第49話「たたかいの行方」
彼女の名誉のために言っておきたい
カウンターで彼女の股間に入った剣先だが
幸か不幸か、恥骨を直撃していたそうだ
そうだと言う理由だが、相手は女の子
まさか私が直接当たった箇所を
見るわけにはいかないので
フレイアに確認して貰ったのだが
大惨事には至らずで何よりだった
なにせこの【世界】、下着すら無い
裸に貫頭衣とかがベース
彼女はミイラがごとく
何かを巻いていたようだが結局下は同じ
強烈な蹴りの勢いで、破壊不可能な物体が
恥骨にピンポイントでぶつかったのだ
自業自得とはいえ、気絶するのもわかる
ただ、多分起きた途端にまた飛び蹴りが
飛んでくるのではたまらないので
癖の悪い脚はがっちり縛り上げさせてもらう
ついでに手も後ろ手に縛り
エビぞりに足と繋いで地面に倒しておく
特製ロープはそうそう脱出できるもんじゃないし
縛りも少々特殊なものにしてある
ちなみに、突如方向を変えて怒涛の如く
襲い掛かってきた魔猪は
まっすぐどこかに行ってしまった
フレイア、アウラムと先ほどの魔猪について
話をしていると、うめき声が聞こえた
彼女が目を覚ましたらしい
「なんだこれは?!なぜ捕まえられているのだ??」
こっちを睨んで声を上げたが
フレイアが刀を首スレスレで地面に突き立てると
ヒュッ、と音を立てて静かになった
「貴女が再度襲って、返り討ちにあっただけだ
身の安全の為に、動けなくするのは当然だろう?」
やっぱ人が違うよ、フレイアさん
「今度は逃がさない、ですわ」
足で臀部を踏みつけながら、ハンマー片手にそう凄む
貴女も普段の柔和さはどこに行ったの?アウラムさん??
今度こそ彼女はギブアップしたようで、ペラペラ話し始めた
曰く
いつもの通り道に変なモノが出来ていて
通れなくなっていた
壊そうとしても全然壊れずに
イライラしていたところ
中から変な恰好の奴が来たから
「こいつのせいだ!」と襲い掛かった
要約すればそんな感じだった
あの魔猪?と勝手に思っていたのは「大豚」だそうだ
なんでも、彼女が率いている集団の豚で食料兼攻撃力だとか
直進行軍する、あのサイズの豚なんかヤバすぎる
ただ、疑問なのはどうやって、あの数の豚を率いているのだろう?
そう思って聞くと、なんと彼女「猪人」と呼ばれる種族なのだとか
フレイアも遠い昔に聞いたことがあるとかで
魔猪を率いて放浪する民、だそうだ
ただ魔猪は長年、人に飼われることで
魔素摂取量と攻撃性が低下して
今の「大豚」と呼ばれる品種になったそうだ
彼女の蹴りや、飛ぶ力の強さは猪人の特性らしく
更に魔猪や大豚をコントロールできる
特殊能力を持っているとのこと
アウラムの妖精王(候補)みたいなもの、なんだろう
いつもなら一緒に移動していく大豚なのだそうだが
彼女が興奮状態で突進を指示したせいで
ただただ真っすぐ行ってしまっているようだ
気が付けば戻ってくるかも、とは言っているが
あんまり頭は良くないらしく
どうなるか判らない、とか
つまり、彼女は現状、独りぼっちで敵に囲まれているわけだ
お怒りモードのフレイアがそれを告げると、今度は蒼くなる
こちらとしてはこのまま放置しても構わないが
二人は2度も敵意を剥き出しにした以上
倒しておくべきと譲らない
この場合の倒す=殺害する、だ
この【世界】での命の重さについて、私には正直わからない
フレイア達の怒りも理解するが
それでいちいち殺害していては、とも思う
特に現状、少なくとも私は
かなりのチート能力を持っているに等しい
来たばかりの、この【世界】をまだ知らない状態で
いくら襲われたとはいえ安易に人を殺めるのはどうか?
頼まれてモノづくりを教えに来たのだ
不用意に「壊すこと」は、しないほうがいいに決まってる
「二人が私の為に怒ってくれているのは感謝するよ
その上で、二人には悪いがこの娘は解放しようと思う」
続ける
「ただし、今回強い敵意を持って
一方的に襲ってきたのは事実
そこで、だ」
間をおいて、続けた
「私らの下について、君が率いている大豚の提供と飼育
繁殖を行うことを条件に命を助けようと思う
食べ物、住まい、着るものなどは保証しよう
どうだ?」
私は殺す気まったくないのだが
少々強気に出るために脅し気味に告げる
「わかりました
ご主人様の下で働かせていただきます」
芋虫状態のままだが、堅い声でそう言った
「ご主人様?」
思わず聞き返した
「はい
私はご主人様に戦いを挑んで負けました
負けた者が勝った者のモノになるのは猪人の決まり
私は負けました、つまりご主人様の僕になるのが当然です」
平然と彼女は言う
僕ねぇ、小間使いってことかな
しかし、同じ言葉を聞いたはずの二人が、声を上げる
「な、なんだと?」
「な、なんですわ?」
どうした?




