【第一章】第七部分
(ちょっと、ヤマナシケン。いったいどうするのよ。)
「咲良様とは、全然全く微塵も百%関係ないから大丈夫。」
(それはそうだけど、その言い方はなんだかムカつくわね。)
「名詩魅。この目を見てよ。ボクはウソをついてないよ。」
和人は最大の目力を投入した。つまり大きく、カッと目を見開いたまま、名詩魅に顔を近づけた。今にもコクりそうな勢いである。
さすがに和人の迫力に押されて、名詩魅の目が脱力した。
「その目、許嫁、久しぶりに見た。真実、訴えて、売り飛ばす迫力。∴縦笛疑惑、解除。」
「やった。疑いが晴れた!」
和人が思った瞬間。
「ハクション!」
和人は目に力を入れ過ぎて、涙腺が弛緩し、鼻の方に流れ出てしまったのである。
結果、和人はくしゃみして歌口に触れてしまった。
(あはん!)
「かずちゃん。今の不審音声。∴追及する。」
「今の声はボクだよ。たまにあははんと笑う練習をするんだ。あははん。」
和人の大脳はそのように言うという指示を声帯に貸したが、残念ながら、口はリコーダーをくわえたままだった。空気を送り込まれたリコーダーは空気摩擦を起こしてしまう。
『ぴーひょろろ♪』という鉄板でトリッキーなサウンドが流れた。
『どどーん!』
和人と名詩魅の目の前には、二枚の羽を靡かせる白いドレスの天使咲良が現れた。
名詩魅はあっけに取られ、横長目は線になってしまい、和人は口開けの許容範囲を超えてアゴが外れた。
「かずちゃん。またウソついた。∴かずちゃん、裏切りタヌキになった!」
名詩魅は紫色のモヤモヤがスーパーサイヤ人のように燃え盛った。表情はいつもの通り鉄仮面ではあったが。
「名詩魅のモヤモヤが変化してるよ。これってまさか。」
モヤモヤは脈打つように突起状に蠢いて、だんだんと形ができてきた。
「そのまさかよ!昨日の夜に家に来たヤツと同じ?」
「でも角が二本あるよ。」
「少しぐらいは違いはあるわよ。昨日と同じく鼻を狙うのよ。」
「でも違う種類だけど、同じ手が通用するかな?」
「そんな細かいことを気にしてたら、小さくなっちゃうわよ。」
「何が小さくなるんだよ?」
「なんでもよ!些細な言葉に深入りするのは警察の仕事なんだから。さっさとやりなさいよ。」
「その女、どこの誰か知らない。どこに女子力、あるのかわからない。∴かずちゃんの視線で判断する。」
和人は名詩魅の言葉に誘発されて、こともあろうに、両者のバストを見てしまった。
さらに、言わなきゃいいフレーズを漏らしてしまった。
「ボリュームでは、名詩魅の完勝だね。」
名詩魅は自分の胸を触り、手のひらでサイズを計測し、その大きさを咲良に示した。
苦虫を噛み潰したように、咲良の顔に皺の波が押し寄せた。
「バカ~!もう許さないわよ!」
「許嫁を許さないという言葉、もらった。∴今から術獣で殺す。」
「名詩魅。それは穏やかじゃないよ。むしろ、ボクの説明を聞いてほしいよ!」
「その女のこと、聞いてもムダ知識。∴宣戦布告!」
名詩魅の言葉と共に二本角獣が和人に飛びかかった。
「あわわわ!でもこれでゲームオーバーだよ!」
和人は右手を伸ばして、二本角獣の鼻を狙い、見事にヒットさせた。
不幸にも和人の予想が的中してしまい、二本角獣はなんらダメージを受けず、代わりに和人は深く硬い爪の餌食となった。
「うぎゃあああ~!」
額から大量出血する和人。
「時魔法を使うわよ。1秒だけ戻ったら魔獣をどけるのよ!相対魔法、術式・時、制限・オン。対象・人間1名、範囲・全身、時間・1秒、到級1。発動!」
咲良が大きな声を出した。
『ぎゅるるる~!』
音はしていないが、和人には時間の巻き戻しはそのような感覚であった。




