第4話 財団に呼ばれた俺の隣に、なぜか先輩がいた件
研究補助プログラムに応募しました。
三日後。
審査が通りました。
主人公は、
「そんなに早いものなんだな」
くらいにしか思っていません。
周囲は少し困っています。
特に御堂先輩は、たぶん本人が思っている以上に困っています。
よろしくお願いします。
応募書類を出したのは、プログラムの案内をもらった翌週の月曜日だった。
財団のWebサイトに記載されていたフォームに必要事項を入力して、レポートのPDFを添付して、送信した。
作業時間は三十分くらいだったと思う。
で、その三日後の木曜日。
浅野先生から電話が来た。
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「神木透くん、ですね」
「はい」
「浅野です。先日お会いした」
「覚えています」
「書類、拝見しました。審査を通過しました。おめでとう」
俺は少し間を置いた。
「……三日で審査が終わるんですか」
「あなたの場合はね」
浅野先生の声が少し笑っていた。
静かな笑い方は、面談のときと同じだった。
「来週の土曜日、財団の建物に来られますか。事前のオリエンテーションをしたいので」
「はい」
「場所はメールで送ります。あと一つ、確認させてください」
「なんですか」
「あなたの学校の生徒会長、御堂鈴音さんという方ですね」
俺は少し意外に思った。
「そうです。なんで先輩の名前が」
「彼女から連絡をいただいたんですよ」
「……先輩が?」
「外部機関が生徒に接触する場合は学校側を通す慣例があるそうで、窓口として連絡をくださいました。熱心な方ですね」
「そうですか」
「せっかくなので、当日は一緒に来てもらえますか。こちらも学校側との連携の話をしたい部分があって」
「俺から先輩に伝えればいいですか」
「お願いします」
電話が終わった。
俺は少し考えてから、御堂先輩にメッセージを送った。
*「財団のオリエンテーションが来週の土曜日にあります。浅野先生から、先輩も一緒に来てほしいと言われました」*
返信は三分で来た。
*「わかった。集合場所と時間を教えて」*
早かった。
なんかずっと画面を見てたのかな、と思ったけど、まあ先輩は忙しい人だからそういうことはないだろう。
俺はメールで届いた住所を転送した。
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土曜日の朝、待ち合わせは最寄り駅の改札前にした。
約束の時間の五分前に着いたら、御堂先輩はもう改札の前に立っていた。
制服じゃなくて私服だった。
白いシャツに、薄いベージュのジャケット。
なんか、いつもより少し大人っぽく見えた。
……別に、それが何かってわけじゃないけど。
「来た」
「おはようございます」
「おはよう。電車、次で来るから」
先輩が歩き出したので俺もついていった。
ホームで並んで待ちながら、先輩が口を開いた。
「緊張してる?」
「してないです」
「そう」
先輩が少し俺を見た。
「……本当に?」
「本当に」
「なんで」
「なんでって言われても。会って話すだけじゃないですか」
「財団の研究員と話すんだけど」
「先日も話しましたし」
先輩が前を向いた。
小さく息を吐いた。
「……私は少し緊張してる」
「先輩が?」
「あなたじゃなくて私が、ね」
俺はそれが少し意外だった。
「先輩、すごい人じゃないですか。生徒会長で、いろんな外部の人と話してるって言ってたし」
「それはそう。でも今日はちょっと違う」
「何が違うんですか」
電車が来た。
先輩が乗り込みながら、小さく言った。
「別に」
またその返事だった。
俺は乗り込みながら思った。
先輩の「別に」はたぶん、「答えたくない」と「答えが自分でもよくわからない」の二種類あるな、と。
今日のはどっちだろう。
まあ、聞いてもたぶん「別に」と返ってくるだろうから、やめた。
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財団の建物は、大学のキャンパスに隣接した場所にあった。
古い建物じゃなくて、ガラス張りの割と新しい感じの建物だった。
入口前の看板に《国立青少年科学振興財団》と書いてある。
