リュネットが決意した場合
だが、石碑は魔力を吸収しただけで何も起こらなかった。
全身の魔力を放出して、その場に座り込む魔導師たちにレンツォが回復魔法をかける。
その様子を見ながら見て蘭雪が満足そうに笑った。
「だから大丈夫って言ったのよ」
当然のような言い方にレンツォが訊ねる。
「こうなることを知っていたのか?」
「予想通りってところよ」
そう言って蘭雪は石碑を指差した。
「これは私たちが各街で封印した石碑と同じものよ。街の石碑を封印した人間の力でないと反応しないように出来ているのでしょうね」
「何故だ?」
「そもそも何故、街にある石碑の封印が必要なのか?それは街の石碑からここの石碑に大地の力を転送させて、この魔王と呼ばれてきた球体を持続的に封印させているからよ」
「それなら一度発動させたら永久的に大地から魔力が送られて、魔王は封印され続けるのではないのか?」
「封印するために人間が石碑に入れた力が、大地の力をここまで送るための潤滑油的な役割をしているのよ。だから、その力が切れたら大地からの力は徐々に送られてこなくなって封印が解けるってわけ」
「素晴らしい見解だ。その情報はどこにもなかった。どこで手に入れた?」
「この国の秘蔵書と自分の経験からの推測よ」
「では、その知識と経験に聞きたい。封印は異世界の勇者でなくても可能か?」
真剣なレンツォに蘭雪が漆黒の瞳を向ける。
蘭雪は碧い瞳を見つめたまま妖艶な笑みを浮かべた。
「どうして、そんなに封印にこだわるの?あなたの国の軍力なら、この国を支配下に置いて封印だけ、この国の人間に任せることも出来るでしょ?それをわざわざ自分の国の人間でも出来ることを証明するなんて面倒なだけよ。その理由を教えてくれたら、私も質問に答えるわ」
レンツォは少しの沈黙の後、黒い球体を見上げて決心したように話し始めた。
「おれの師匠は五十二年前、勇者としてこのシャブラ国に召喚された。おまえたちのように国をあげて歓迎され、期待通りに魔王を封印した。だが、その後で師匠は自分の世界に戻る術がないことを知って絶望した。人々からどんなに感謝されようが、どんなに豪華な生活をしようが自分の世界に還りたいという気持ちが満たされることはなかった」
レンツォの話にカミーユとフェリクスとリュネットが俯いたが、オレールは顔を上げたまま黙っている。
「そして師匠は自分の世界に戻る術を探して旅に出た。だが結局、自分の世界に戻る術は見つからず、自分の故郷に似ているアルガ・ロンガ国に身を落ち着けたんだ。師匠は最期の時まで自分の世界に還りたがっていた。そして自分のような者を二度と出さない方法を考えていた。おれはその遺志をついで、この世界の人間だけで封印が出来ないか情報を集め、下準備を整えていた。だが、予想より早く封印が解けてしまったため計画が狂った。そこで実力行使にでたんだが、結果はこれだ」
苦笑いをするレンツォにオーブは肩をすくめた。
「そのために国まで大きくするとはな」
「この国より優位な立場でないと計画は実行出来ないし、ちょうど気に入らない国もあったからな」
「豪胆だな」
「細かいことは苦手なんだ。で、別嬪さんの答えを聞きたいんだが」
レンツォの視線に答えるように蘭雪が頷く。
「異世界の勇者でなくても封印はできると思うわ。元々、勇者が召喚されるようになったのは、この世界に強い力を持った人間が少なかったから。あと、強い力を持った人間を王族に取り入れたいという身勝手な思惑もあったみたいだけど。でも、今はこの世界の人間の力も強くなったし、わざわざ異世界から召喚しなくても封印出来ると思うわ。で、これ封印してもいいかしら?」
蘭雪の答えにレンツォは満足そうに頷いた。
「ああ」
そこに今までフェリクスの後ろに隠れていたリュネットが前に出てきた。
「シャブラ国、第三皇女リュネット・シャブラと申します。私の話を聞いていただけませんか?」
突然の行動にフェリクスが慌てて近づこうとするがオレールが止める。
「封印が終わるまでは、こちらに手は出せないはずだ」
「だが、もしものことがあったら」
二人の小競り合いを無視してリュネットは両手を握り締めてレンツォの碧い瞳をまっすぐ見据えた。
「山脈の麓にいる軍隊を下げていただけませんか?」
「それは出来ない。このままでは次に封印が解けたとき、また異世界から勇者が召喚される。それを阻止するためにもシャブラ国を制する必要がある」
「でしたら私は魔王の封印をしません」
リュネットの予想外の発言にその場にいる全員が驚く。
「辱めを受け滅ぼされるというのであれば、このまま魔王に滅ぼされる道を選びます」
堂々としたリュネットの態度に蘭雪が吹き出すように笑った。
「確かに交渉次第とは言ったけど、とんでもない交渉の仕方ね」
オーブがレンツォに向かって言った。
「とりあえず姫さんをなだめないと封印はできそうにないぞ」
「困ったな」
レンツォは頭をかきながら隣を見た。




