〔31〕コスプレ誕生会⑥まるで王子さま・神呂木星人(かむろぎほしと)
食事のあと、女子の五人はそれぞれ二人掛けの席でお茶をしました。ドビュッシーの『小組曲』(管弦楽版)がしっとりと流れる中で、星の涙クッキーと銀河の煌めき紅茶を頂きました。私の席には、演劇発表会の後にここあちゃんに白いバラを贈った王子さまが座りました。ユキの席にはさめと君が、ここあちゃんの席には一反木綿が、そよりさんの席にはケンタウロスが、カスミの席にはカンガルーがそれぞれ座りお話をしていました。
「(そよりさん以外が、何かいつもと違う組み合わせね~)」私は不思議に思いました。
「こんにちは」王子さまが向かいの席に座りました。
「こ、こんにちは」私はとても緊張しました。
「いつも、遊んでくれてありがとう」温かみのある優しい声でした。
「あの~」私は、どう話していいか分かりませんでした。
「どうしたの? 何か聞きたいの?」王子さまが優しく聞いてくれました。
「王子さまは、ドーブツになっている間の記憶はあるのですか?」
「王子さまは、やめてほしいな。ほしとと呼んで欲しいな」ふふっと笑いながら言いました。
「ほしとさんは、黄色い猫でピューマですよね? 遠足や運動会や演劇発表会を覚えていますか?」
「まぁ、全てじゃないけれど覚えているよ。キミたちにはドーブツや妖怪に見えるかも知れないけど、ボクたちもキミたちを外見で認識できていないんだ。人間が犬や猫を見ても毛の色などでしか区別が出来ないのと一緒かも知れないね。相手を心で感じるしかないんだ」
「なるほど~、そうですよね~」私は納得しました。
「ほしとさんは、人間の時には何をしているのですか?」
「ナントカナルニア国で勉強をしているよ」
「そこはどの辺にある国ですか?」
「スウェーデンマークとフィンランドイツの中間にある、バルトルコ海に浮かんでいる小さな国だよ」
「何お勉強をしてますか?」
「医者と牧師とエンジニアの勉強をしています」
「お医者さんと牧師さんは分かるのですが、エンジニアって何か作るのですか?」
「いろいろ作りますが、今夢中なのはロケットのエンジンですね」
「何かスゴイ志が高いです!」私は、尊敬してしまいました。
「ありがとう。やりたいことが多くて困っています」
「やりたいことが多いことが若さかも知れませんね。時間がかかることなど考えませんから」
「おやおや、あなたはステキな考え方をしますね。お話していてとても楽しいです」
「私もいろいろなお話を聞けて楽しいです」
「でも、お医者さんと牧師さんとエンジニアって、まるで考え方が違いませんか? 勉強をしていて混乱しませんか?」
「そうですね。医者は体のことについて勉強します。牧師は心のことを学びます。ですが、何かを作るということは、人間に備わっている本能なのです。ですから何事も勉強しなければいけません」同年代には見えない立派なお方でした。
「あなたは、いつも絵を描いていますね」
「父が高校の国語教師なのですが、私は活字よりも絵画の方に興味がありました」
「何かしら作品を残すということは良いことです」いつまでも話していたい楽しい時間でした。
不思議なことに、ここあちゃんは一反木綿と、カスミはカンガルーとお話をしていました。
「(いつも、ドーブツや妖怪さんと話が出来たっけ?)」私は疑問に思いました。
『ぺにゅへると』聞いたことがない音がしました。そよりさんとお話していたケンタウロスが人間になりました。プロレスラーのように体格の良い、髪が短めの男子でした。
「おー、氷悟じゃないか~。お前もついに人間になったか~」さめとが言いました。
「おー、さめとじゃないか~。こんなところで会うとは奇遇だなー」氷悟が言いました。
「お二人とも、お元気そうで」ほしとが話しかけました。
「おや? キミは交換留学生で一緒に勉強した神呂木星人くんじゃないですか?」氷悟は懐かしそうに言った。
「帰国したんじゃないの? 久しぶりだね~」さめとが言いました。
【海原鮫斗】父が独立行政法人『農業王』を運営している。サッカー部のキャプテンで、アンダー15のメンバーにも選ばれている。一時期怪我をして悩んでいた時にぬりかべになっていた。
【神呂木星人】ナントカナルニア国の貴族で交換留学生。在学中は、マイコン同好会の会長をしていた。とくにコンプレックスを感じることもないので、妖怪になったことがない。
【猩々氷悟】柔道部の主将。全国中学校柔道大会で8位に入賞したことがある。体型の問題で速く走ることに憧れていたので、ゴールデンレトリバーやケンタウロスになっていた。
その後、そよりさんにみんなからプレゼントが渡されました。ここあちゃんは手編みのチェックの帽子とマフラーを、ユキはビーズをちりばめた携帯電話ストラップを、カスミは粘土で作ったワニの置物を、私はフェルメール風の肖像画を贈りました。
「すみません、校長先生。今日は、校長先生の誕生日だとは知りませんでした」ユキが謝りました。
「気にしなくてもいいんですよ。楽しい時間を過ごせただけで満足です」こうして、コスプレ誕生会もまた、楽しい思い出の一つになりました。




