オレールとリュネットの出生を暴露した場合
少しして結界を張り終えた蘭雪が執事長とともに部屋に入ってきた。
「大変お待たせ致しました。こちらへどうぞ」
そう言って通されたのは来賓室の隣にある会談室だった。
テーブルの前には王が座っており、その横には宰相が控えている。その後ろにはオレールたちが立っていた。
レンツォが椅子に座り、その隣にはサミルが控え、紫依たちは勧められた椅子に座ることを断り壁際に立った。
始めにレンツォがすまなそうな表情を作って口を開いた。
「急がせて悪いな。早速だが本題に入る。軍を撤退する条件は魔王が封印されている城と、各街にある封印の石碑がある土地をアルガ・ロンガ国の領土とすることだ。この条件がのめないのであれば、悪いが力づくで手に入れさせてもらう」
突拍子もない条件に王が慌てる。
「それでは魔王が復活したときに封印が出来ないではないか」
「次回から封印は我が国の人間でおこなう」
レンツォの発言に王は余裕を取り戻して悠然と説明をした。
「それは無理だ。封印には王族とシャブラ国民と異世界から召喚した勇者でなければならない。アルガ・ロンガ国には異世界から勇者を召喚する魔法技術はあるのかな?」
「異世界から召喚した勇者でなくても封印は出来る可能性がある。それに今回の封印で王族とシャブラ民でなくても封印することが可能なことが証明された」
「どういうことだ?」
レンツォはリュネットとオレールを懐かしむような優しい表情で見た。
「彼らはおれの子どもだ。オレールは十歳の時にベルトラン卿と密約を交わしてご子息と入れ換えて、この国に潜入させた」
レンツォの爆弾発言を聞いて全員が二人に視線を向ける。
オレールは目を伏せるだけだったが、リュネットは瞳を大きくして口を押さえた。
「そんな……私は……」
血の気を無くしていくリュネットをフェリクスが支える。
王は大声で机を叩きながら否定した。
「嘘を言うな!リュネットが、リュネットが貴様の子だというのか!?」
立場を忘れて声を荒げる王にレンツォはすまなそうに言った。
「王族でなくても封印が出来ることを証明するために生まれてすぐに、おれの子と貴殿の子をすり替えた」
顔を赤くして言葉が出てこない王を見ながら蘭雪が言った。
「神殿の地下の秘蔵書に記録が残っていたわ。魔王が現れた当初の頃は王族とシャブラ民以外の人間も加わって封印をしていた、と。でも他国からの侵略を防ぐために、その事実を隠して王族とシャブラ民でないと封印が出来ないという噂を広め、それを真実にした、とね」
蘭雪の話にレンツォが頷いた。
「そのことは密偵から報告を受けて知っていた。だが、それを言っても秘蔵書を焼かれたら終わりだからな。実地で証明することにしたんだ」
「でも、よくすり替えなんてしたわね。自分の子と、この王の子だと顔も違うし、髪や瞳の色も違う可能性もあったでしょ?」
レンツォが肩をすくめて種明かしをするかのように苦笑いをしながら言った。
「おれ専属の魔導師を王都の城内に忍ばせておいたんだ。生まれてきた子どもが、おれの子と同じ顔に見えるよう生まれてすぐに魔法をかけさせた」
「それですり替えがうまくいっても自分の子が魔王の封印に選ばれるとは限らないわよ?」
その疑問にはレンツォは自信満々に答えた。
「おれとあいつとの子だ。魔力が弱いわけがない。選ばれる自信はあった」
そう言ってレンツォは王を見た。
「貴殿の子はおれの子として城で生活している。本人には知らせていない。このことを知っているのは、ごく一部の人間だけだからな」
「だからと言って、こんなことをして許されると思っているのか!?」
怒鳴る王にレンツォは魔力を開放して鋭い瞳を向けた。