俺と先輩は門の前で立ち止まった。
「大きいですね」
「うん」
「思ってたより」
「私も思ってたより」
先輩が財団の建物を見ながら、静かに言った。
その横顔がなんか、いつもと少し違った。
真剣な顔じゃなくて、なんか……少し、どきどきしてる顔に見えた。
俺はそのことを口に出さなかった。
言ったら「別に」か「うるさい」のどちらかが返ってくるだけだと思ったので。
「行こう」
「はい」
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受付で名前を告げたら、田村さんが出てきた。
面談のときと同じ女性だ。
「神木くん、いらっしゃいました。こちらが御堂さんですか」
「はい。生徒会長の御堂鈴音です。ご連絡させていただきました」
先輩がすっと頭を下げた。
俺の横にいる人が同じ先輩なのに、なんか急にきりっとした。
「ご丁寧にありがとうございます。浅野も楽しみにしておりまして」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
田村さんが俺を見た。
「神木くん、今日は別に難しいことはないので安心してくださいね。プログラムの説明と、研究テーマのヒアリングが主な内容になります」
「わかりました」
「では、こちらへどうぞ」
田村さんが廊下を案内してくれながら歩いた。
壁に額縁に入った写真が並んでいて、プログラムの過去参加者らしい高校生たちが写っていた。
みんな難しい顔をして、何かの機器の前に立っている。
先輩がその写真を見ながら歩いていた。
俺は少し考えた。
やっぱり先輩は今日、いつもと違う。
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案内されたのは、中くらいの広さの部屋だった。
会議室とも違う、なんか研究所っぽい雰囲気がある。
丸いテーブルに椅子が四つ。
浅野先生が既に座っていた。
「来たね。座って」
俺と先輩が向かいに座った。
田村さんも端に座った。
「改めて、プログラムへの参加、おめでとう」
「ありがとうございます」
「御堂さんも来てくれたんですね。連絡してくれてありがとう」
「いえ、学校として責任を持って関わるべきだと思いまして」
先輩がまた真剣な顔で答えた。
浅野先生が少し微笑んだ。
「頼もしいですね。今日はプログラムの説明の後、神木くんの研究テーマについて少し話したいと思っています。御堂さんにも一緒に聞いていただけると助かります」
「はい」
浅野先生がテーブルに資料を広げた。
プログラムの概要が書いてある。
「まず全体像を説明します。このプログラムは年間を通じて行うもので、参加者には担当の研究員がつきます。月一回、ここで面談をして研究の進捗を確認します。費用は財団が負担するので、神木くんの持ち出しはありません」
「研究テーマは自分で決めるんですか」
「基本的にはそう。ただ、今日のヒアリングで方向性を決めるお手伝いをします」
「なるほど」
「あなたが花粉のレポートで使った分析手法、あれを発展させる方向が一番自然だと思っているんですが、どう思いますか」
俺は少し考えた。
「花粉の研究を続けるってことですか」
「花粉に限らなくてもいい。気流と粒子の分布、という広いテーマで考えると、応用できる分野はかなり広いんです。医療、建築、環境……いろいろある」
「俺には医療とか建築とかはよくわからないですが」
「わからなくていいよ。あなたはあの式をもっと精密にすることを考えてくれればいい。周辺の知識は担当の研究員がサポートします」
俺はそれを聞いて、少し整理した。
「式を精密にする、というのは具体的にどういうことですか」
「今のレポートだと、計測ポイントが限られていて、値の誤差が出る場面があります。その誤差の原因を特定して、修正する」
「なるほど」
「気になる?」
「……はい」
浅野先生が少し笑った。
「じゃあそれでいこう」
そんなに簡単に決まるのか、と思ったけど、「はい」と答えた。
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説明が一通り終わって、田村さんがお茶を出してくれた。
少し和んだ雰囲気になって、浅野先生が御堂先輩を見た。
