第1話
エリーゼというお姫様がいました。その国フロイデ王国には王子も王女ももう十分おりましたので、あとを継がなくてはいけないとか、他国へ嫁がなければというような、王族としての重責はありませんでした。
エリーゼは兄王子達が大好きで、小さい頃から兄王子達についてまわり、5歳頃からは、鍛錬をする兄達の傍ら、見よう見まねで剣を持つようになりました。小さな末姫が必死についてくる様はとても愛らしく、兄王子達もエリーゼに稽古をつけながら側に置き、とても可愛がっておりました。
フロイデ王国には貴族の子弟が通う王立学院があり、めぼしい貴族は小さい頃から王立学院で剣や学問を学びます。「学びやにおいては皆平等たるべし」との建学の精神に基づき、王立学院では家名が伏せられ、有力貴族も王族も等しく切磋琢磨するゆえに、王立学院で過ごす数年間は尊く、貴族にとっては一生の主を、王族にとっては右腕となる側近や騎士とめぐりあう場となっておりました。
「おおいやだ、朝から卑しい者を目にするなんて」
エリーゼが振り返ると、第四王女のガーベラが供を連れ、眉をひそめていました。
「おはようございます、ガーベラお姉様」
「やめて頂戴、馴れ馴れしく呼ばないで。お兄様がたが卒業されても、性別を偽って王立学院に残っている、恥さらし!あなたみたいな男女とわたくしに繋がりがあると思われたら我慢ならなくてよ。」
ガーベラに付き従う白衣の騎士を見てエリーゼは唇を噛みました。
「ふふ、わたくしの騎士が羨ましくて?騎士もつけて頂けないなんて、お里が知れるわね。」
ガーベラの目の合図で騎士がエリーゼに斬りかかる・・・とともにキィンと剣は受け止められました。現れたのは黒髪黒衣の剣士。口元も布で覆われており、顔はよく見えません。
「大事な影をこんな子につけるなんて、全くお兄様の気がしれないわ。気分が悪いわ、参りましょう」
ガーベラは騎士を従えて去ってゆきました。
「ルーカス、ありがとう」
うつむくエリーゼの前に跪く黒衣の剣士は、先程の第四王女ガーベラの煌びやかなドレス姿を思い浮かべ、王立学院の制服に包まれた、少年にしか見えない目の前の少女を見上げました。
「当然のことをしたまでです。どうかお気になさらず、リーゼ様」
「いいえ、あなたには本当に悪いと思っているの、ルーカス。あなたは本当はお母様の騎士なのに、お母様が亡くなられてからも私のためにこの国に残っていて。本国へ帰ればもっと立派なお役目があるのに、影などに身をやつして、顔を隠して暮らしている」
エリーゼは拳を握り締めながら、一日も早く自分の力で騎士を得てルーカスを解放したいと思うのでした。
これはフロイデ王国の末の姫、エリーゼのお話。
初めての投稿なので、至らない所があるかもしれません。
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