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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第一章

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第13話 UMAは唐突に!

「あれ……?」


 眠気が来るまでこうしていよう。

 伊織がそうツリーハウスから景色を眺めていた時、道で動く人影が見えた。


 夜を迎えて暗くなった里には数ヶ所に獣避けとして魔石灯(ませきとう)が設置されている。

 その光に照らされて姿がはっきりとしたのは大きな荷物を抱えたリータだった。


 箱や麻袋に詰まった荷物は旅に持っていくにはあまりにも多い。

 重量も見た目通りなのかさすがのリータもよろけている。そんな様子を見た伊織は慣れないはしごを下りると声をかけた。


「リータさん、大丈夫ですか? 荷物運びなら僕も手伝います」

「イオリさん! す、すみません、まだ起きてたんですね……!」


 そう慌てるリータは一抱えもある麻のリュックを背負い、両手で木箱を二段重ねにして持っていた。


 伊織はふたつの木箱を受け取る。

 これくらいなら、と思ったのだが重さも筋力も少しばかり見誤ったようだ。まるで米袋でも入れてあるのかと疑う重さだった。

 それでもプルプルしていることを悟られまいと伊織は気合いを入れる。


「ありがとうございます。お姉ちゃんとは姉妹で住んでるんですが、旅に持ち出せない家具や私物を倉庫に移してるところだったんです」

「倉庫に?」

「はい。私たちの家は……その、身寄りのない人へ優先的に貸し出す家だったので、旅の間は他の人に明け渡すことになって」


 伊織はハッとする。

 身寄りがないとは初耳だったが、言われてみれば今までミュゲイラ以外の家族は姿を見せていない。あれだけの騒動があったにも関わらず、だ。


 つまり保護者やそれに準ずる人物がいないのだろう。

 強いて言うなら族長のミルバがその役目を担っているように見えた。


 伊織の様子を見たリータは家を出ていくことになったのが旅立ちのせいだと思われたくないのか、少し慌てた様子で補足する。


「倉庫といってもちゃんと管理してくれるところですよ。それに家だって誰も住まなくなると傷むんで、私たちにとっても願ったり叶ったりなんです」

「なるほど……そういう理由だと、その、ミュゲイラさんは?」


 暗い中でも目立ちそうなミュゲイラの姿だが、軽く見回してみても周辺にはいないようだった。

 リータは頬を掻いて苦笑いする。


「まだ梱包に手間取ってます」

「あー……」


 きっと片付けに関しては超が付くほど不器用なのだろう。

 逆に散らかしてそうだ、などと失礼なことを考えつつ伊織は荷物を運ぶ。失礼ではあるが高確率で当たっているだろう。 


 しかし、そういうことならミュゲイラも手伝いに向かったほうがいいだろうか?

 そう考えているとリータの背負っているリュックから何かがころりと落下したのが目に入った。


 桜色の小さいビー玉のような飾りがついたペンダントだ。

 よく見れば飾りからチェーンに至るまですべて手作りであることがわかる。

 それを拾って手渡すと、リータは「わ、懐かしい!」と嬉しそうに受け取った。


「ちっちゃい頃にママが作ってくれたんです。そっか、ここにあったんだ」


 どうやらリュックに急いで詰めた小箱に入っていたのが振動で飛び出たらしい。

 リータはそれを灯りに透かせて眺めながら微笑む。


「長命種は人間と比べると記憶が長持ちします。けど小さい頃に別れたせいか、もうママやパパの記憶も薄らいできてたんですけど……不思議ですね、これを眺めてるとふたりがどんな表情で私たちを見ていたか思い出せる気がするんです」

「もし邪魔にならないなら、そのペンダントも持って行ったらどうですか?」


 リータにとっては両親の形見だ。

 そしてこうして眺めて心を和ませることができる品物でもある。

 どんな旅になるか伊織には想像もつかないが、故郷から遠く離れた場所でこうして心の緊張をほぐせるものは貴重で大切だろうと思う。

 伊織にとっての静夏がそうであるように。


 そんな気持ちを込めた伊織の言葉を受け、リータはもう一度だけ桜色の石に光を当てる。反射する光は幼い頃から変わっていない。


「そうですね……はい! これも持っていきます!」


 そして「落とさないように気をつけなきゃ」とリータは大事そうにペンダントを握って笑った。


     ***


 翌朝。

 形式上は償いの一環であるため、ミルバの言った通り見送りは盛大なものではなかったが友人や恩人にひっそりと送り出される形で姉妹は里を後にした。


 天気は良好、風は少し吹いているが寒さは感じず心地いい。


 馬は里に預け、後から馬車屋に引き渡してもらうことになっている。これで馬車屋の店主との約束も守れるだろう。


 その依頼賃として金品を渡そうとしたものの――丁重に断られてしまった。

 ミュゲイラが刺激せずとも里の脅威となっていた魔獣を倒してくれたのだから、そんな恩人から頂くわけにはいかないということらしい。


 むしろ里に来てもらった謝礼を渡してきたので、今度は静夏のほうが丁重に断ることになった。

 静夏からすれば魔獣退治は金を稼ぐためにしていることではない。

 基本的に討伐依頼は無償で行なっているからだ。


 少しばかり押し問答になったが――ミルバのほうは『罪滅ぼしをする者をふたりも同行させてもらうから』静夏のほうは『美味しいものを食べさせてもらった』という判断で納得したようだ。


