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引っ越し先を見に行っただけなのに、女神が想像力皆無な世界に私と後輩を転移させて、現代知識で文明社会を創れ、それも3年間でって……それって厳しくないですか?【連載改稿版】  作者: 菜乃花 薫
引っ越し先を内見しただけなのに

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第1話&第2話「白い世界」

ずいぶんとカラフルな街並みが眼下には広がっている


見晴らしのいい屋上に立つ私の周りには

気が強そうな女の子が二人

その隣には美人3人組も居て

かしましく談笑している


風に乗ってどこか甘い匂いと声が聞こえる

見上げた先にはドラゴンが優雅に飛んでいた


後輩は多くのメイドさんに囲まれて

いつものようにバーベキューの世話をしている


――どうして後輩と()

こんな場所で肉焼いてるんだろ?



ふと気が付くと 

手の中には退寮通知の紙があった 


「30歳の誕生日までに退寮してください」


人事部発令の通知をじっと見直す

部長から係長まで承認印が押されている

係長から念を押されつつ手渡された

そこまでは覚えている


会社規定の入寮定年は30歳まで

誕生日が期限と明記されていた


―さっきのは退寮が面倒くさいからって

現実逃避が見せた幻だったか?


忙しさにすっかり忘れて

まったく準備をしていないことはおくびにも出さず

会社員として素直にわかりましたと返事をする


物件探しは難航したまま2か月が過ぎ

退寮の期限がじわじわと迫ってきていた


―適当な物件で妥協して

改めてきちんと家探しするか


そんな事を考え始めた矢先

週末始業前に一通のメールが来た


「家はめっちゃ古いけど

おっきな庭とおっきな蔵が

付いてる物件がありますよ


良ければ仕事終わった後

ごはんでも食べながら説明しますけど

今日って空いてます?」


何人か声を掛けていた知人の一人

地元出身で甘いモノ巡り仲間の後輩からだ


―このメールがあんなことに繋がるとは

この時は思いもしなかった―


店はおまかせでお願い


と短く返信して、仕事を始める


今日は夕方まで珍しくトラブルも相談もなく

驚くほどすんなり定時退社が出来た


めったにない運の良さに浮かれながら

急ぎ足で、昼休みに連絡があった店に向かう


店の前には見慣れた車が止まっている

こちらに気が付き

運転席に乗っていた後輩が降りてきた


「今日はもちろん、先輩の奢りですよね?」


ちゃっかりしてらっしゃる

まあ、こちらも頼み事してるわけだしと、了承する

ちゃんと太っ腹なところを見せておかないと

後々良いことがなかったりするものだからね


待ち合わせしたのは、少しだけ値が張るけど

人と会うにはちょうどいい塩梅の静かさと暗さで

好んで使ってる人も多い和食店だ


顔見知りの店員に声を掛け案内された席はD


店の正面から入って一番奥の席


別にやましい話をする訳じゃないが

人目を気にしなくて良いのは、少し楽だ


後輩にメニューを渡し


「頼み事してるし、好きなもの注文していいよ」


そう言うと、にこにこしながら


「ありがとうございます!!!」

メニューをにらめっこしながら悩み始めた


私はいつもの日替わり定食で決まったが

後輩はまだ迷っていて

時々「これ、どうですかね?」と聞いてくる


時間がかかったが、なんとか決まったようだ


いつもより遅いからか

様子を見に来たいつもの店員に声をかけると

遠慮なく好きなモノを

好きなだけ注文してくれましたよ


注文を終え満足したらしい後輩は

バッグから封筒を取り出して

写真と地図を見せてきた

食事が来るまで物件の説明をしてくれるらしい


家自体は古い和風の建物で

かなり大きく見える作りだ

場所は古墳かも?と言われている丘の隣だった


後輩曰く

母親の友人が所有者だけど

ほぼ放置で物置代わりにしてた、だとか

税金が勿体ないので

安くてもさっさと売却したいとお急ぎだとか

・・・・・リアルな現実、ですな


注文したものが来たので

話を続けながら食べ始める


「明日は久しぶりに

遊びに連れてって貰おうと

思ってたんですけどねー」

後輩はぼそっと言い出した


まあ、いつもの甘いものツアーもやってなかったし

後輩のご機嫌を損ねるのも得策ではないだろう


「代わりに食後別の店へ

甘いものでも食べに行こうか?」


二つ返事で返された


食後、後輩が持ち主に連絡して

明日内見出来るよう鍵を預かって貰うことになった

・・・・・その分「手数料です」と

次の店で一番高いデザートをねだられたが


翌日

早めに目が覚め朝風呂に入って

