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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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魔王と呼ばれる穴を封印した場合

 レンツォの視線の先には、四十歳半ばぐらいで黒に近い茶色の髪にこげ茶色の瞳をした、穏やかな雰囲気を身にまとった男性がいた。


 男性は一歩踏み出すと優しく微笑みながらリュネットに自己紹介をした。


「王の側近をしておりますサミル・クルーツィオと申します。本来であればシャブラ国の第三皇女であるリュネット様にお声をかけられる立場ではありませんが、ここでの発言をお許しいただけますか?」


 穏やかな仕草と微笑みにリュネットの警戒心が知らず知らずのうちに解けていく。


「はい」


 リュネットは気がつくと返事をしていた。


 サミルはリュネットの瞳を見つめたまま、ゆっくりと提案をした。


「すぐに軍を下げることは出来ませんが、国と交渉の席に座ることはすぐに出来ます。封印をされたあと、戦争を回避するためシャブラ国王と会談をおこなうというのは、どうでしょうか?シャブラ国の全権は王がお持ちです。リュネット様でも王の許可なく交渉はおこなえませんでしょう?」


 耳触りのよい落ち着いた声に相手を気遣った優しい表情に、リュネットは自然と頷いていた。


 その光景にオーブが苦笑いをする。


「こりゃ話にならないな」


「仕方ないわよ。話がまとまったなら、さっさと封印しましょう」


 蘭雪の言葉にカミーユとフェリクスの視線がきつくなる。


 リュネットには交渉の席に座ると言ったが、それを守るとも限らない。それどころか、封印で魔力を使い果たしたところで人質として捕らえられる可能性もある。身の安全と今後のことを考えると、ここは一度撤退したいところだ。


 そんな二人の考えを察したオーブが軽く言った。


「そんな深刻な顔をするなよ。封印に力を使ってもオレたちの力はここにいる連中より強いからな。何か起きても大丈夫だ」


「ですが……」


 反論しようとするフェリクスの肩にオーブが手を乗せる。


「大丈夫だって言っているだろ?」


 冷めたムーンライトブルーの瞳を笑顔で向けられたフェリクスが硬直する。その光景を見てカミーユが諦めたようにため息を吐いた。


「わかりました。封印をしましょう」


「さすが、カミーユ。物分りが良くて助かる」


 そう言ってオーブがフェリクスの肩から手を外す。すると、まるで金縛りから解けたかのようにフェリクスの体が崩れた。


 その様子にレンツォが声をかける。


「おい、おい。大丈夫か?」


 本来なら仲間がかけるべき言葉なのだが、他の人たちはフェリクスの様子を気にすることなく全員が封印をする石碑の前へ歩いて行っている。


 しかも、


「なに、やっているの?早くしなさい」


 と、蘭雪から容赦ない追い打ちをかけられ、フェリクスが余計に沈む。


 味方から理不尽な扱いをされているフェリクスにレンツォが心配そうに言った。


「調子悪いなら回復魔法かけるぞ?」


 敵国の王からの温かい言葉にフェリクスの涙腺が思わず緩む。が、現状を思い出したフェリクスは慌てて立ち上がり澄ました顔で言った。


「結構です。失礼します」


 そうして颯爽と封印する石碑の前に移動した。


 その行動にレンツォの顔が崩れる。


「笑ったらダメですよ」


 サミルの忠告にレンツォが後ろを向いてサミルの肩に額を預けると、笑いを堪えた声で話した。


「だって、何?あの百面相。深刻な顔してると思ったら、真っ青な顔になってよ。最後は捨てられた子犬みたいな顔でこっち見たかと思ったら、急に澄ました顔してさ。なんか、すげぇ面白い」


