王妃が王妃らしくなかった場合
勇者たち八人にレンツォとサミルを加えた一行が次に目を開けたときは、シャブラ国の王都にある城の目の前だった。
突然、現れた勇者一行の姿に見張りをしていた兵から伝言ゲームが始まり、城内へと騒ぎが拡散していく。
その様子を見ながらレンツォが気合いを入れた。
「さあて、これからが勝負だ。一秒でも早く終わらせるぞ」
そこに紫依が首を傾げながら訊ねた。
「どうして、そんなに急ぐのですか?」
「早くしないと、あいつが来るからだ」
「あいつとはどなたですか?」
サミルが穏やかに答える。
「王の奥方様、王妃です」
その回答に疑問を持ったカミーユが首を傾げながら言った。
「確かアルガ・ロンガ国王妃は病弱で表には滅多に姿を現さないという噂でしたが?」
「それは影武者のほうだ」
レンツォの答えに今度はオーブが首を傾げる。
「普通は逆だよな?影武者が表に出てくるんじゃないのか?」
「あまりにも破天荒すぎてそうなったんだ。空気読まない、発言が率直すぎる、気に入らないと宮殿内でも魔法をぶっぱなす……とにかく外には出せないんだ。だから外交的には王妃は病弱で外には出られないと公表している。実際は影武者が病弱な王妃を演じて城に閉じこもって、本人は城の外で自由にしているけどな」
なら、何故そんなのと結婚したんだ?と聞きく前にサミルが続きを話した。
「しかも魔力が強すぎて王でなければ制御出来ないのです。幸い王妃も王の言うことであれば比較的お話を聞いて下さるので」
説明の内容を聞いて蘭雪が面白そうに笑う。
「それでも比較的で、しかも話を聞く程度なのね。ますます、そっちの国のほうが面白そう」
そこに転げるように王が走ってきた。
「勇者よ、よく帰ってきてくれた。アルガ・ロンガ国の大軍が迫ってきている。是非、力を……」
そこで一行の中にいるレンツォの姿を見て言葉を止めた。
そして、ゆっくりと震える手でレンツォを指差した。
「何故……何故、アルガ・ロンガ国王がここにいるのだ!?」
半狂乱になりかけている王にレンツォが笑顔で近づく。
「エウレス国での夜会以来だな。姫に魔王の封印をして欲しければ戦を回避するよう会談をしろと脅されてな」
レンツォの説明にリュネットが慌てて首を横に振る。
「私、脅してなど……」
オーブが軽く笑う。
「わざと誇張して言っているだけだ。気にするな」
レンツォが後ろの会話を気にすることなく話を続ける。
「こっちの都合で悪いのだが、あまり時間がない。会談に応じるなら早急にしてほしい。出来ないのであれば、すぐに帰って進軍する」
突然の申し出に王は驚きながらも首を縦に振った。
「わ……わかった。すぐに準備をしよう。アルガ・ロンガ国王を来賓室へ案内しろ。勇者たちはこちらへ」
王の言葉を蘭雪が速攻で断った。
「私はレンツォと一緒にいるわ。その方が面白そうだし」
「なっ……」
言葉を失っている王にオーブがとどめをさす。
「オレもレンツォといるわ。そっちにいったら、交渉やら戦略やら面倒な話をされて意見を求められそうだから」
王は大人しく黙っている紫依と朱羅を見た。
一緒に来て欲しいと必死に訴えている視線を受けて、紫依は朱羅に意見を求めた。
「私はどうしたらいいでしょうか?」
「この国のことは、この国の人間が決めるべきだと思うが、紫依はどうする?」
「そうですね。でしたら私もレンツォさんと一緒に待っています」
「では俺もそうしよう。どこの来賓室で待てばいいんだ?」
最後の希望にも見放され王が項垂れる。そこにレンツォが声をかけた。
「悪いが本当に時間がないんだ。早くしないと会談どころじゃなくなるからな。さっさとしないなら、おれは帰るぞ」
その言葉に王が慌てて顔を上げる。
「わかった。すぐ、すぐに準備するから待たれよ。案内はこの者がする」
王は後ろに控えていた執事長に任せるとオレールたちを連れて城の中へ姿を消した。
「みなさま、こちらへどうぞ」
執事長が一行に声をかけて来賓室へと案内した。