ゆっくりしてから約束の10時

後輩を拾って、物件に向かう


家の周囲は結構開けてるが

柵を挟んで確かに古墳っぽく見える丘と

隣接している


広々とした土地に囲まれ、目立つように建つ家だ


鍵を預かってきた後輩が錠前を開け、家の中に入る

人の出入りがなく、光も入らないから―

そう思おうとしたが

少し違う雰囲気に周囲の空気が一変したのを感じた


玄関から奥は陽の光が入らず真っ暗

メーターは撤去されてるので電気は通らない

持ってきていたLEDライトを出して

1つを後輩にも渡す


いくつかの窓枠を、順に力を込めて動かしてみる

ようやく少しスムーズなものが見つかり

外れないよう慎重に開ける


隣接した部屋にまで、陽が差し込む

その光が差し込んだ先にある壁には

場にそぐわないものを見つけた


鈍色に光り

天井まで届くほど巨大なレリーフ


それも木造の家の、畳部屋に

奥行きだけでも5mは優に超える

高さも2m以上はあるのでは?


強烈な違和感については言うまでもないが

後輩はそれを見て当然のように疑問を口にした


「なんですかね?これ」


安全の為なるべく近づかないよう後輩に伝え

念には念を入れて一度家から出る


持ち主に電話をかけて貰い現状を伝えたが

「そんなものはなかったはず」

だと


わからないものをそのままにするというのも

後で気になりそうだ


もう一度家に入り

モニュメントから少し離れて見てみると

いくつかのシンプルな図形が半立体的になっている


感想が口をついて出た

「これ、もしかしたら正多面体か?」


「数学で出てくるあれ、ですか?」

後輩が聞き返す


「多分、ね

見たことがある程度だけど」


「・・・・・確か5つ、でしたよね?

ここには6つありますから、一つは球かな?

なにかの暗示とか比喩、ですかね」


予想が当たってるなら

何故、正多面体と球が一緒に並んでるのか

何かの暗喩や暗号なのかしら?


「これ、動かせそうですよ?」

後輩がそう言って、端っこの三角形に触れる


「堅いけど動きそうな気配、ありません?」


「確かに動きそうだけど

隙間ゼロだから押すか引くか、かな?」


言うより早く、後輩が一人で押していた

だが、びくともしない


「先輩も、一緒に押してみましょう!

なにか起きるかもしれませんよ~?」


「はいはい、じゃあ一緒に押そうか

もし動いたら、すぐ手を放して逃げようね」


社内の立場上、絶対に事故るわけにいかない

おまけに後輩まで巻き込んだら目も当てられん


後輩が素直に頷く


「「いっせーの、せ!」」


二人で息を合わせて

思いっきり押し込んだら

ずるっと動く


次の瞬間

部屋が急激に明るくなり

おもわず後輩と顔を見合わせた


天井や壁など

本来光るはずがない全ての面から

とんでもない光が迸ってきた


でも何故か

レリーフのあった一面だけが

漆黒の闇かと見まがうほどに

黒々としている


そして光は強くなる一方


余りの眩しさに目を閉じ

それでも、瞼を透過してくる光

あまりにも眩しくて、手で目を覆った


少し経って光が徐々に弱くなってきたのを感じ

ようやく目を開けることが出来た


そこは見渡す限りどこもかしこもが真っ白で

内見していたレリーフがあった部屋とは全く違う


360度どこまでも広がって天井も壁もない

ただただ広い空間


立っているから地面だろうと思っているだけで

それこそ天地すら明確になってない


明るいのだけれど、光源がどこにあるのか

おまけに風や匂い、温度も感じられない


非現実感が強く感じられる状況よりなによりもだ


さっきまで一緒に居た後輩は??


焦って廻りを見回した


誰かがシャツの背中を引っ張る

後輩は、私の後ろに居た


とっさに背中に隠れたらしく

引っ張る力で実体があることも確認できてひと安心

安堵すると共に口をついたのは当然の疑問


「ここ、どこだろ?」


「さっきまで部屋にいたけど、違うみたいですね

めっちゃ広いし、全部白くてなんか怖いです」


後輩にも同じものが見えてるようだ

気を失った私の妄想とか、夢ではないみたい


息を吸い込み

「誰か、居ませんかぁーーーーーー」

と叫んでみた


少し、間を置いて


『あら、どちらさま?』

どこからかのんびりした声が返ってきた

妙齢の女性と思わしき、優しい声


背中を引っ張る力が増したのを感じる


そりゃそうか

どこにいるかわからないのに

知らない声が返ってきたら


後輩のためにもさっさと現状確認しておくか


「すみません

さっきまで、家の内見してたんですが

気が付いたらここに居まして・・・・・

ここ、どこですかね?」


端的にそのまま伝えてみる


すると4,5m先に突然、扉が現れた


え?

