その、じゅういち 試運転を再開しました……
試運転2回目です。
引っ越しは銀と天司の指揮の元、滞りなく行われた。
よって、本日は試運転2回目である。
ゴールデンウィーク初日の会議室には前回同様、捜査霊課と神様方が集まっている。
現在時刻12時30分である。征也が真面目な声で説明をしている。
「こんにちは、お集まりいただきありがとうございます。
本日14時より2回目の試運転を始めます。今回から2階と3階の回線が開きます。
今回の変更点として気脈は前回から1本多い3本から採る事として、1階は霊珠0.025カラット以下の初級編として稼働します。2階以降はそれよりも強力な魔物も合わせて出現します。
時間は事前にお伝えしていた通り、前回より長くなって3時間です。2時間45分を超えると全ての気脈からの邪気摂取が停止してダンジョン内の邪気が階段下に集まる事となります。
あ、1階は入り口に全て回収されることになりますので、合図をしたら魔物を討伐するようにお願いします。最後まで気を抜かずにお願いします。
また、3階には休息所兼簡易宿泊施設を用意しましたので、そこでの感想もいただけるとありがたいと思います。こちらに地図を用意していますので、参考にしていただきたいと思います。
あと、最後になりましたが、今回からイワナガヒメ様からのご紹介で不知火朱音さんが参加してくれます。初参加と言うことで、最初1階に配置されますが開始1時間経過後2階・3階にも回ってもらおうと思います。
説明は以上です。何か質問はありませんか?」
配布された地図はA6サイズの紙に印刷したものをホッチキスで止めただけの簡単なものだ。
ラミネートや防火加工の符など取り付けてないため、簡単にくしゃくしゃになるし、濡れるし火で燃えてしまう。
一応迷子になった時のために通信符だけは持って行ってもらうが、あとは地図を見ながらの自由行動だ。
「はい、ありません」
代表して穴井君が返事をしてくれる。
初参加の不知火さんにも視線を送ると、何も無いようで首を横に振ってくれた。みんな特別問題なさそうだ。
不知火さんと松本さんが少し火花を散らしているみたいなのが気になるが、元来人の機微には疎いのできっと気のせいに違いない。二人とも大学生だから仲良くなれるといいけどな。
「では、開始は14時です。これからダンジョン内への通路を後ろの壁から開きますので、参加者は時間までご自由に過ごしてください。
記録用紙とストップウォッチは前回同様で配布しますから、それぞれ記入してください。
神様方はこちらへ、今回の地図をもとに事前の解説を行います」
神様達への説明は天司とキエートがしてくれるため、征也は一人離れて気脈の最終経路の確認を始めた。
14時―
ダンジョン内に館内放送が流れる。
「皆さん、準備は大丈夫ですね? 14時10秒前です。5・4・3・2・1、開始です」
フィルターをオンにすると気脈へ邪気がすごい勢いで流れ込んできた。
ヘドロみたいだが、ダンジョン専用の気脈には意外と滑らかに流れ込んでいる。
フィルター付近の気脈は強化して邪気が滑り易くて貯まらないように素材を考えてみたのが良かったのだろうか?
『不知火です。ダンジョン内1階F地点です。魔物小鬼が形成され移動を始めました。これより討伐を開始します』
「始めて下さい」
思考の渦の中に沈む前に不知火からの通信が入る。どうやら不知火は2階以降へ入る気満々のようで、2階階段へ近い場所へ陣取ったらしい。
ざしゅっ
不知火の装備は小太刀である。演舞のような美しい動きで巧みに攻撃を避けながら近づき至近距離から切り付けている。
「うむうむ、なかなかの素材のようじゃの」
「この素材はどうしているのじゃ?」
「これは自分で作りました。邪気が滑り易くて溜まりにくい様に気脈の流れ方にもこだわってみました」
神様方は気脈の流れの方をじっと見つめる。好々爺の声で居ながら、その表情も目つきも鋭く真剣そのものだ。
「なるほど、素材だけでなく流れそのものも工夫してみたのか。そうじゃの、儂の所の気脈も少しいじってみるかの?」
「あまり弄ると流れの速度が変わって今までとは違った様子になるかもしれぬぞ」
「そうじゃのう、流れが速すぎて勝手が変わって来るか。それも面倒じゃ」
その後も自分の所に導入するかしないかと話を続けている。
邪気が貯まらないのは良いが、流れが速くなりすぎたり他の土地から苦情が来たりするのが困ると言っているのが端々から判った。
征也が今回弄ったのはダンジョン内とその接続部のみの変更のため、邪気が吸い取られる以外は周囲にはあまり影響を及ぼしていないはずである。
「開始後60分です。不知火さんは2階へ移動してください。聞こえますか?」
『はい、聞こえています。不知火です、これから移動します』
みな順調に魔物を狩りとっている。気脈のラインも問題なさそうだ。
「ねえ、捜査霊課って、かなり霊能力者の中では強い方なんだよね?」
何しろ神様たちの調停まで行う場所なのだ。相当強いはずである。
「はい、それがどうしましたか?」
「ダンジョンって、そもそも捜査霊課の討伐する場所じゃなくって、普通の霊能力者が討伐予定なんじゃなかったっけ?」
「そうですね」
当然だとでも言うように天司は何を突然と言いたげな表情だ。
「となると、この速度は速すぎ? それとも人数が少ないから妥当なの?」
現在、どんどん魔物が発生しており、どんどん捜査霊課の面々が討伐している。普通の霊能力者なら、こんなに討伐はできないはずなのではないか?
