し始め、2本目の尻尾が生えてくる。

 祝詞が終わると淡い光が弾けて消える。

「気分はどうです? 違和感があったり痛い所があったりしませんか?」

「大丈夫です。溜まっていた力が解放されたのか随分すっきりした気分です」

晴れ晴れとした顔で楓君が答えてくれた。

「松林さんはどうですか? 疲れました?」

「少し疲れましたが大丈夫です」

大丈夫という割に表情は目に見えて疲れている。

「今の要領で力が溜まったら進化する、を繰り返してください。最初は負担が大きいので数日開けての方がいいかもしれません。尻尾がそれぞれ上限まで進化できますけど無理はしないでください。

 札は一応人数分14枚渡しておきますけど、ほんと、くれぐれも無理しないでください」

尻尾は協力してくれる地狐さんで7本、気狐さんが8本だ。練度が30まで上がったら進化を繰り返すため、枚数は今後必要に応じて支給していく必要がある。

「はい、ありがとうございます」

松林さんの様子は何というか……、妙に焦っている気もしないでもない。

「練度上限に達したら又は達しそうでしたら随時連絡をいただけると札は支給します。

 ほかに何か相談事はありませんか?」

「……今、4階に入ったところで苦戦していて……。これが普通なのでしょうか? 私の采配が悪いのでしょうか?」

不安そうな顔で言う。進化していないことが原因だろうか?

「うーん、3・4階の間の苦戦は敵の強さが極端に上がったからかもしれません。

 今回初めての例だからわかりませんが、尻尾1本で上手くやっている方だと思いますよ? 多分進化したのでまた進めるようになると思いますし……。

 確かウカノミタマ様が6階まで攻略するのに尻尾3本は必要とか言っていたはずですから」

受付からの報告で3階から4階に入ろうとすると1ctから4ctの急激な変化に苦労する術者さんも多いと聞くので、ここの落差に嵌ってしまった可能性もあるが。

「そうですか」

「……補佐、戦略関係は自信がないので今度天司君とキエートを交えて話し合いたいと思いますけど、一緒に入って貰って大丈夫ですか?」

「ええ、その方がいいわね。ウカノミタマ様の所からも誰か相談に乗ってもらえるように頼んでおきましょう」

補佐がここへきて初めて話した。いつもはよく話すのにどうしたのだろうか?

「ありがとうございます」

「あちらに聞いてみて、また日程が決まったら連絡します。他に心配事とかありませんか?」

「いえ」

「では今日はこれで失礼しますね」

「ありがとうございました」

他の狐さんたちにも軽く頭を下げあって会議室へ戻ってきた。






 早速キエート経由でウカノミタマ様に連絡すると、出雲から帰ってから上位の狐さん達と一緒に見に来るとのことだった。

 そういえば、まだ分霊でなく本体の狐さん達にダンジョンを体験して貰ったことはなかったはずだ。

 そう考えればいい機会かもしれない。








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