第38話「第一町人があらわれた」
「で、これで町の出入りはできるかな?」
フレイアとアウラムが町の前でけんもほろろにされたのが
魔牛による被害が発端なら、
魔牛捕獲を伝えれば解決するのでは?と思ってはいた
けど、それはあくまで予想でしかないんだよね
おまけに忘れてたけど、私ら”黒髪黒目な人”は
怖がられる心配があるらしい
仕方ないので、また3人娘に頼るか
「女神の使者とかの話が町にも伝わってるなら
私らが出向くのは得策じゃないよね?
申し訳ないけど
3人のうち2人が町のまとめ役と話を付けて
ここまで連れて来てもらえるかな?」
そう伝えると、カホルが提案してくれた
「それでしたら、魔牛を飼う話を知ってる
アウラムに残ってもらいお二方が説明を受け
私とフレイアで行ってくるのはどうでしょうか?」
「じゃあ、それで頼めるかな?」
と言っても、ここから町まで10km以上
徒歩だと時間がかかりすぎる
かと言って、魔牛を移動させるのも難しい
普通に考えて片道2時間
往復と説得で最低で6時間
しかも知らん人を連れて戻ると考えると
復路は更に時間がかかる
「二人のどちらか
これよりもう少し簡単な車を運転してみない?」
装甲車を指差し、尋ねてみる
初めて見たよ、フレイアとカホルの見つめあいを
珍しい光景だった
「ケイ殿が運転する、この【そうこうしゃ】
みたいなものを、ですか?」
やはりフレイアは、新体験には食いつきがいい
「これより簡単に運転出来る、移動専用のやつを創るつもり
速度もそんなに出ないし、まとめ役がご高齢でも
安全に乗せられると思う」
全員が頷く
「私に動かせるでしょうか?」
フレイアが少し不安気に聞く
「少し練習すれば大丈夫う
危ない!と思ったら手を離せば止まるから
まずは練習してみる?」
その言葉に
はい!と元気な声で返事をしてきた
「じゃあ、作ろうか」
市販のマイクロEVじゃ小さすぎるし
普通に車だとステアリングやアクセル、ブレーキで
パニックになったら暴走しかねない
ここは仕事で慣れてる【あれ】を作ろう
「これ、モートラですよね?」
職場で毎日見ている阿部ちゃんが指摘してくる
そう、モータートラック
通称モートラ
昔は駅構内とかでも見られた、いわゆる構内運搬車だ
「そっか、道交法問題ないからいいんですね
会社じゃないから社内免許だっていらないですし」
流石は総務
こういうところのチェックには目ざといこと
「一番は手を離せば減速するってところだよね
構造上、アクセルとステアリングを一緒に触るから
低速なら手を離せば減速して止まれるし
意識をブレーキに配りやすい
動力は魔素で動くら騒音もないし
重心も低くして、足廻りも魔改造してあるから
そうそう横転とかしない
荷台にアオリつけて座れるようにしたし
安全性重視で速度もそこそこ出せるから
使い勝手いいと思うんだけどね」
思ったより上手くいったから
つい軽くプレゼンをしてしまう
ため息が聞こえた
「確かモートラ、構内制限速度10km/hでしたよね?
いくら出るんですか?」
「・・・・・設定上40km/h」
「早すぎません?」
総務で安全管理担当の目が怖いよ
後輩くん?
いや、本当はもっと出したかったけれども
動力車の初心者用だから落としたんだけどね
それをおくびにも出さず
「原付と同じだよ、あれは普通にメーター振り切るからね」
「そういわれるとそうですけど、なんか釈然としないなぁ」
ぶーたれてる
「君の愛車だって最高制限速度は
日本国内じゃ120kmだけど
180でリミッター効くまで
出せるよね?」
「それを言われると何にも言えなくなるじゃないですかー」
社内のサーキットで走るのに
リミッターカットしてるもんね
切らずに走って
「リミッター当たってスピード出ないから何とかして!」
って言ってきたスピードマニアは、どこのどなたでしたっけ?
総務の説得を完了して
モートラの運転説明をして砂地を走り回る
魔改造のおかげでオリジナルより遥かに高性能になって
砂地程度なら全く問題なし
念の為カホルにも乗ってもらい
2人で交代しながら教えて20分ほど練習
フレイアは直線だとアクセル全開
優雅に走るカホルとは正反対だ
ターレット部の回し方も
市場のおっさん並みに豪快なフレイアと
送りハンドルのカホルとでこれも真逆な二人
あれだ、フレイアはスピード狂なのかもしれない
速度出しても確実に止まれることを再度確認して送り出す
やっぱり運転はフレイアだった
彼女らを待っている間、阿部ちゃんに聞かれた
「確か先輩、モートラの免許持ってませんよね?
なんであんなに操作詳しいんですか?」
「新卒の時に練習させられたんだ」
しれっと返す
実際にはトラブルがあって大物を運ぶのに
工場長の許可で無免許運転したんだよね
違法じゃないけど、社内規則上はアウト
阿部ちゃんに言ったら工場長まで怒られる事案なので
黙っておこう
モートラは30分ほどで戻ってきた
やたらガタイのいいおっさんを荷台に載せて
止まったモートラから立ち上がりざまにこう言われた
「あんたがこいつらの親分か?」
絵に描いたような、偉そうにした親父がそこにはいた
―手強そう