「御堂さん、一つ聞いてもいいですか」
「はい」
「彼のこと、最初に気づいたのはどのタイミングですか」
先輩が少し目を開いた。
俺も少し意外だった。
「……自由研究の提出後に、学校側で生徒の研究を記録する作業をしていまして。そのとき、神木くんのレポートを見ました」
「読んで、何か思いましたか」
「……正直に言っていいですか」
「どうぞ」
先輩が少し間を置いた。
「最初、誰かのをコピーしたのかと思いました」
俺は初めて聞く話だった。
「先輩、そう思ってたんですか」
「思った。一年生が偏微分の変形を使ったレポートを書くのは普通じゃないので。でも調べたら、他のどこにも同じ式がなくて」
「それで声をかけた?」
「はい。直接確認しようと思いまして」
浅野先生が頷いた。
「御堂さん、あなたが声をかけなかったら、このレポートは財団に届かなかったかもしれない」
「……それは、担任の先生が気づかれたんじゃないかと思います」
「気づいたかどうかはわかりません。でも、あなたが最初に動いた。それは事実です」
先輩が少し黙った。
なんか、返事に迷ってる顔だった。
俺は思ったことをそのまま言った。
「先輩が言ったから財団の手紙を先生に持っていったので、俺もそう思います」
先輩が俺を見た。
「……神木くん」
「事実なので」
「……うん」
先輩が前を向いた。
耳が少し赤かった。
部屋が少し暖かいのかな、と思った。
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オリエンテーションが終わって、俺たちは建物の外に出た。
空は昼前の白い感じで、風が少し冷たかった。
「終わりましたね」
「うん」
先輩が少し歩きながら言った。
さっきまでのきりっとした顔じゃなくて、いつもの先輩の顔に戻ってた。
「どうでしたか」
「どう、って?」
「財団の印象というか」
「……思ったより、ちゃんとした場所だった」
「思ってたよりじゃなかった、ってさっき言ってましたよね」
「それはまあ」
先輩が少し遠くを見た。
「すごい場所だな、とは思った。毎月ここに来るんでしょ」
「そうなりますね」
「神木くんが、ここで研究するんだな、って」
先輩が独り言みたいに言った。
俺はそれを少し考えた。
「先輩、なんか感慨深い感じですか」
「……少しね」
「なんでですか」
「なんでって言われても」
「俺がここで研究することが、先輩に関係あるんですか」
先輩が止まった。
俺を見た。
またいつかと同じ目で、少し長く見た。
「……関係ある、って言ったら?」
「どういう関係ですか」
「生徒会として、学校の生徒が外部機関と連携するときはフォローするのが私の役目だから」
「それって関係あるとは少し違くないですか」
「何が違うの」
「関係があるっていうのは、先輩が俺個人に何か思ってる場合じゃないですか」
先輩が俺をじっと見た。
長い沈黙だった。
「……神木くん」
「はい」
「あなた、本当に計算は得意なのに」
「そうですね」
「人の話を聞くのが苦手ね」
「え、聞いてますが」
「聞いてても、読まないのよ」
先輩が歩き始めた。
俺は少し遅れてついた。
よく意味がわからなかった。
計算なら変数を整理すれば答えが出るのに、人の話は整理しても答えが出ないことが多い。
不思議な話だ。
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駅に向かって歩きながら、先輩が少し真剣な顔で言った。
「一個、確認させてほしい」
「なんですか」
「プログラム、本当にやれそう?」
「やれそう、というのは」
「継続できるか。月一回の面談と、自分で研究を進めることを並行して。学校の勉強もある」
「先輩、心配性ですね」
「心配してない。確認してる」
「同じじゃないですか」
「違う」
先輩がきっぱり言った。
でも少し口の端が動いた。
怒ってるわけじゃないんだろうな、と思った。
「やれます」
「根拠は?」
「楽しいので」
先輩が俺を見た。
「楽しいから、が根拠?」
「楽しくなければ続かないし、楽しければ続くので、根拠として十分じゃないですか」
「……まあ、そうね」
先輩が少し前を向いて、また歩いた。