「そういうお前たちの国はどうなんだ?魔王の封印という大義名分を掲げて異世界から人を召喚してきただろ。元の世界に還る方法もないそれは拉致、監禁と同じことだ」
レンツォの圧力に押され王は怯みながら弁明した。
「だ、だからこそ勇者には最高の待遇をしてきた。満足する生活を与えた」
「どんな贅沢な生活より自分の世界に戻ることを望んだ人もいる」
オレールたちからレンツォの師匠の話を聞いていた王は何も言えなかった。
レンツォが畳み掛けるように言った。
「漫然と昔からの生活を変えず、自分たちの力だけで封印しようとしなかったのは今までに召喚された勇者たちに対する罪だ。貴殿が変えないというのであれば、おれが変える」
王が力なく椅子に沈み込んで言った。
「何故こうする前に相談してくれなかったのだ?」
王の言葉にレンツォは憤然とした。
「言ったさ。言ったがその時は相手にもされなかった。その時の我が国は小国で気にするほどの価値もなかったからな。そんな小国の三男坊が何を言っても聞きもされなかった。だからおれは国を大きくした。そして実力行使に出ただけだ」
王は自分より若いアルガ・ロンガ国王を見た。
この計画のために国を大きくし、自ら戦争の先頭に立ち、戦神という二つ名まで付けられた王を。
レンツォは魔力を収めて冷めた表情で言った。
「断れば進軍してこの国すべてを手に入れる。ちなみにおれを人質にして交渉しようとか思うなよ。おれが帰らなくても時間がきたら軍は進軍する。総長は優秀だからな。おれがいなくても、この国ぐらいは落とせる」
王は苦虫を噛み潰したような顔をすると、唸るように苦渋の決断をした。
「くっ……わかった。この国すべてと比べれば小さなものだ。魔王の城と封印の石碑がある土地をやろう」
「では領土の授与について正式な文章を送ってくれ。あとでサインして返す」
そう言って立ち上がるレンツォを王が止める。
「もう帰られるのか?」
「時間がないからな」
そこに蘭雪の緊張した声が響いた。
「来たわよ」
言い終わると同時にすざましい爆発音が響き、城全体が震えた。
その衝撃に王が思わず叫ぶ。
「どこからの攻撃だ!?」
気配から魔法による攻撃を受けたということは分かったが、そのとんでもない魔力の量に城の兵たちが慌ただしく動き出す。
レンツォが蘭雪を見ると妖艶な顔が少し歪んでいた。
「朱羅の結界がなかったら危なかったわ」
そう言われてレンツォが朱羅を見る。すると、こちらも少し顔を歪めており、その隣で紫依が少し心配そうな顔をしていた。
「城があるとか人がいるとか考えていないのか?結界が無かったら王都が消し飛んでいたぞ」
「悪い!あとで詫びる!」
そう言うとレンツォは疾風のごとく部屋を飛び出して行った。
サミルが主に代わりに頭を下げる。
「我が王妃が失礼を致しました」
蘭雪がいつもの妖艶な笑みを浮かべながら言った。
「別にこっちからやるって言ったことだからいいけど、本当に馬鹿力ね。王妃さんって本当に人間?」
「人間ですよ。まさか王以外に王妃の魔力を止められる人がいるとは思いませんでした。しかも封印であれだけの力を消費した後とは。あなた方は本当に人間ですか?」
感心したように言ったサミルの言葉に蘭雪が口角を上げる。
「そちらの王妃さんが人間なら私たちも人間よ。さ、王妃さんを見に行かないと」
そう言って楽しそうに蘭雪が部屋から出ていく。
その後ろを紫依たちが付いて行こうとしてカミーユに声をかけられた。
「あの、どういう状況か説明して頂けませんか?」
混乱しているカミーユたちにオーブは外を指差しながら言った。
「行きながらなら説明するけど、一緒に来るか?」
その言葉にカミーユたちの答えは一つしかなかった。




