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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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大人しく勇者をしていた本当の目的があった場合

 そして、自分たちの世界に還った勇者たちは……


「こっちの世界だと時間は一日しか経っていないのね」


 蘭雪がリビングにあるデジタル時計で日付と時間を確認する。


 一方、キッチン側を見たオーブが呆れた声を出した。


「なんで他人の家でくつろいで飯まで食っているんだよ」


 オーブの視線の先ではセレナが椅子に座ってパンとスクランブルエッグとサラダを美味しそうに食べていた。


 セレナが何か話そうとしたが口の中にパンを放り込んだばかりだったため声が出せない。


 代わりにセレナの隣に立っている暗夜が申し訳なさそうに答えた。


「白雅からもう一つ伝言があったのでお伝えしようと待っていたのですが……」


 そこにパンを飲み込んだセレナが言った。


「だって、遅いからお腹すいちゃったんだもん。冷蔵庫にこんな美味しそうなご飯があるから、つい食べちゃった」


 可愛らしい笑顔で言うセレナに蘭雪が微笑む。


「なら、しょうがないわね」


 納得する蘭雪にオーブが吠える。


「しょうがなくねぇー!不法侵入の上に盗み食いだぞ!」


 怒れるオーブを無視して朱羅が暗夜に声をかける。


「もう一つの伝言とはなんだ?」


「それは……」


「おい、無視するな!」


 叫ぶオーブの服の裾をいつの間にか側に来ていたセレナが引っ張る。


「料理とっても上手なんだね。ご飯美味しかったよ。ありがとう」


 満面の笑顔にオーブの心の中で白旗が上がる。がっくりと項垂れながら力なく言葉を返した。


「おそまつさまでした」


 全てを諦めたオーブが食器を片付け始める。


 暗夜はその様子を視界の端で確認して話を進めた。


「蘭雪さんが向こうの世界で得た知識についてです。本来は他世界でのことは情報の流出を防ぐため記憶を消去するのですが、今回は特別な事態でしたので特例ということで記憶の消去は適応外となりました。しかし蘭雪さんが向こうの世界の本から得た知識は普通に生活していれば手に入るものではありません。ですので、消去の対象になると判断されました」


