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Story.20―――神敵降臨《Ancestor Number:13》

 彼は、私の頭蓋骨めがけて手刀を振り下ろす―――!

 ぐじゅっ、という何かが砕ける音が聞こえる。

 目を開ければ―――


「が、ハッ! な、なぜ……」

「何故も何も、生徒が危険にさらされているならば―――助けるのが道理だろう? グノーシス・ヴァン・ヤルダバオト。人類を否定する、魔族の王たる魔王の一人息子よ」


 サターン神父が、グノーシスの心臓を握りつぶしていた。

 この心臓のようなもの。私達の胸にある心臓に似ているが―――どちらかと言うと、結晶のように無機物的である。これが、聖典の第一章に書かれていた『神が定めた方向性』が関係しているのだろうか。

 しかし、グノーシスがサターン神父の事を表する言葉に、私は驚愕した。


「なぜ、あなたが―――〝魔祖十三傑〟の第十三座たるあなたが、なぜ―――?!」

「……神父が、〝魔祖十三傑〟……?」


 すると、サターン神父はやれやれ……と口にする。


「―――まさか君が、そこまで愚かなやつとは思っていなかったのだが……。私の真の名を明かすとは。君は、やはりスパイとしては三流以下だな。グノーシス・ヴァン・ヤルダバオト。もはや、生かしておく価値すらない。どうせ君が死んでも、新しい〝貴公子〟はそのうち生まれる。―――君は決して、オンリーワンの人材ではないのだ。グノーシス・ヴァン・ヤルダバオト」

「が、ガッガッ―――あ」


 グノーシスは絶命した。

 顔は苦しみに歪み、体は灰となる。

 死の間際、グノーシスが何を思っていたのかはわからないが、かすかに溢れた思念が、共鳴する。


(たすけて……アレクサンドリア)


 生前、アレクサンドリアが一番親しくしていたのが、グノーシスであった。

 そのグノーシスがアレクサンドリアを殺害するとは、いくら魔族だからといって考えにくい。

 だが、グノーシスがサターン神父に命じられてやっていたとすれば……?

 確かにサターン神父は〝魔祖十三傑〟の後継者ではない、正当な〝魔祖十三傑〟の一員。ならば立場上、後継者であるグノーシスよりは上である。よって、今回のアレクサンドリア殺害などの一連の殺人については、グノーシスが実行犯で、首謀者は―――サターン神父の可能性が高い。


「ほう……。自らが殺した相手に助けを求めるとは。未練の残るやつだ。

 ときに、そこの娘よ。何かに気づいたような顔をしているな」

「……あなたが、サターン神父が、グノーシスにアレクサンドリア・クレメンス殺害を命じたのですか?」


 すると、サターン神父は口元を、にぃ、と歪ませ。


「そこに気づくとは、流石は()()()の後継者だ! いやはや、まさか計画そのものが看破されるとは思わなんだ! 面白い! そのあっぱれな推理に敬意を込めて、失礼ながら名乗らせていただこう。

 ―――〝魔祖十三傑〟第十三座―――『反逆者』の(ロール)を任された者。〝星の反逆者(スター・レヴェル)〟サイクラノーシュ―――ランスロット・サイクラノーシュ。元『円卓の騎士』の一人にして、魔族を統率する十三の魔族が一柱だ」

「―――ッ! ランス―――ロット!」


 アーサー王伝説に語られる、アーサー王から反逆した円卓の騎士の一人!

 パチリ、とピースがハマる音がする。

 何が、私にささやきかけている……?!


「あ……夢」


 あの、気味の悪い夢。誰が話しているかわからない、謎の夢。

 その謎の一つが―――これか。

 元世界最高峰の騎士団『円卓の騎士』の一員―――そういうことか。アーサー王から離反したから……サターン神父、いやランスロットはもう、『円卓の騎士』じゃないんだ。


「夢で見た……暗い色の甲冑を身にまとった人物。誰かと話していた、誰かの片割れ。それが―――あなたなんですね、ランスロット・サイクラノーシュ」

「誰かと話していた、誰かの片割れ……か。その〝誰か〟がわかれば君が何を言いたいのかもわかったのだが……あいにく、君にもわからないようだから、真実は闇の中、だな。だが―――心当たりは、ある。それを語ってもいいが……それは君にとって大きなショックを与える事となるだろう」

「返すけど、あいにく、今あなたの話を聞きたい気分じゃないの。さっさと―――死ね! 最終詠唱―――其は全てを燃やす希望の星。あらゆるモノを破壊し尽くす、混沌のほうき星。今、その姿を顕現せよ!―――『系統別魔術:星廻魔術・廻天する、告終の星(ヘール・ボップゲート)―――十三梯(タイムズサーティーン)』!! うがああああああああ!!!!」