 やっぱり良い人ばかりだ。

 そう里のことを思い返しながら伊織たちはリカオリ山への道を急ぐ。


 ここからは再び徒歩である。

 馬と静夏による並走ができなくなったのは手痛いが、今は人数が増えたため馬を返さなくても同じ結果になっていただろう。

 伊織たちを案内しながらリータは向かう先を見つめた。


「約束の日までに山の麓には着くと思うんですが、件の小屋をすぐに見つけられるかどうかが気がかりですね……」

「助けろって言うわりに情報がぼんやりしてるなんて横暴なヤツだなぁ、そのヨルシャミって嬢ちゃん」


 出発前にミュゲイラにも経緯を説明したが、その時も似たことを言っていた。

 たしかに横暴だなと伊織も思う。

 しかし同時に理由があってのことではないかとも思っていた。人には人の様々な理由というものが存在する。ミュゲイラがそうであったように。


「焦ってるっていうには余裕があったけど、色々と制限があったみたいなんで仕方ないかなって。現にあれから夢に一度も現れてないんですよね」


 それでも『やっぱりあれは夢だった』と思わないでいられるのは契約の証である腕輪と指定された場所が実在しているからだ。

 これがなければ伊織もおかしな夢を見たとしか思わず、リータの依頼を終えた後は再びベタ村へと戻っていただろう。


 すべてはリカオリ山に到着しなくては始まらない。

 ヨルシャミがなぜ小屋の中で倒れているのか、そしてなぜ助けてほしいと頼んだのか。本人に会えさえすればそれもすぐにわかるはずだ。


 伊織がそう考えていると一行の真上に大きな影が落ちた。


「うおっ……!」


 それは三メートルはあろうかという巨大な鳥の影だった。

 鷺をそのまま巨大にしたような鳥だ。巨鳥はこちらに目もくれずバサバサと羽ばたいて空を横切っていく。


 この世界には魔物や魔獣の他に普通の野生動物も存在している。

 しかし普通だからといって人々の脅威にならないわけではない。

 あの巨鳥もその代表で、時に子供を攫うこともあるのだとリータが説明した。


 魔獣以外にも注意しないとな……と、そう伊織が考えていると巨鳥の通った数秒後になにかが落ちてきた。今度は影ではない。物理的なものだ。


 それはぺしゃりと伊織たちの目の前に落下し、弱々しく「ぴぃ」と鳴く。

 まさかさっきの鳥の子供だろうか。それにしては丸いし変な音がした。

 疑問符を浮かべて静夏と伊織が覗き込むようにそれを見ると――


「ウ、ウサギ?」

「ウミウシ……?」


 ――そのふたつを混ぜ合わせたような生き物が転がっていた。


 広げたモップのようなシルエット。

 橙色の体はつるりとしている。

 ぴょこんと伸びた長い耳は二本生えており、顔はデフォルメしたうさぎのようだった。鼻の穴は見当たらない。要するに『・ω・』というシンプルな顔である。


 とろけながら眠るウサギがそのままウミウシ化した。

 無理やり例えるならそんな生き物だった。

 しかしつるりとしているせいか伊織にはウサギとウミウシを足したうえでスライムで割った生き物のようにも見える。


「……母さん、これが何かわかる?」

「……いや、私も初めて見る生き物だ」


 母子して同じ表情で戸惑っていると、ふたりの間からその生き物を覗き込んだリータが声を上げた。どうやらリータは正体を知っているらしい。

 落下の衝撃で目を回しているそれを指してリータは言う。


「珍しい、ウサウミウシじゃないですか!」

「……」


 伊織は堪えた。

 ここまでまんますぎる名前だとは思っていなかった。


 礼儀正しさを重視しているが、伊織は元来ツッコミ気質の強い人間である。

 友人との会話で聞き手に回ることが多かった影響もあるだろう。


 そのため「安直すぎるだろ!」や「まんますぎるだろ!」といったストレートなツッコミを大声で入れたくて仕方なかったが、伊織はリータにそんな鋭い言葉を向けたくない。

 柔らかい言い回しも可能だが今はまず一旦出かかったツッコミを飲み込む必要があった。そんな一心でとにかく堪える。


 唾を飲み下すことでその衝動を堪えきった時、じっと謎の生き物――ウサウミウシを見ていた静夏がぽつりと言った。


「まんますぎるな」

「まんますぎるよなぁ!!」


 一時は堪えきった自分の頑張りを台無しにしつつ、伊織は結局母親に便乗する形で大いに自分の思いを吐露したのだった。

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