 暗夜の説明にオーブが拗ねたように愚痴る。


「不法侵入と盗み食いはいいのかよ?」


「それは……」


 口ごもる暗夜にセレナが飛びつく。


「で、白雅からの提案なんだけど、得た情報をくれたら記憶の消去は免除するって」


 その案に蘭雪が口角をあげて笑みを作る。


「じゃあ、私からも提案。不法侵入と盗み食いを免除するから、今から提出する情報は私が作ったってことにしてくれる?」


「それは、どういう……」


「いいよ」


 暗夜の質問を遮ってセレナが答える。


 抗議しようとする暗夜の口をセレナが塞いで蘭雪に微笑んだ。


「そのほうが早いし都合もいいんでしょ?」


 蘭雪はにっこりと笑うと紫依に声をかけた。


「向こうの世界で読んだ本の内容を全てデータにして出して」


 今まで黙って人形のように話を聞いていた紫依が頷く。


「わかりました」


 歩き出した紫依の後ろに朱羅がつく。


「俺も手伝おう」


「ありがとうございます」


 そうして二人がリビングから出て行って五分後。紫依と朱羅がデータ媒体を持って現れた。


「早いですね。もう出来たのですか?」


 オーブに出されたお茶を飲んでいた暗夜が立ち上がる。


「はい。私が読んだ本の内容のすべてが入っています。この本は事前に蘭雪が読んでいたものなので、蘭雪が得た知識として問題はないと思います」


 紫依がデータを暗夜に渡す。

 そこに朱羅が釘を刺した。


「短時間でのデータの制作方法は極秘だ。白雅に聞かれたら、そう答えろ」


「わかりました。では、行きましょう」


 暗夜に促されセレナが渋々立ち上がる。


「えー、このお茶とお菓子、美味しいのに」


「今が残業時間中だということを忘れないで下さい。それに早くしないと店が閉まりますよ。大将が今日は珍しい酒が入荷すると言っていたではないですか」


「そうだった。早く帰らなきゃ」


 暗夜の言葉にセレナが喜び跳ねる。

 純粋に喜ぶ姿は可愛らしいが十代にしか見えず、珍しい酒を好んで飲むようには見えない。お洒落な店で甘いカクテルやチューハイを軽く飲むイメージだ。


 そんなセレナを眺めながらオーブが意外そうに言った。


「セレナって酒飲めるの?」


 暗夜が額を押さえながら答える。


「こんな外見ですが成人していますから。しかも飲めるどころか、ザルです。麦酒、葡萄酒、米酒、芋酒、なんでも飲みます」


 蘭雪が嬉しそうに笑った。


「あら、なら今度一緒に飲みましょう。秘蔵の一本を用意しておくわ」


「わー、楽しみ!」


 喜ぶセレナに暗夜が注意する。


「異世界人との不必要な接触は違法です」


「えー」


 可愛らしく頬を膨らませるセレナに蘭雪が笑いかける。


「なら必要な状況を作ればいいだけよ」


「あ、そうだね」


 二人の会話に暗夜が頭を抱える。

 しかしセレナは気にすることなく暗夜の腕を掴んだ。


「じゃあ、またね」


 セレナは手を振って姿を消した。


 二人がいなくなった空間を見てオーブがため息をつく。


「最後の最後まで騒々しかったな。で、守りたかった情報は守れたか?」


 オーブの問いに蘭雪は懐から一枚の紙を取り出した。


「ええ。念のため紫依に本を読んでおいてもらってよかったわ。おかげで情報はすぐに渡せたし、本当に必要だった情報は渡さずにすんだし」


「それには何が書かれているのですか?」


 紫依の質問に蘭雪がつまらなそうに紙を振った。


「昔の私たちの汚点よ。まったく、記録に残すなって言ったのに残しているんだから。転移魔法で他の神殿の秘蔵書も確認したけど、王都の神殿の図書館にしかなかったから、これがなくなれば証拠隠滅できるわ」


 朱羅は蘭雪の手で揺れている紙を取って内容を読んだ。


「細かく書かれているな」


「でしょ?ちょっとビックリしたわよ」


「あれだけ記録に残すなって脅したのに?オレにも見せて」


 盛り上がっている三人を見ながら紫依が首を傾げた。


「もしかして前世であの世界へ召喚された時のことが書かれているのでしょうか?」


「思い出していたのか?」


 朱羅の問いに紫依が頷く。


「初めは思い出していませんでしたが、赤い竜に昔の魂に借りがあると言われてから前世で召喚された時のことを少しずつ思い出しました」


「あぁ、紫依の前世が助けた赤い竜か。あの竜もよく律儀に覚えていたよな、っていうか、生きていたことの方が驚きだけど」


「はい。確か、前世の時は召喚されたあと、あの外見のせいで神様に祭り上げられましたよね?その扱いに怒ったミカエルとガブリエルが、それぞれ召喚された神殿を爆破して……それからは魔王のような扱いで、またそれに怒ったガブリエルと、今度はウリエルでしたね。その二人が王都を破壊して……そういえば、その時に城の裏に湖と山脈が出来ましたね。それから……」


 淡々と話していく紫依をオーブが止める。


「ストップ、ストップ。そこまで言わなくていいから。だから今回は大人しくしていたんだよ。それに、あのときは神との戦いもあったから余裕もなかったし」


 蘭雪がオーブから紙を取り上げて紫依に見せながら言った。


「この紙には前世の私たちの外見と行動が細かく書かれているの。もし、これが時空間管理局に見つかったら、私たちが前世であの世界に召喚されていたことが、すぐに発覚してしまうわ。そうしたら、この時代まで遡って監査が入る可能性があったの。この時に魔法技術の情報を持って還っていたから、そのことを尋問されると面倒だったの。それで、記録が残っていないか探していたわけ」


「では、私が読んだ本は?」


 蘭雪が妖艶な笑みを浮かべて満足そうに言った。


「時空間管理局を欺くためのフェイクよ。あの国にとっては重要な情報ばかりだったから騙されてくれると思うわ」


「そうだったのですか」


 利用されたにも関わらず紫依が素直に納得している。


 そんな紫依の手から朱羅が紙を取った。


「なら、証拠は消しとくか」


 朱羅の提案に全員が頷く。すると朱羅が持っている紙が炎に包まれ、燃えカスも残らないほど綺麗に燃やし尽くされた。








 その後、シャブラ国とアルガ・ロンガ国は同盟を結び発展していった。そして二度と勇者が召喚されることはなかった。


 最後に召喚された勇者のことはお伽話のように民衆に広まっていったが、その中で王は一つの密命を出していた。


 人々の中にある勇者像を壊さないためにも一部……いや、大部分が修正、美化された話を広めていたのだ。


 そのことにより誰もが知る勇者伝説となっていくのだが、その話の内容を召喚された勇者たちが知ることはなかった。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


次は一日休んでから、二つの小説を交互に更新していこうと思います。


一つはこの小説で後半に登場したアルガ・ロンガ国王の少青年期の話を。

もう一つはオーブ、朱羅、蘭雪のそれぞれの幼少年期の話を投稿していく予定です。


出来るだけ毎日更新していこうと思います。

更新時間はいままで通りです。

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