 呪力の大半を注ぎ込んだ私の必殺の魔術―――『系統別魔術:星廻魔術・廻天する、告終の星(ヘール・ボップゲート)―――十三梯(タイムズサーティーン)』。

 それが直撃すれば、たとえ魔族を統率する十三の魔族が一柱たる〝魔祖十三傑〟でも、致命傷は免れないだろう。

 そう思っていたのだが―――

 切り裂かれる。『系統別魔術:星廻魔術・廻天する、告終の星(ヘール・ボップゲート)―――十三梯(タイムズサーティーン)』の本体である、輝く球体が、音もなく―――消失する。


「―――ほう、中々に良い魔術。やはり、君は優秀だ。この剣を抜くのにもふさわしい相手だ」

「な―――その剣は―――アロンダイト!」

「君の言うとおりだ、クロム・アカシック。これこそは、我が愛剣―――〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)。そして―――」


 と言って、ランスロットはもう一本の剣を抜いた。


「これは〝愛妃剣〟不貞の産物(セクエンス)だ」

「セク―――エンス!!」


 グィネヴィアが、ランスロットに与えた―――不倫の象徴!

 王が死地に赴くときのみに使用されると言われる、アーサー王にのみ使用が赦されていた伝説の宝剣。


「セクエンスだかアロンダイトだが知らないけれど―――もし、クロムを傷つけるようなら赦さない!―――接続詠唱―――暗殺解禁(セット)因数人体分解起動(ターン・オン)―――『系統別魔術:紛暗魔術・斬り刻む、其は聖義(エンジェル・リッパー)―――変則変換(コンバート)天使へ(トゥ・エンジェル)』!」

「……」


 ランスロットは、無言でニーナのナイフを受け止める。しかし直前、腕で受け止めようとしたのだが―――目を見開いてぎょっとする。

 そして、ランスロットは〝愛妃剣〟不貞の産物(セクエンス)をギリギリのところで滑り込ませる。


「―――油断していた! なるほど、こいつは当たったらまずかったかもしれん。君のそのナイフ―――単なる金属片ではないな。浄化の魔術特性を帯びている。それは、なんだ?」

「良いところに気づいたわね。あなた、これに当たったら消滅していたかもしれないわよ? こいつは私の―――いや、お祖父様の愛用していた礼装……〝色即是空、空即是色(イスラーフィール)〟。私達、暗殺教団が所蔵する最高級礼装―――〝神代の礼装(アーティファクト)〟の四つが一つ。四大天使の一体の名を冠するこの〝神代の礼装(アーティファクト)〟は、あらゆる魔性を神の理へ導く」

「浄化の魔術特性の中でも極めて異質な形の『昇天』の特性だったか。恐ろしいものを持ち歩くものだ」

「そう? これでもまだ優しい方よ。一番強力な〝般若波羅蜜多(ミーカーイール)〟は、存在をそのものを打ち砕き、輪廻の輪から未来永劫外すのよ? それで殺されなかっただけ、マシと思いなさいな」


 その問答の末、恐ろしい速さで打ち合いが始まる。

 まさに神速。ニーナの手に握られている〝色即是空、空即是色(イスラーフィール)〟の銀色の刃と、ランスロットの手に握られている〝愛妃剣〟不貞の産物(セクエンス)の下卑た桃色の刃が火花を散らす。

 しかし、ランスロットはこの神速の戦いの中でなお、〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)を握る右手はピクリとも動かさない。

 この小娘ならば、左手の〝愛妃剣〟不貞の産物(セクエンス)だけで十分だ―――とでも言いたいようである。


「貴様ァァァ! 私を舐めているのか! その左手のいやらしい剣ではなく、右手に握る、貴様の愛剣を振れ―――!」

「貴様? 誰に言っているのかね、君。私が〝反聖剣〟『不壊』の原理(アロンダイト)を振れば、君の胴体と腰は一瞬にして泣き別れだ。それを言うならば、君こそ〝般若波羅蜜多(ミーカーイール)〟とか言う〝神代の礼装(アーティファクト)〟を取り出すべきではないかね?」

「―――そう。それほどまでに死にたいのね。でも残念。―――その前に、あなたは死ぬもの。フランソワ、()()やるわよ!」

「情緒不安定か、教主!」

「は?」


 ニーナの怒気の孕んだ声が、フランソワに突き刺さる。―――正直言って、私も少しビビった。

 それに萎縮したのか、フランソワは弱気になった。


「……分カリマシタ、教主様」


 そう言って、フランソワは糸を取り出し―――


「『応用魔術・雷光のごとく、俊足(ヴィヴァーチェ)』!」


 駆け回りだした―――。

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