第50話「あれ?なにか?」
「カホルが詳しいですからお聞きになってください」
賢者のはずのフレイアが言葉を濁し、仲間に対応を振る
アウラムに至っては
あからさまに明後日を向いてしまう始末
二人の態度の急変に疑問を覚えつつも
上から手を振ってくる阿部ちゃんに
「通用口から戻るから、時間かかるよー」
とだけ伝える
都市部に直接の出入口がない欠点が、モロに出てしまった
設計通り侵入防止には良いけど
使い勝手とはどうバランスとるか、だな
ATVもモートラも、装甲車もないので徒歩で行く
身内だけならクリエイトして新しい乗り物を出すのだが
まさにどこの誰だか判らない猪人の女の子に見せるのは
あまり得策ではない気がして我慢する
かと言って、あの脚力と身のこなし
僕になるとか言ってはいるが、どこまで信用していいか
わからない現状では拘束を解くのもどうか
結局、足については歩幅以上に開かないよう
足首を繋ぎ、膝も同様にしておく
腕と体は先程のままで、後にロープを出して
私の腹部に結び付ける
・・・・・凶悪犯の連行かな?
左には、抜き身のままの刀を肩に載せているフレイア
右には、肩に大ハンマーを載せているアウラム
二人がきっちりと挟みこんでいる
二度目の逃走はない、という気迫が凄い
抑えの効かない魔素の放出が
まるで陽炎の如く強烈に可視化できるほど
―魔素って、見えるようになるんだ
『高濃度の魔素や、特殊な魔素は見えることがあります』
弥生さん、二人はそのどちらかな?
『前者です』
なるほどね
猪人の娘、逃げるそぶりは全くないまま通路部の門に到着
阿部ちゃんとカホルが、門を開けて迎えに来てくれていた
装甲車の運転はカホルに教えてないはずだけど?
「私が運転してきましたよ」
胸を張って威張ってらっしゃいます、後輩くん
褒めてあげよう
逃走防止にさっさと門の中に入って扉を閉め
とりあえず装甲車のカーゴルームに連れて入る
私に結束したロープを車内のグリップバーに繋ぎ変えて
キャビンに移動
都市部ではなく魔牛のいる地下に搬入路から向かう
深さがあって壁もオーバーハング
逃げるとしたらセンターシャフトか斜路しかないので
この娘と話をするには最適かと思う
そもそも装甲車から、逃げられるかなぁ?
初めて見る装甲車に驚いた魔牛達だが
アウラムが顔を出すと落ち着きを取り戻した
寄ってきた妖精2人に事情を話して貰い
ここで装甲車のまま話を進めることになる
「で?さっきの話の続きだけど大豚の繁殖と飼育
食料としての提供はいいんだよね?
それに伴ってこちらは君の住まい、食事、衣類などの提供を
対価として用意する
これを君を開放する条件とするので問題ないんだよね?」
「もちろんです
ご主人様の言いつけ通りにさせていただきます」
「ご主人様ぁ~?」
阿部ちゃんがなにか変な目でこちらを見ている
カホルに至っては、なにか納得したように頷いている
「そのご主人様はやめてくれ、誤解を招く」
私はそう言うのだが
「いえ!戦いを挑んで負けた者の宿命です
ご主人様と呼ぶ以外は許されません!」
真剣なまなざしで言うんだけど
明らかに軽蔑してるのが1人居るのよ
「ケイ殿、アヤノ殿
よろしければご説明してもよろしいでしょうか?」
フレイアが口をはさむ
促して話を聞くと、要は獣の名前が付く人種って
この【世界】の人族より余程脳筋最強らしく
勝負ですべてが決まるらしい
地位だけでなく、女性の取り合いも勝負で決着させる
種族によっては番になるために
女性に勝たないといけないこともあるとか
魔牛と変わらないじゃないか
そう思ったが、とりあえず飲み込んだ
「そうは言ってもしょせん口約束
逃げようとすれば逃げられますわ」
アウラムが不貞腐れ気味に声を上げる
逃げられなくなる魔術とか、契約違反をしたら
ペナルティを生じる魔術とかあれば別だろうけどね
あの足の力だと、走る速さだけで競争しても
勝てそうな気がしない
『一部の魔物以外、負けを認め降伏したものは絶対に従い
反旗を翻すことはありません』
弥生さんのお告げだ
『動物の本能のようなもので
更に強いものが現れる以外に上書きされません』
つまり私が負けた相手に従い直す、ってことかね
なるほど
「わかった、私は君を信じよう
それで逃げられるなら私の問題だろう」
一息ついて
「ただし、私の仲間に何かしようものならタダではおかない
どうなるかは戦って、身を持って理解してるよね?」
猪娘は首を激しく前後した
「それでは、君も今日から私らの仲間となってもらおう
みんなもそれでいいかな?」
全員の顔を見回す
「少しお待ちください」
難しい顔をしたフレイアが、おずおずと声を上げた
「先程彼女はケイ殿をご主人様と呼び
僕になると言っていましたよね?」
「そう聞いたよ?」
カホルがギョッとしてフレイア、続いて猪娘を見遣る
「僕になるというのは、常にご一緒している私どもよりも
深い仲になるというか・・・・・」
フレイアがまた言い淀む
珍しく、助けを求めるようにカホルを見ると
意を汲んだのか彼女が引き継いだ
「私が続きをご説明しましょう」
そう言ったが、若干挙動が怪しい
「以前仕えていた主ですが
私が執事として仕事の手伝いを行いました
別にメイドが居て、日常生活のお手伝いをして
それぞれが仕事をサポートしていました
ですが、それ以外に男女数名ずつ、僕が居ました」
一息ついて続ける
「その僕は、多種多様に渡る主の生活にかかわっていました
もちろん、主人次第でその範囲は様々なのですが・・・・・」
少し下を向いた後
意を決したようにこちらを見直してこう続けた
「主によっては食事、水浴び、外出に一緒にさせたり
その・・・
夜のほうも、となるのです」
あ、端的に言って愛人とか夜伽とかの扱い、ってこと?
3人娘が少し複雑そうな顔をしてるのは気のせいだろうか?
「それって、別に何もしなくても問題ないのかな?」
あっけらかんと返す
「「「「え?」」」」
意外そうな声が4つ聞こえた
「食事も風呂も外出も介助が必要な歳でもないし
無理矢理、女の子を手籠めにする趣味はないし
仕事の手伝いなら、みんなと一緒にやって貰いたいけど
・・・・・他は要らないかな」
「ええ・・・・・」
3人娘は引いてるし
なんなら猪娘に至ってはなんか泣きそうに見える
こっちの【世界】じゃどうか知らないけど
勝ち負けで決まるとは言え無理矢理はよろしくないでしょうに
阿部ちゃんだけは、なんか鼻息荒くふんぞり返ってるけど?
「女の子が嫌いなわけじゃないからね
無理強いとか強制は不必要ってだけ」
変な噂が立たれては困るので、一応念を押しておく