さっきまで空間しかなかったよね??


というか、ドアだけって・・・・・

青い猫型ロボットの、専売特許の奴じゃないの?


そうツッコもうとした瞬間、開く扉

中からは女性が出てきた


私より少し年上だろうか?

ショートヘアーで丸顔、柔和な表情


恰好は、生成り色のワンピース

・・・・・というかギリシャ神話?


「初めまして、お邪魔しています」


後輩も続いて会釈し

あらましを改めて簡潔に伝えた


『あらあら、もしかしてこの家かしら?』


女性は、どこからかタブレットを取り出し

操作して画面を見せてきた


先程までいた家がそこには表示されていた


・・・・・タブレット、結構でかいのに

どこに仕舞ってあったんだ?

あと、ネット環境あるの?ここ?


疑念をぐっとこらえて、話を続ける


「多分ここですね

家に入ったらでっかいレリーフが壁にあって

動かせそうなところを押したら

部屋が急に明るくなって

気が付いたらここに居たんです


身体もあるみたいだし

死んだ訳ではなさそうですけれど

何がどうなったか解かりますか?」


『あら、押すとき()()も手伝ったのかしら?』


そう言いながら後輩を指差す女性


「二人で一緒に押しましたね」

後輩が素直に答えた


女性は腕を組んで、納得したようにこう言った

『なるほどね

【貴方達が二人で】押したから

設定基準をクリアしたと判断されたのね』


怪訝な顔をした私ら二人を見て

女性 ー面倒だから、おねえさんと呼ぼうか

は一言


『では説明しますね、どうぞこちらへ』


おねえさんの招きに応じて近づくと

今度は目の前にテーブルと椅子が出現した

ご丁寧に、3人分のティーセットもセットされて


ドアやタブレットと言い、一体この人は??

そんな私の心を知ってか知らずか


『先に言っておきますが

私はこの世界の管理者です』


そう言うと、驚く暇もなく彼女は説明を続けた


―いわゆる神様、ってこと?


隣の後輩もこちらを見て

困ったような不思議な顔をしていた


『あの家は少し特殊なの

特別な役割を持たせていて

それが【選定者】を選別することなのね』


「選定者、って言うのはなんでしょう?」

後輩が聞く


『あの家にあるレリーフは形ごとに

()()()()()()

()()()()()()()()()を呼び寄せるのね』


カップを持った彼女は、ひと啜りして続ける


―というより、なんでそんなギミックが

民家にあるんだよ


思わずツッコミを入れたくなった


『基準、と言うのはそれぞれに決められていて

二人には3年間という期限がありますが

別の管理者の元で【世界】を発展させて貰います

それが【選定者】の役割ですね』


3年?随分な長さにも驚くが

そもそも世界を発展、って何?


増えていく疑念をぐっとこらえ

黙って説明を聞き続ける


『何をもって、どんな世界に育てるかは

あなたたちとあちらの管理者次第なの』


世界を発展とか、世界を育てるだとか


あまりに抽象的で

どうすればいいのか困るんだけども


『もちろん、二人が請け負ってくれる

って前提があっての話になりますけど』


もし私たちが管理者と意気投合して

腐敗と自由と暴力あふれる世界に

しちゃってもOKなの??


『どういう世界が正解というのはありませんが

流石に腐敗と暴力はどうかと思うわ?』


あれ?

今、口に出して言ったっけ?


『あちらでの3年間は

あなたたちの世界の時間で言えば

3時間に相当します』


「え?3年が3時間ですか?」

私が思うより先に

後輩が口に出していた


『そうですよ

指定された【世界】で3年間活動して貰っても

こちらの時間では今日の昼過ぎには

元の家に戻ってこられますよ』


う~む、時間の流れが違うってのは

ファンタジーやSFでは定番だけど

実際どうなんだろう?


『・・・・・お隣の彼女

随分わくわくしてるみたいですけど?』


改めて後輩の顔を見る

元々そこまでおしゃべりではないとは言え

ずいぶん黙ってるなぁ、とは思ってた


なんか

めっちゃ目がキラキラしてるんですけどー?


「これってあれですよね?

よく言う異世界転移とか

そういったジャンルのアニメや小説

漫画の話と同じなんですよね????


異世界モノって読んでて楽しいですけど

まさか自分が主人公になれる時が来るなんて!!」


「確かにそういった感じだけど

それって現実に自分の身に起きたら困らないか?

と言うか君、そういうの大好きだったっけ?」


「あれ?言ってませんでした?」


おねえさんの目元が緩んだ気がしたけど

気のせいだよね?

導入話として1話2話を合わせて再構成しました

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