「はい、はい。大笑いするのは城に帰ってからにして下さい。王の威厳がなくなりますから。ほら、封印が始まりますよ」


 サミルに言われてレンツォが振り返ると、フェリクスたちが魔力を一斉に石碑にぶつけていた。


 先ほどは何も反応しなかった石碑が輝き、そのまま黒い球体を光で覆う。そして光は幾何学模様へと変化して落ち着いた。


 蘭雪が幾何学模様に囲まれた黒い球体を眺める。


「これで終わりかしら?」 


 紫依が周囲を見て頷きながら言った。


「そのようです。不安定だった風が落ち着いてきました」


 そこでオーブが隣で息を切らして俯いているカミーユに声をかけた。


「おい、大丈夫か?」


「街の……石碑を封印した時とは……まったく違います。まるで……すべての魔力を吸い取られた……感じです。オーブは……平気なのですか?」


 平然としているオーブたちに対してカミーユたちは魔力を使い切って声を出すのもやっとという状態になっていた。


 オレールやフェリクスはかろうじて立っているが、リュネットはその場に座り込んでいる。


「あー、オレたちの力の量に合わせて吸い取られたからな。オレたちはまだ余力があるけど、そっちはキツイか」


「少し……休めば……回復します」


 今にも倒れそうなカミーユにレンツォが声をかける。


「そうは言っても、ここじゃあゆっくり休めないだろ。おれが回復してやるよ。水の精霊よ。彼者たちに癒しを」


 レンツォの回復魔法が淡い光を放ちながら四人を包みこむ。全快とまではいかないが魔力が回復した四人はまっすぐ立ってレンツォを見た。


「どうして回復をしてくれたのですか?」


 カミーユの質問にレンツォは当然のように答えた。


「交渉するって約束したからな。あんな体じゃ交渉どころか城にさえ帰れなかっただろ」


 レンツォは回復したオレールとリュネットを見て満足そうに頷いた。


「じゃあ、約束通り交渉に行くか」


 そこにサミルが進み出て進言する。


「ここにいる全員は連れていけません。選別をして下さい」


「別におれ一人でいいだろ。喧嘩にいくわけでもないし」


 その言葉に後ろで控えている騎士たちがざわつく。


「最低でも私だけは連れて行って下さいよ」


 サミルはリュネットと話していた優しい表情のまま、鋭い目つきでレンツォを睨む。レンツォは諦めたように肩をすくめた。


「わかった。お前だけ連れて行く。それでいいだろ?」


「はい」


 サミルは頷くと騎士たちに指示を出した。


「では、他の者は軍と合流して待機。二日たっても連絡がない場合は計画通りに行動すること」


「ですが……」


 異論を唱えようとした騎士にレンツォが軽く手を振る。


「いいから。おれのことは心配するな。こいつと一緒ならどうにでもなる」


「いえ、王の心配ではなく王妃が……」


 普通なら主の身の危険を案ずる場面だが、その気配を微塵も感じられないどころか他の心配事が強いらしく騎士が言葉を濁す。


 その思考を感じ取ったレンツォが腕を組んで考える。


「どうせ、おれがここを移動した瞬間あいつにはバレるんだ。大事な話し合いに行ったから二日待てと伝えろ」


 サミルが困ったように口を挟む。


「それでは長くて半日しか持ちません」


「仕方ないだろ。それに下手に嘘をついたら後がもっと大変になるぞ。そうなる前にさっさと済ますしかないだろ。と、いうわけで、こっちの事情で悪いがさっさと移動するぞ。おれは転移魔法で直接王都に行く。おまえたちはどうする?」


 オーブが手を上げて別の案を提示した。


「別々で移動するのも面倒だから、オレが全員を転移魔法で王都まで運ぶよ」


 普段は前に出ないサミルが目を丸くして思わず発言した。


「先ほどあれだけの魔力を使用したのに、これだけの人数を運べるだけの魔力が残っているのですか?」


「ああ。ちょっと紫依に助けてもらうけど。いいだろ?」


 話を振られた紫依が頷く。


「私は良いですか転移魔法を知りません。どのようにお助けしたらよろしいですか?」


「魔法はオレが構築するから、ちょっと力を貸してくれたらいいよ」


 出来て当然のように話を進めるオーブにカミーユが驚く。


「いつの間に転移魔法を学んだのですか?」


「こいつらが来たときの魔法陣を見たからな。あれなら出来ると思ったんだ」


「それも見ただけで理解したのですか」


「基礎、基本が解かればあとは応用だからな。簡単だろ」


 その簡単というものを理解するために今まで幾人もの賢人と呼ばれる人が頭を悩ませてきたか説明し倒したいところだが、時間に追われているレンツォが軽く切った。


「常識外れもいいところだが、今は助かる。じゃあ、さっそく王都に運んでくれ」


「じゃあ、もう少し集まって。この魔法陣の中に入って」


 そう言うと一行の足元に魔法陣が現れて輝きだした。


「紫依、さっき石碑にぶつけた力と同じぐらいの、出して」


「これでいいですか?」


 紫依の手の中に光球が現れる。自分たちの全身の魔力量と同じ量の魔力を簡単に出した紫依の姿にカミーユたちが思わず一歩下がる。


 それをオーブがすかさず注意した。


「お前たち、魔法陣から出るなよ。紫依、それを下に落として」


「はい」


 紫依が言われるまま光球を足元に落とす。光球が魔法陣の光に吸い込まれると同時に強い光に包まれた。



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