第21話 聖獣
地面から急激に水が湧き出し驚く二人。いや、感触からしてこいつは水ではなく粘液だ。とっさにスキルを唱え素早さを上げこの場から脱出。攻撃してきた? 周りには人間の姿はない、隠れているのか。
「捕まえる前に逃げ出すなんてやるわね」
どこかからか声が聞こえてくる、このこもっている声、地下からか。先ほどいた場所に粘液が急激にあふれ出し人間の形状に変化していく。
「強い力を持ってそうだ」
あきらかに人間ではないスライムの化け物。人語を話す魔物は存在するとか。しかし魔物だとすると一定の地域にしか出現しないというルールから逸脱している。話せるのなら実際聞いてみるのが一番早いか。
「アンタは何者だ」
「さーてね、何者だろうねぇ」
ねっとりと俺の言葉をかわすスライム。
「人間を襲ったスライムか?」
「んふふ、人聞きが悪い、人探しをしていてね、ただ力を見たかっただけよ」
昨日のスライムで間違いなさそうだ。確かに怪我人はいなかったな。なら敵意があって襲ったわけではないのか。しかし油断はできない、突如現れた彼女の言葉を信じるのは危険だ。
「そうだ。私の一部を攻撃してみて。攻撃面で圧倒的力があるかもしれない」
「圧倒的‥‥」
その言葉に反応するサラ。彼女とスライムでは共通点は全くないように思えるが。俺の前に粘液の塊がぼこぼこと湧き出してくる、これに攻撃しろと。俺に興味を示し力試しをということだな、その様子に敵意がないことはわかった。どうする、それでも怪しげな相手であることは間違いない。むやみに力を見せていいものか。結局彼女は何者なのか人類なのか? 話ぶりからして圧倒的な力を見せれば俺が目的の人間ということで今後他の冒険者に力試しをしなくなるかも。関わりたくはないけど放っておくわけにはいかないな。彼女の話の乗ってみるか。
「いいだろう、ただこのままではアンタが危険だ。可能なら切り離して本体は隠しておいた方がいい」
スライムは核が弱点。どれだけ粘液を切り刻もうがこの核を潰さない限り死ぬことはない。俺のスキルは相手が死ぬまで発動し続ける、切り離してもスキルが襲い掛かってくる可能性はある。そこで保険として俺の見えないところへ隠れることを提案。射程無限とはいえ見えていない相手にはスキルが発動しないから核を隠しておけば死ぬことはないはず。
「あら優しい。スライムはかなりの防御力を誇るから大丈夫だと思うけど、お言葉に甘えちゃおっかな」
核は地面に潜り、一部だけ地上に残った。ではお望みどおりに。
「オーバーフォーススラッシュ!」
スキルが発動、粘液に斬撃が走る、流石液体のスライム、ダメージが入っているようには見えないが、三発目くらいから形状が崩れ始め、闘気の攻撃になると他魔物のようにビシャビシャに。どうやらスキル一発で破壊することができたようだ。少しして地上に姿を現した本体は、自分の体の一部を見て驚く。
(高レベル冒険者でも私の肉体を破壊するのは容易ではない。しかもこんなぐちゃぐちゃに。もし本体を出していたら死んでいたかも。装備からしてまだ新規冒険者。やはりこの子が)
立ち上がりこちらに向き直るスライム。
「私と契約しない?」
「契約って」
「私は聖獣なのよ」
「ええっ?」
聖獣は存在する地域から動けないはず。もしかして契約者が俺達にいたずらを? そう思い周りを見渡すも彼女の契約者が見当たらない。
「ふむん、らちが明かないわね。わかった、説明するわ。ここじゃなんだから街に戻りましょう」
粘液が彼女に集まっていく。先ほどまでの透明な姿ではなく服までも形作り見事に人間に擬態する。肌の質感、風が吹くと髪や服がなびく、どこからどう見ても普通の女性にしか見えない。俺達は街に戻り公園へ行き彼女と話をすることに。
「名前は?」
「そういえば決めてなかった、ラインでいいわ」
「了解」
「元々私はスワンプスライムという魔物だった。ある時、天から声が聞こえたの。生まれた勇者に力を貸してあげてとね、こうして私は聖獣に生まれ変わった」
「そんなことが」
「生まれ変わった後、15年後に現れる圧倒的な力を持った新規の冒険者を探しなさい、とだけ聞いてその後はその声は聞こえなくなった」
それで力試しをしたのか。自由に動けることに関しては彼女はわからないと答える。話からして神様が自由に動けるように力を与えたといったところだろう。それにしても勇者って俺のこと? 一般社会人のソシャゲ好きの俺が異世界に飛ばされて勇者になるとは、人生わからないものだ。サラが何か話したそうにしている。
「どうした」
「私もそれに近い話なんです」
実は彼女も生まれ変わりだとか。前世はなんと世界樹。
「世界樹ってあの風の大陸の?」
「はい。15歳になった時、天から声が聞こえました。世界樹の生まれ変わりのサラよ、バルトワ付近にいるまだ駆け出しではあるが圧倒的な力を所持する勇者を探し出し共に戦うのですという言葉をいただきました。優し気な女性の声でした」




