【第二章】第五部分
「痛いなんて、言わないわよ。こちらにも意地があるんだからね。相対魔法、術式・治癒、制限・オン。対象・自分、範囲・全身、時間・1秒、到級1。発動!」
咲良は何事もなかったかのように立ち上がって、水色フリフリのワンピースをはたいた。
「魔法を使わなかったらゲームオーバーだったわね。」
「さすが天使ですよ。これで完売じゃ儲からないですよ。次の商品はこれですよ。」
水の竜は透明になった。
「コンビニの目玉商品はアイスですよ。」
「ショッピングモールじゃなかったっけ?」
和人がツッコミを入れた。
「言葉が長過ぎるので、短くするですよ。これももったいない精神の発現ですよ。ということで、水魔法アイスモード。相対魔法、術式・水、制限・オン。対象・竜、範囲・全身、時間・3分、到級3。発動!」
水の竜は瞬時に氷に変わった。しかし顎は動いており、ガチガチと耳に痛い音を立てている。
氷の竜は大きく開いた口から鋭いキバを見せて、咲良に迫り来る。
「仕方ないわね。相対魔法、術式・火、制限・オン。対象・竜、範囲・全身、時間・1秒、到級2。発動!」
火炎放射器のように強力な炎が氷の竜を包み込んで竜は一瞬で消えた。
「あら。1秒で消したですよ。びっくりですよ。さすが天使ですよ、コワいですよ。」
「ふふん。もっと誉めなさいよ。誉め殺しされても、誉められ慣れてるから死なないけどね。」
両目を伏せて、鼻を高くしている咲良。
「ボクの知る限りでは、初めて誉められたのでは?」
「ヤマナシケンのクセに、KYな余計なツッコミはやめてよね。そこで空気を読むことで無呼吸で生命維持できる方法でも考えなさいよ。」
「そんなことできるか!」
「あらあら。仲のよろしいことですよ。焼けるですよ。いやさっき焼かれたですよ。じゃあ、ギアをもう一段あげるですよ。相対魔法、術式・水、制限・オン。対象・竜、範囲・全身、時間・3分、到級4。発動!」
シャーベット状の竜が現れた。
「水系魔法で氷より固いものってないですよ。でも氷よりもやっかいなものはあるですよ。」
「なによ。こんな竜なら攻撃受けても痛くもかゆくもないわ。」
「フツーそう言うですよ。ならばシャーベット竜の攻撃を受けてみるですよ。」
『がぶっ』と咲良に噛みついたシャーベット竜。
「ほら、痛くなんかないわ。全然威力を感じないわよ。」
「それはどうですよ?痛覚の弱いモノはどう感じるですよ?」
「か、痒いわ。何これ。全身がむずかゆいじゃない。それにぬるぬるして気持ち悪いわ!」
「そうでしょうですよ。これは納豆菌を使った水ですよ。弱さは強さなのですよ。痒さは時として痛さよりもやっかいなモノですよ。」
「やだ、やだ、やだ!いったいどうしたらいいのよ。」
からだをよじらせる咲良。笑い混じりの苦悶の表情は不自然極まりないものである。
「このまま、苦悶死期を迎えるですよ。」
「いやよ、こんな死に方!どうしよう。一秒戻しても解決しないわ。火も使えないわね。シャーベット。相対魔法、術式・治癒、制限・オン。対象・竜、範囲・全身、時間・1秒、到級2。発動!」
すると、バラバラになって咲良にくっついていたシャーベットの竜が復活していた。しかし、1秒だけだったので、十分な再構築ができず、だらしない形であった。
「これでは使い物にならないですよ。」
販売員は魔法を解除した。