「ああ、大丈夫じゃないでしょうか?
こちらのシュミレーションでは普通の霊能力者が5倍程度を推測していますから、捜査霊課との能力差を考えればこの位が妥当かと思います」
何のことはない、そんなことは当然征也の知らない場所で考えてあったのだ。
「あああああああ、うん。…………天司君、そう言うことは先に言ってよね」
確かに決断力の弱い征也も悪いとは思うが、何も言わずに全て計算通りに動かしている天司たちも達が悪いと思う征也なのであった。
「前回よりも滞りなく邪気の侵入も流れも良くなっておる。入って来る邪気の量もなかなか多く、精製される魔物も変な物が混じらない分他の場所よりも霊珠の大きさに反して力が弱いようだ」
「ふむ、気脈を流れる純粋な邪気のみであればこの程度で済むか」
「いつものは欲望が他からもくっついてくるから強力さが増すようじゃの」
神々は気脈だけでなく、魔物の強さと霊珠の大きさの関連まで話を伸ばしている。
そういうものもあるの? 魔物の強さの変化って。
16時45分―
ダンジョン内に征也の館内放送が響く。
『皆さん、邪気の気脈を閉めます。階段近くにて邪気を集めますので、最後まで気を抜かずに討伐の方を進めてください。終りましたら、会議室の方への上がってきてください』
うねうねとした邪気の立ち上る場所では、黒っぽい邪気が色を消していく。
気脈が閉じた後には「タワシ君3号」を投入して綺麗に邪気が排出されるようにする。ちなみにタワシ君1号と2号は使い勝手が悪くうまく掃除が出来なかったために没となった。
タワシ君3号が中心となって今日最強の魔物「幽霊」が各所に生まれた。それを各階のメンバーが討伐する。
『1階終了です。1階の人は上がってください……、3階も終了です。…………2階、終了です。本日のダンジョン試運転はこれで終了します。みなさん、会議室へ上がってきてください』
「では、しっかりやれ」
放送が終わった後、そう言って神々は満足したのか勝手に帰って行った。一応気脈の邪気が安定して流れており、接続部分もお墨付きをもらえる程度には十分強化と技巧を認めて貰えたようだ。
ダンジョンから討伐メンバーたちが全員戻ったのは、通信符を介した転送魔方陣を使ったためその放送の10分後であった。
「お疲れ様でした。いかがでしたか?」
会議室に帰って来た面々に感想を聞いてみる。
「前回も思ったけど、今回も気を抜くとどんどん魔物が強力化して結構大変だった。…………普通の能力者だけだったら結構大変だったかもね。…………まあ、どうせ人数いるから大丈夫でしょうけど」
「ああ、それ思いました。それから簡易宿泊所はなかなかいい造りになっていましたね。
周囲に強力な結界が張ってあって何かあって逃げ込むにはもってこいの場所でしたし、安心して休むことが出来るようです。あの結界の強さは異常ですよ」
「宿泊所ね、あれとってもいいと思った」
口々に宿泊所の結界について話す。
「不知火さんはどうでしたか? このダンジョンは普通の霊能力者に公開して討伐してもらう予定になっているのですが、なにか気づいた点などありますか?」
「はい、普通の霊能力者を相手にするのであれば、魔物の出方は多かったかもしれません。しかし、広く公開するつもりなら、人数が多くなると思いますので今のままでも大丈夫かと。
1階の設定や簡易宿泊所の場所は良かったと思います。私の目から見て問題点となる所はありません。
しかし、1階と2階の境目には何かなければ資格のない者が勝手に通り抜けようとするやもしれません。それについてはどうお考えでしょうか?」
やっぱりそこか。実力を見誤ったり、欲を掻いて自滅したりする人は多いと思うんだよね。
「そうだね、誓約書を書いてもらおうかと思っているんだよね。それで誓約書のサインが無い人は2階に行けないようにしようかと思っているんだけど…………」
誓約書の術式で縛ってしまうのだ。
他の方法はあまり知らないが、天司に聞いたところそう言う方法も取れると習ったため、神の力で実施する誓約書の方法が一番確実な方法でないかと思う。
「それは甘いと思います。自分が危険なところに行くのですから、最終的には自己責任です。自制が効かない人をこちらで管理する程労力を使う必要はないと思います。
それより一刻も早くダンジョンの開始を急ぎ、システム整備に力を注ぐべきではないでしょうか?」
キエートは否定的だ。
「キエート? 何か冷たくない?」
キエートはギンッと強力な眼力で征也を一瞥すると、一つ溜息をついて諦めたように説明してくれた。
「そもそも自分の決めたこともできない人が霊能力者を名乗っていいはずがありません。
霊能力者とはもっとも邪気に触れる機会の多い者を言うのですから、自己判断・自己責任が取れなければ必ずどこかで自滅するだけです。
今回の件についても、2階へ行けなかったことを逆恨みしてこちらに被害が来ないとも限りませんからね。それでしたら、余計な労力を使わずに、ダンジョンの整備の方へ力を使ってください!」
力説しながらも段々怒っていっている。一体過去に何があったのか。
結局不知火も捜査霊課もキエートの案を受け入れて「自滅した奴は仕方ない」とダンジョンの整備を早急に進めるということになった。
少しずつ出来上がってきて、開業に向けて具体化していっています。




