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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第877話 世界防衛戦開始

 世界の穴がこちら側のものを吸い上げる現象は今のところ落ち着いていた。

 ただしそれは魔獣を生み出す速度が落ちているからだ。

 初めのように大量に吐き出すことがあれば、恐らく同じことが起こるだろう。


 そのためミッケルバードの前に錨を下ろした拠点船に到着した伊織たちは、まずステラリカと相談して作戦の要のひとつであるやぐらを設置する場所を吟味した。

 伊織が本領を発揮するには穴に接近しなくてはならない。

 人工ワールドホールを閉じた時と同じである。


 当初はリーヴァに乗ってホバリング、状況に応じて移動しながら閉じていく予定だったが、ステラリカが「安全な足場の設置なら任せてください!」と名乗り出たのだ。

 その結果、土属性の魔法で作り出したやぐらを等間隔で設置して安定した足場を使い穴を閉じ、移動が必要な場合のみリーヴァもしくは飛行可能な仲間が伊織を次のやぐらへ送り届けることとなった。

 やぐらの位置を記した地図を覗き込み、魔法少年の姿に変身済みのネロが伊織を見る。


「俺も飛べるからリーヴァが手を離せない時は魔石の合図で知らせてくれ」

「はい。宜しくお願いします、ネロさん!」


 魔石の電気信号を利用した連絡方法だ。

 伊織がポケットに忍ばせた小さな魔石を握って頷いてみせると、ネロは「もちろんスピードはリーヴァに負けるけどな」と笑った。

 ネロのように飛行可能な者、騎乗飛行出来る召喚獣を呼び出せる者は優先的にやぐら下に配置。その周辺を中心に防衛に当たることになっている。


 この位置は前線でもあるため魔力補充係に数え込まれているナスカテスラも居るが、範囲回復の担い手でもあるため恐らく移動が多い。

 つまり補充の要はヨルシャミとナレーフカである。


「イオリ君、私……戦うことは出来ないけれど、補充だけは失敗しないわ。だからこちらのことは気にせず集中してね」

「うん、ありがとう」

「それと」


 ナレーフカは心配げな表情を覗かせた。

 年上の女性としての表情だ。


「もし失敗しそうになっても、自分を責めてはだめよ」

「それは……」

「イオリ君にすべてを担わせるのが嫌な人はいっぱい居る。それを忘れないで」


 穴を開いた張本人である責任だけで突き進み、その結果が悪いものであった時に今までより更に強く自分を責めないでほしい。

 それはそんな気遣いであり祈りであり、願いだった。


 表情を緩めた伊織は「わかった」と頷く。

 その時ミッケルバードの方から大きな咆哮が聞こえた。四つ首のドラゴンが結界に体当たりをして暴れているのだ。「煩くて敵わんな」と苦笑いしたヨルシャミは地図を畳むと闇色のローブをするりと纏う。


「そろそろ黙らせてやろうではないか、イオリよ」

「――そうだね」


 時刻は朝の八時を回ったところ。

 魔獣の唸り声による多重奏が響く中、伊織たちの最後の仕事が始まった。


     ***


 姿形も様々な魔獣が押し合いへし合い唸り声を上げている。

 怯えた様子を見せている者はごく少数で、この短期間で後者が随分と淘汰されたことが感じられた。

 そんな中、メルカッツェは風の魔法による高速移動でラバ型魔獣の足を切断する。


「ははッ! 足を切ってもヘビみてェな尻尾で走り続けてやがる! こいつぁ臆病者とは縁遠いな!」

「こないだの奴らとは別物みたいだ。っていうより以前のバージョンに戻ったみたいだな……」


 メルカッツェに追い縋り噛みつこうとしたラバ型魔獣をバルドがナイフで突き刺した。肋骨の間をすり抜けた切っ先は心臓に届き、魔獣は血泡を噴いて転倒する。

 そんな状態でも即死はせず向かって来ようとする様子は野生動物のようだった。

 つまり恐れを知らないかつての魔獣だ。


 ただ知能も各段に上がっているのかブラッシュアップされている。

 ラバ型魔獣に気を取られている間に死角から二人へと接近したのは人間の目を持つ肉の蝶だった。

 足はよく見ればすべて口吻で、バルドの腕に突き刺しながら取りつく。

 それを間髪入れず射抜いたのは遠方にいるリータだった。


「ッ……ありがとうな!」


 片手を上げて無事を示しながらバルドは薄黄色の液体を吐き捨てた。

 肉の蝶の毒である。


「他にも毒持ちが居たら厄介だな。伊織たちの危険を減らすためにもうひと暴れするか、メルカッツェ」

「もちろん、体力の限界にゃまだまだ遠いからな!」


 メルカッツェは素早く両腕をクロスさせると竜巻を起こし、土の中に潜んでいた魔獣ごと巻き上げた。

 そんな二人の更に手前ではナスカテスラが作り出した水色の魔法陣から十数メートルはある巨大な水の龍が姿を現す。

 洗脳された伊織と対峙した時のように水の龍は戦闘よりも『対象を閉じ込めること』の方が優れており、がぶがぶと手近な魔獣たちを飲み込むと自分の体を檻代わりにして一気に複数の魔獣を戦闘不能にした。

 その様子をナスカテスラは満足げに見る。


「ふう、前より大分コントロールが上手くなったな! 練習した甲斐がある!」

「ほらナスカ! 自画自賛してないで手ぇ動かしな!」


 ハルバードを振り回し魔獣の胴体を一刀両断したエトナリカが返り血を浴びながら言った。

 遠心力に振り回されているように見えて止まる時はブレーキでも付いているかのような正確さでぴたりと止まるのだから恐ろしい。

 ナスカテスラは「俺様はなるべく温存しとかなきゃいけないんだよ、姉さん!」と耳を下げたが、水の刀を作り出すと姉と同じように戦場を駆け抜けた。


 そんな姉弟の真上を大きな影が横切る。

 伊織たちを乗せたリーヴァだ。

 転移魔法は島への突入の際に使用したが、中は魔獣が多いため一ヵ所目のやぐら設置予定地に直接転移するのは控えて道を切り開きながら飛んでいる最中である。

 リーヴァの背に乗っているのは伊織、ヨルシャミ、ナレーフカ、ステラリカ、そして転移魔法のインターバルが終わり次第ステラリカを連れて第二やぐらの設置予定地へ飛ぶために同行しているベンジャミルタだった。


「おっと、俺様はもう少し前に移動だね! ――姉さん、武運を!」

「帰ったら煮魚作ってあげるから腹空かして帰ってきな!」


 振り返らず、魔獣に無慈悲な一撃を振り下ろしながらエトナリカが言う。

 笑みを浮かべたナスカテスラはリーヴァの影を追うように前へと走り始めた。


 ――数多の刃で、数多の魔法で、数多の牙で魔獣が屠られていく。

 そんな中、当たり前のように口を開けている世界の穴は再びぼとりと魔獣の塊を生み落とした。

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