【第一章】第八部分
「痛い!1秒戻ったみたいだけど、すでに噛まれてるんですけど!」
和人は二本角獣を引き離したが、すでに顔面流血状態である。
「わかってるわよ。すぐに治癒魔法よ。相対魔法、術式・治癒、制限・オン。対象・人間1名、範囲・顔、時間・1秒、到級1。発動!」
咲良は和人の顔に手を当てて呪文を唱えた。すると、みるみるうちに傷口が塞がった。
「出血は止まったけど、噛まれたっていう強烈な実感が残ってるよ!」
「仕方ないでしょ。1秒間で治癒できるレベルはそれぐらいよ。後遺症が出ても知らないわよ。」
「そんな無責任な!」
「それよりもコイツを早く倒さないと。」
「でもどうやって?」
『ガウガウガウ!』
二本角獣は大きく口を開けて牙を見せる威嚇のポーズ。
「弱点がわからないなら、こうするのよ。究極攻撃魔法、相対魔法、術式・火、制限・オン。対象・術獣1匹、範囲・全体、時間・1秒、到級1。発動!」
『ドカーン!』
大きな爆発音で、二本角獣は消滅してしまった。
「ボリューム敗者女、意外に強い。∴ここは退散する。」
気づくと名詩魅は体育倉庫から姿を消していた。
「アタシの魔法の威力で命拾いした感想はいかが?」
「命はたしかに助かったけど、まだ頬が痛いし、もうちょっとどうにかならないのかな。
それに1秒ずつ魔法を使うって、変じゃないか。前は3秒だったし。もしかしたら魔法は3秒しか使えないんじゃ?」
「さ、3秒も使えるんだからスゴイのよ。他の天使はもっと長く使えるけど。」
「3秒ルールじゃないか。バスケじゃあるまいし。要するに咲良様は、使えない天使なんじゃ?」
「バカー!」
咲良は和人をボコボコにして、和人は二本角獣にやられた攻撃と同等レベルのダメージに逆戻りした。
「なんだか体が軽くなったような感じだなあ。」
「それはアタシの魔法がスゴイからよ。感謝しなさいよね。」
「そうかなあ。なんか違うような気がするけど。」
帰宅して、和人の部屋でふたりは話し合いをしている。
「自称許嫁って、ヤマナシケンの幼なじみなのよね。いったいどこに住んでるのよ?」
「うちの隣りだよ。そこの窓から見えるよ。」
「ちょっと、ヤマナシケンはどうしてそんなに落ち着いてるのよ。」
「だって、幼なじみだよ。許嫁というのはともかく、ボクを襲うなんて、何かおかしいよ。悪いヤツに操られでもしてるんじゃないかなあ?」
「何を呑気なことを言ってるのよ。命を狙われたという現実を直視しなさい。」
「う~ん。でも命を狙うなら、すぐにここに来ても良さそうなんだけど。」
「それはそうだけど。」
結局、この日の夜に襲撃されることはなかった。