「そういう言い方ができる人だから、あの式が出てきたんだろうな、とは思う」
「どういう意味ですか」
「楽しいから調べる。疑問があるから計算する。誰かのためだから続ける。そういう順番で物事をやれる人」
「先輩は違うんですか」
「私は逆。やるべきことだからやる。その中で楽しさを見つける」
「どっちがいいとかありますか」
「ないと思う。ただ、あなたの順番の方が、たぶん遠くに行ける」
俺は少し考えた。
「先輩は遠くに行きたくないんですか」
「…………」
先輩が少し黙った。
「別に」
三回目の「別に」だった。
今日一番長い沈黙を伴った「別に」だった。
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電車に乗って、二人並んで座った。
窓の外を街が流れていく。
「一個聞いていいですか」
「なに」
「先輩は大学、理系に行くんですか」
先輩が少し間を置いた。
「……どうして聞くの」
「財団の話を聞くとき、先輩の顔が少し変わったので」
「変わった?」
「楽しそうに見えた、というか。建物に入ったとき」
先輩が窓の外を見た。
「……見てたの」
「たまたま」
「たまたまね」
静かな声で繰り返した。
「理系、かどうかはまだ決めてない。でも……こういう場所には、興味がある」
「研究、ということですか」
「研究というより。物事の理屈を調べる、ということ」
「先輩も楽しいじゃないですか、そういうこと」
「……まあ、そうかもしれない」
先輩が窓から視線を外して、手元を見た。
「ただ私はあなたと違って、自分から式が出てくるタイプじゃないから」
「そういうのは関係ないと思いますけど」
「え?」
「式を作る人だけが研究をするわけじゃないと思うので。浅野先生だって、俺の式を評価した。評価できるってことは、理解してるってことじゃないですか」
先輩が俺を見た。
「……神木くん」
「はい」
「そういうこと言うの、わかってて言ってる?」
「わかって言ってますけど」
「慰めてるの?」
「事実を言ってます」
先輩がしばらく俺を見た。
それからまた前を向いた。
「……ありがとう」
小さく、確かにそう言った。
電車のノイズに混じるくらいの声だった。
俺はなぜか、それをちゃんと聞き取っていた。
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駅で別れるとき、先輩が言った。
「今日のこと、担任の先生に報告しておいて」
「はい」
「あと月一回の面談の日程が決まったら、生徒会の方にも知らせて」
「生徒会の慣例、ですか」
「そう」
「わかりました」
先輩が少し頷いた。
「じゃあ」
「はい。先輩」
「なに」
「今日、一緒に来てくれてよかったです」
先輩が少し止まった。
「……生徒会の仕事だから」
「それはそうですが、俺個人としても助かったので」
「……そう」
「先輩がいると、なんか」
「なんか?」
俺は少し考えた。
うまい言葉が出てこなかった。
「……落ち着く、かもしれないです」
先輩がまた俺を見た。
今度は少し長く見た。
なんか夕方になりかけていて、駅の外の光が少し橙色だった。
先輩の顔に、その光が当たっていた。
先輩はしばらく俺を見てから、
「……帰りなさい」
と言った。
声が、少し低かった。
怒ってる低さじゃなくて、別の低さだった。
「はい。また月曜日に」
「うん」
先輩が改札に向かって歩き始めた。
俺は反対の出口に向かった。
途中でなんとなく振り向いたら、先輩が改札に入るところだった。
一瞬だけ、こちらを見た気がした。
気のせいかもしれない。
確認はできなかった。
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家に帰って、机に向かった。
財団からもらった資料を開いた。
自分の式を、もっと精密にする。
誤差の原因を特定する。
考え始めたら、なんか自然に手が動いた。
ノートを広げて、最初の計算式を書き出した。
どこで誤差が出るか。
変数がいくつあって、どれが不確定要素か。
気がついたら二時間経っていた。
母さんが「ごはんよ〜」と呼んで、俺は顔を上げた。
窓の外は完全に暗かった。
俺は立ち上がりながら、ふと思った。
御堂先輩は今、何をしているんだろう。
