【第一章】第六部分
この日は、まる1日、紫色モヤモヤが止まることなく、下校時間を迎えた。
「かずちゃん。ちょっと付き合って。」
『ぴー!』
「咲良様、どうしたんだよ?」
(ヤマナシケン、わかってるの?今、コクられたんじゃないの?)
「違うよ。この場合の付き合ってっていうのは、いっしょにこい、って意味だよ。」
(一緒に恋?そのまんまじゃない。)
「そうじゃないよ。とにかく名詩魅の後についていくからね。」
プンスカやってる咲良をスルーして、名詩魅の後を追う和人。
(どこにいくのかしら?)
「さあ。別に命を取られたりなんてことないから、フツーについていくよ。」
(ここって安全な場所よね?ずいぶん暗いけど。ていうか、ほぼ真っ暗なんだけど。)
名詩魅と和人は誰も下校時刻で、誰もいない体育倉庫に入っていった。
「おかしな動きあれば、許嫁として検査する。今日1日の様子異常。縦笛に執着。そんな色みたことない。かずちゃんの所有物、許嫁のリストにすべて計上済。昨日まで持ってなかった。昨日、買い物に行ってないから、作るかもらうしかない。そんなものを作るプラスチック原材料、かずちゃん宅に存在しない。残る選択肢、もらった、つまりプレゼント。それ、裏付ける、ネーム入り。サラ。その名前の女子、かずちゃん親族の六親等以内にいない。」
「どこまでボクのこと、親族のことを把握してるんだよ?」
「すべて。かずちゃんより、知ってる。許嫁、別名ストーカーは、知っててもおかしくない。フフフ。」
「そんな別名あるか!犯罪かどうかは後で検討するとして、あらぬ疑いを受けてるよ。ボクには疚しいところはないよ。一点の曇りも見つからないよ?」
「なぜ疑問符を付ける、なぜ顔が明後日の方を向いている。∴ハイレベルな疑問噴出。」
「な、なんでもないよ。ボクが名詩魅にウソついたことってある?」
「かずちゃんのウソ履歴多い。∴注意必要。」
「え?ボク、名詩魅にそんなことしたっけ?」
「幼稚園の時、かずちゃん、砂のごはんに魔法をかけて、『これ食べられるよ。』と言った。許嫁、それガリガリ食べた。ちょうど虫歯になっていた乳歯が取れた、∴感謝。小学生時、運動会の日を違う日、教えてくれた。結果的に、運動会用弁当食べられた、∴感謝。教科書忘れて貸してくれた教科書は違う科目。内職できた、∴感謝。絵の具貸してくれたら、赤は鼻血、筆が固まった。先の固くなった筆は彫刻刀として使った、∴感謝。」
「そ、そんなこと、あったかなあ?あまり覚えてないけど。」
和人の言葉を聞いて、横長の目がほんのわずか、波を打った。騙されたという思いが純真な子供心を破壊した。それで名詩魅はフラットになったのである。でもそれを和人は知らない。
「今日はウソ、つかないでほしい。許嫁、悲しくなる。」
横長の目が潤んだように感じられた。