レンツォが昔話をした場合
貴賓用に造られた来賓室は絢爛豪華に飾り付けされていた。
壁や棚は豪華な絵画や派手な装飾品で飾られ、本来は座るためのソファーも触ることさえ躊躇われるほどの宝石や金糸で造られている。
そのソファーにレンツォは無遠慮に座った。
「さすがシャブラ国。歴史と金を感じる部屋だな」
レンツォが大雑把に部屋の中を見回すが、その行為をサミルが軽くたしなめる。
「一応あなたは一国の王なんですから、そのような態度はやめて下さい」
「いいじゃねぇか。気にするやつなんかいねぇよ」
その様子を見て、紫依が朱羅に訊ねた。
「この国の王とは雰囲気が違いますが、王とは本来はこのような姿なのですか?」
紫依の質問に朱羅が答えようとしたが、それより先にサミルがレンツォに少し怒ったように注意した。
「ほら、みなさい。このように誤解されるでしょう。王がそのような態度であると、そのような国と思われるのですよ」
「仕方ないだろ。そもそもおれは王になるつもりなんてなかったんだから」
不貞腐れたように言うレンツォを見ながら朱羅が紫依に説明をする。
「王とはその国の顔だ。大抵は威厳と品位を求められる。だから、だいたい同じような雰囲気になるが、このように例外は存在する」
例外扱いにレンツォは豪快に笑いながら朱羅を見た。
「例外!いいね。おれにピッタリだ」
「王」
サミルの言葉も気にせずレンツォは紫依たちを見て笑った。
「おまえたち見ていると師匠を思い出すよ。あの人も常識とか階級とか気にせずに話をする人だった」
どこか懐かしそうに話すレンツォに紫依は首を傾げた。
「何故、自分の父様のことを師匠と呼ぶのですか?」
その言葉にサミルが穏やかな表情を一変させて紫依に向かって構えた。
「どこで、そのことを知ったのですか?」
鋭い目つきのサミルをレンツォがなだめる。
「おまえじゃ勝目がないから落ち着けって。可愛いお嬢ちゃん、どうしてそのことを知っているんだ?」
「知っている……ではなく、そんな感じがしたというか、雰囲気というか……」
そこまで言って紫依は少し困ったように隣を見ると、朱羅が心得たように説明をした。
「紫依は風が見える。そこから、その人の雰囲気なども見られるのだが、どうやら師匠と言っている言葉が、普通の人が父親と言っているのと同じ雰囲気に見えたのだろう」
朱羅が確認するように紫依を見ると頷いていた。
「そうです。どこか複雑そうに見えたのですが、やはり違和感があったので聞いてみました」
オーブが右手で額を押さえる。
「複雑そうに見えたなら、そこはほっとけ。触れられたくないこともあるんだよ」
「そうなのですか。失礼しました」
綺麗に整った眉をハの字にして申し訳なさそうに頭を下げる紫依にレンツォは軽く笑った。
「気にするな。暇つぶしにちょっと話でもするか。どうせ準備にはもう少し時間がかかるだろうから」
「王!」
サミルが止めようとするがレンツォは手を横に振った。
「別にいいだろ。この勇者たちはもうすぐ自力で自分たちの世界に還るんだから」
レンツォの言葉に蘭雪が身を乗り出す。
「そこまで情報収集できているなんて優秀な部下がいるみたいね」
「情報収集は戦術の基本。師匠がよく言っていた言葉だ。そもそもアルガ・ロンガ国がここまで大きくなれたのは師匠が国内を大改造したためでもあるんだ。それで城にしょっちゅう出入りしていたら、よりにもよって王妃と恋仲になってな。おれは先代の王の子と書類上は登録されたが実際は師匠の子だったんだ。その証明として生まれたときから強大な魔力があって、物心がついたときには師匠のもとで魔力のコントロール方法を学んでいた。そこでなんとなく悟ったんだよ。まぁ、城の噂好きのやつらも勝手に噂していたから、悟らなくても自然と耳に入っていたと思うけど」
「それで、よく王になれたわね」
蘭雪の言葉にレンツォが頭を抱えた。
「おれだって、あんなことがなければ王になろうなんて思わなかったさ。あいつがあんなことをするから……」
「あいつって、王妃のこと?」
「ああ。あいつは師匠と一緒にアルガ・ロンガ国に来た別の勇者が母親なんだが、そのせいで魔力が半端なく強いんだ。おれがどれだけ振り回されたか……」
項垂れるレンツォを見ながら紫依が微笑んだ。
「それだけお好きなのですね」
「誰が、誰を?」
「あなたと、あなたの奥様、お互いです。とても強い結びつきが見えますよ」
「おれはともかく、あいつはないな」
「あ、自分のことは認めた」
オーブの言葉にレンツォが顔を赤くしながら立ち上がった。
「とにかく、あいつは楽しいってだけで何でもやるんだよ。しかも無駄に頭が良すぎる。そのことで、おれがどれだけ……」
そう言いながらレンツォは何か思い出したようにサミルを見た。
「そういえば、定時連絡はあったか?」
レンツォの言葉にサミルもハッと表情を変える。
「ありません」
「やばい」
レンツォは部屋に置いてあった呼び出し用のベルを壊れるのではないかという勢いで鳴らした。