べつに理由はない。
ただ、思った。
なんでだろう、と自分でも少し不思議だった。
数式より、答えが出なかった。
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月曜日、学校に着いたら廊下で宮沢さんに会った。
同じクラスの、生徒会の書記をやってる人だ。
「あ、神木くん」
「おはようございます」
「あの、土曜日……財団のオリエンテーション、御堂先輩から聞きました」
「そうですか」
「先輩、帰ってきたとき……その、なんか」
宮沢さんが少し言いよどんだ。
「なんか、いつもと違う顔してたので、何かあったのかなって」
「違う顔、というと」
「えっと……なんか、その」
宮沢さんが視線を泳がせた。
「御堂先輩って、いつもすごいきりっとしてるじゃないですか」
「そうですね」
「でも土曜日の帰りはなんか、その……ぼーっとしてるというか、別のこと考えてる感じで」
「疲れてたんじゃないですか」
「…………そうですね、たぶんそうだと思います」
宮沢さんが何か言いかけて、やめた。
俺を少し変な顔で見た。
「神木くんって、本当に……」
「何ですか」
「いえ、なんでもないです。おはようございます」
宮沢さんが歩いていった。
俺はよくわからなかった。
まあいい。
今日は昼休みに先生に報告して、面談の日程が来たら先輩に知らせる。
やることは整理されている。
俺はそれだけ確認して、教室に向かった。
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そして昼休み。
廊下を歩いていたら、
「神木くん」
という声が飛んできた。
生徒会室の方から先輩が出てきた。
「先生に報告した?」
「これから行くところです」
「そう。あと一個」
「なんですか」
先輩が少し俺を見て、
さらっと、でもはっきり言った。
「土曜日、私も行けてよかった」
俺は少し意外だった。
「先輩がそう思うなら、よかったです」
「…………もう少し、もっと別の返し方があると思うけど」
「そうですか?」
「普通、もっとなんか……ある」
「俺には先輩が言ってくれたことが素直にうれしいので、それ以外の返し方が出てこないです」
先輩がまた俺を見た。
今度は少し長く見た。
なんか。
なんか、困ってる顔に見えた。
でも、嫌がってる感じじゃなかった。
「……行きなさい、先生のとこ」
「はい」
「面談の日程、待ってる」
「わかりました」
俺は歩き出した。
今度は振り向かなかった。
でもなんとなく、先輩がそこに立ったまま俺の背中を見ているような気がした。
確認はしなかった。
廊下の先、職員室のドアが見えた。
俺は歩きながら、今日の夜、続きの計算をしようと思った。
でも同時に、全然別のことも少し考えていた。
先輩の「行けてよかった」、という声のことを。
数式より、なぜかずっと、頭に残っていた。
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≪次回予告≫
月一回の財団面談が始まった。
担当研究員として紹介されたのは、二十代の若い女性研究者・水野さんだった。
水野さんは初対面で「あなた、面白いね」と言った。
浅野先生は「彼女も似たタイプだから」と笑った。
後日、御堂先輩はその話を聞いて三秒間黙った。
「……どういう意味で、面白いって言われたの」
「さあ」
「さあ、じゃなくて」
「褒められたと思いますが」
「…………そう」
先輩の返事が、いつもより短かった気がした。
**第5話「担当研究員の人が俺に興味を持ち始めた件、先輩はなぜか黙った」**
今回の神木透。
・研究補助プログラムに受かる
・財団のオリエンテーションに行く
・研究テーマが決まる
・御堂先輩に何度も意味深なことを言われる
・でも気づかない
相変わらずです。
そして御堂先輩は、
・神木くんの将来が少しずつ広がっていく
・それをうれしく思う
・でも少し複雑
・本人には伝わらない
という状況になっています。
たぶん今後もっと苦労します。
頑張ってください。
次回からは財団での研究活動が本格的に始まります。
担当研究員の水野さんも登場します。
御堂先輩はたぶんまた苦労します。
よろしくお願いします。




