魔法騎士が花束を抱えた場合
王から厳命を下されたフェリクスは、ある物を即行で用意してオレールに手渡した。
その姿を見てカミーユが盛大に笑う。
フェリクスもどこか笑いを堪えるように口元を押さえて言った。
「そんなに顔を歪ませるなよ。花が気の毒だろ」
オレールは不機嫌まるだしでフェリクスを睨んだ。
「私に花は似合わない。なぜ、こんなものを持たないといけないんだ?」
フェリクスは笑いをこらえながら言った。
「おまえに似合わなくても女性は花をプレゼントされたら喜ぶものなんだよ」
「なら蘭雪様に渡せばよかっただろ」
「蘭雪様は花より本。幻想より現実って感じだったからしなかったのさ。反対に紫依様はこういうのが好きそうだからな」
フェリクスの意見にカミーユが頷く。
「さすが泣かした女性が星の数と言われているだけのことはありますね。私もその意見には賛成です」
「けなし言葉にしか聞こえなかった気がするが、まぁいい。さっさと紫依様のところへ行け」
フェリクスに背中を叩かれたオレールが睨む。
「だから、どこにいるか分からないんだろ」
「まずは紫依を連れ去った人を探さないといけませんからね。その人を知っていそうな人に聞きましょう」
「カミーユ、勇者様である紫依様を呼び捨てにするとは、どういうことだ?」
殺気立つオレールにカミーユが何でもない事のように答える。
「本人から呼び捨てにして欲しいと言われましたので。ちなみに蘭雪からも言われました」
平然と話すカミーユに対してフェリクスが悔しがる。
「何故だ!私のときは、そんな言葉どころか雰囲気さえ一欠片もなかったのに!」
「僕のことは気に入って頂けたみたいですから。やはり下心があるとダメなんですね。では、行きますよ」
カミーユは一つの部屋に向かって歩いた。そこは王城の中でも上階にあり、一部の限られた人しか出入り出来ない場所である。
カミーユが豪華に装飾されたドアを軽く叩いて名乗ると、中から知っている声が聞こえてきた。
「空いているから、入っていいぞ」
「失礼します」
そう言いながら部屋に入ってカミーユが一番に目にしたのはピンク色のドレスで優雅にソファーに腰掛けているオーブの姿だった。
男なら体を締め付けるドレスに根を上げて体勢を崩しているところだが、オーブにそんな様子はなく上品に姿勢よく座っている。金色に輝く長髪のカツラまで被っているため、どう見ても美少女にしか見えない。
目に保養の光景だが、カミーユは呆れたように言った。
「まだ、その格好だったのですか?」
オーブが拗ねたように答える。
「まだお許しが出ないんだよ。そんなことを言うためにきたのか?」
「いえ、紫依がどちらにいるか知らないかと思いまして」
紅茶を飲んでいた蘭雪が手を止めて答えた。
「紫依なら朱羅のところよ。でも今日は行っても無駄よ。明日の朝まで起きないから」
ドアの近くにいたオレールが一歩出てくる。
「それほど疲労されていたのですか?」
「そうなるわね」
「やはり無理にでもガルシの街で休養を取るべきだったか」
悔しがるオレールにオーブが軽く手を左右に振りながら言った。
「あ、それ逆効果。とっとと王都に連れてきて正解だから」
「どういうことですか?」
オレールの問いに蘭雪がカップをテーブルの上に置いて説明した。
「紫依は自分の力が強大すぎて暴走したことがあったんだけど、その時、朱羅が力を吸収して、その場を収めたの。それ以降、紫依にとって朱羅は自分の強大な力を抑えられる唯一の人間として精神安定剤になったのよ。だから朱羅が側にいないと無意識に力を必要以上に抑えようとして疲労するの。朱羅もそのことを自覚しているから、なるべく離れないようにしていたのだけど。今回は離れていた距離も時間も長かったから回復に一晩はかかるでしょうね」
オーブが盛大に頷く。
「朱羅が側にいればそれだけで落ち着くもんな」
カミーユはオレールを横目で見たあと、オーブに訊ねた。
「紫依と王都の勇者様はどういう関係なのですか?」
オーブが面白そうに言った。
「それは二人に直接聞いてみろ。予想外の回答が出るぞ」
フェリクスが口をはさむ。
「恋人というわけではないのですか?紫依様にとってそれだけ重要な人で、王都の勇者様も気にかけておられるのに」
蘭雪が少し笑いながら言った。
「もう少し複雑よ。いえ、二人から返ってくる答えはシンプルでしょうけど。他に用事はある?なければ私たちも休みたいんだけど」
その言葉と蘭雪の表情から引き時だと悟ったカミーユは笑顔で言った。
「ありません。お疲れのところ失礼しました」
そう言うとカミーユは残りの二人を促して部屋から出て行った。




