アルガ・ロンガ国王妃が来る場合
ベルが鳴ると一秒と間を置かずにドアが開いた。
「御用でしょうか?」
すぐに現れた執事長の肩をレンツォが両手で掴んで揺らす。
「今すぐに会談を始めろ。始められないならおれは帰る。いや、帰らないといけない」
あまりの慌てぶりにサミルが止めに入る。
「落ち着いて下さい。長距離の転移魔法は封じていますし、首都からここまで距離があります。罠もありますから、すぐには来られません」
誰に対しての罠かは聞かなくても想像はついた。
だが、自国の王妃に対して罠を仕掛ける臣下というのも普通はいないが、それを指摘する人はいなかった。
レンツォが執事長から手を離してサミルを見る。
「定時連絡が途絶える時間が予想より早すぎる。考えたくないが、あいつはおれがシャブラ国に行くことを想定していたんだ。下準備も整えているはずだ」
「と、いうことは……」
サミルの顔が青くなる。
「一直線にこの国に向かってくるぞ」
「ですが、どうやって?」
「だから、一直線にこの国に向かってくるんだ」
それは物理的にという意味である。
顔を青くしている二人に対して蘭雪が楽しそうに笑って訊ねた。
「確かアルガ・ロンガ国の首都からこの王都までは、この世界の乗り物で普通に移動して十日はかかる距離よね?それを、どれぐらいの時間で来るのかしら?しかも一直線ということは、その途中にある海と、この城の裏にある山脈も越えてくるのよね?」
レンツォが大きくため息を吐く。
「海も山脈も関係なく一直線に来る。時間的には、そんなに猶予はないだろう。首都がある方角に強い結界を張ったほうがよさそうだな」
「はい」
「それなら私がしといてあげるわ」
蘭雪の申し出にオーブが目を丸くした。
「珍しい。明日は槍が降るな」
「その王妃っていう人を見てみたいと思ってね。アルガ・ロンガがある方角にはちょうど湖があるし」
そこにレンツォが険しい顔を向ける。
「生半可な結界だと城ごと吹っ飛ぶぞ」
「魔王を封印した時と同じぐらいの力で作った結界でもダメかしら?」
「それでも少し不安だな」
蘭雪はますます楽しそうな顔をしながら訊ねた。
「その王妃さんが使っている魔法の属性は?」
「風だ」
その言葉に朱羅が動く。
「なら俺も手伝おう」
「そうね。二重結界なら大丈夫でしょう。すぐに帰ってくるから、待っていてよ」
そう言うと蘭雪は朱羅を連れて走って出て行った。
その様子にレンツォが意外そうな顔をする。
「銀髪の兄ちゃんが可愛いお嬢ちゃんから離れるなんて意外だな」
レンツォは朱羅がさりげなく紫依の側にいるよう動いていたことを見逃していなかった。
オーブは二人が出て行ったドアを見ながら説明した。
「湖からこの部屋までの距離なら、何かあってもすぐに駆けつけられるからな。それにオレがいるし」
「信頼されているんだな」
オーブが意外そうな顔をする。
「ただの腐れ縁だ」
「なら、そういうことにしておこう。あとは会談だな」
そう言うとレンツォは静かに控えていた執事長を見た。
「別嬪さんたちが帰ってきたら、すぐ会談を始めると伝えろ。でないと帰るとな」
「わかりました」
かなり雑な扱いを受けたが、そこは年の功なのか平然と控えていた執事長は慇懃に礼をして部屋から出て行った。




