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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第886話 セルジェスはまだ知らない

 各国から集まったベルクエルフを纏めているのはラタナアラートの前里長エルセオーゼの息子、そしてヨルシャミの肉体の元持ち主であるセラアニスの兄でもあるセルジェスだった。

 ベルクエルフはどの国でも他の異種族と比べて排他的だ。

 しかし同族間の繋がりが強い傾向にあるため、急ごしらえの連合軍でもスムーズに機能するよう同じベルクエルフのセルジェスが代表に選ばれたのである。


 この代表というのも各国の王が指名したもので、ベルクエルフ以外に対しても一定の権威がある。

 中には「種族の誇りを忘れ、人間の言いなりになっているベルクエルフの言うことなど聞きたくない!」という同種族からの頭の痛くなるような意見もあったが、世界の穴は彼らにとっても目に見える危機であったため、今のところ反乱は起きず渋々ながら従う様子を見せていた。


(それにしたって僕には役者不足が過ぎる役目なんだけれど……)


 セルジェスは戦場で人々の怪我を癒しながら他のベルクエルフをちらりと見る。

 ラタナアラートもやっとエルセオーゼの起こした事件の混乱や余波が治まり、代理里長として立ち回っていたセルジェスは正式な里長を他者に譲って外の世界を目指そうと考えていたところだった。

 その矢先に世界の穴を閉じるための連合軍を結成するため、名うての魔導師は協力してほしいという連絡が来たのである。

 このような形で外の世界を見ることになるとは思っていなかった。


(――でも外の世界に目を向けたくなったのは、今まで出来なかった経験を積めると思ったからだ。ただひたすら里以外の土地を忌避し、新しいことから目を背け、自分たちの殻に閉じこもっていては出来ないことを。そんな経験をするにはもってこいの場所なのかもしれない)


 様々な種族が手を取り合い魔獣と戦っている。

 そんな以前の生活では考えることもできなかった様子を直接目にすることが出来たのは、セルジェスにとって得るものが多いことだった。

 セラアニスとの約束を守るため、セルジェスは種族に関係なく治療を続けながらその光景を目に焼き付ける。



 ――そんな彼の死角から忍び寄っていたのは、小さな小さなキノコ型魔獣だった。

 シメジのような体にザトウムシの足を生やし、数秒に一歩という緩やかな動きでセルジェスへと近寄る。


 セルジェスは負傷した仲間を治療するためにしゃがみ込んでおり、キノコ型魔獣はその足元へと着実に迫っていた。

 ここから足首へと取りつき、肌に直接触れることができれば菌糸を植え付けることができる。

 菌糸の量にもよるが、それが脳にまで達すれば行動を操ることも可能だ。

 強力故に菌糸を風に乗せて舞わせることができないのが難点だったが、ここまで近づけばあとは簡単である。


 さあ跳ぶぞ!


 と、魔獣がザトウムシの足に力を込めた瞬間だった。

 遠方から飛んできた炎の鞭が地面にすら触れず、ピンポイントにキノコ型魔獣を掻っ攫い空中で燃やし尽くした。

 ギィッという異様な悲鳴を聞いてセルジェスはようやく危機が迫っていたことに気がつく。


「あ、あなたは……」

「なんかヤバそうなのが居たぞ、油断するなよ!」


 サイドヘアーを中心に切り揃えられた金髪と勝ち気な目つき、そして橙色の瞳。

 ベレリヤの第三王子、イリアスだった。


 数年前までは伊織より少し高い程度だった身長は伸び、今ではセルジェスと同じくらいになっている。

 セルジェスも船の上で遠目に姿を確認していたが、言葉を交わすのは初めてだった。イリアスの兄であるシエルギータは火属性魔法を得意としているとセルジェスは聞いているが、イリアスも同じ素質を持っているらしい。


 ただしその使い方は兄に比べてだいぶ繊細で、炎の鞭を自在に操り的確に目標を狙うことを得意としているようだった。

 今も相当離れているというのに接近に気づかないほど小さな魔獣を見つけ、その異質さを察知し、有無を言わさず退治したのだ。


 我に返ったセルジェスは頭を下げる。


「ご助力ありがとうございます。油断しておりました」

「ふふん、対応をよくわかってるじゃないか。まぁ……礼を言われることはしたが、後で改めて受け付ける。今は回復に専念しろ」


 それにあれだろ、とイリアスはセルジェスに近寄ると声をひそめて言った。


「王家の人間に反発してる異種族も居るんだろ。お前が指揮し辛くなると戦況に影響するからへり下りすぎるな」

「ですが……」


 セルジェスも外の人間を一纏めにして嫌い、特になにかと話を聞く機会の多かったベレリヤの王族には反感を持っていた。

 しかし人間であり王族の血を引く静夏や伊織と出会い、父の事件を境に考えを改めたのだ。それにより目上の者には相応の対応をしたいと考えていた。

 郷に入れば郷に従え、である。

 だがイリアスはきっぱりと言った。


「セルジェス、ある程度は対等に接せ。今は許す」

「……!」


 名前を覚えられているとは思わなかった。

 セルジェスは何度か目を瞬かせた後、今度は軽い会釈に留めて「はい!」と返事を返す。

 里についての話し合いをする際、ベレリヤ王アイズザーラとは直接話し合う機会があった。その際に彼が賢王に属することを肌で感じていたが、長命種から見た人間の世代交代は恐ろしく早い。


 故に次世代の王族についての不安がすでに仲間内でも出ていたが――次世代がこのような人間なら、ベルクエルフも新たな関係を築いていけるかもしれない。

 戦場に似つかわしくない明るい気持ちを抱きながら、セルジェスは新たな怪我人のもとへと走り出した。


 ――なお、以前イリアスがヨルシャミの外見、つまりセルジェスの妹であるセラアニスの外見に惹かれて印象最悪な口説き方をしたことを彼はまだ知らない。

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