表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/47

オレールの場合(後編)

 オレールは見覚えがある茶髪に向かって声をかけた。


「カミーユ!」


 声をかけた人物がオレールの存在に気が付いて手を振りながら近づいてくる。


「予定よりお早い到着ですね」


「お前も早いな」


 二人が話しているとカミーユの後ろから声が響き、人影が飛び出してきた。


「紫依!」


 その声に紫依が顔を上げる。そして自分の名前を呼んだ人物の顔を見て安堵した表情になった。


「オーブ」


 カミーユの後ろから飛び出した人が心配そうに紫依の全身を見る。


「大丈夫か?怪我とかしてないか?」


 その様子に紫依が安心させるように微笑んだ。


「大丈夫です。オーブのほうこそ体調は崩していませんか?」


「オレは旅慣れているからな、平気だ」


「それなら、よかったです」


 微笑み合う二人の可憐な美しさに背景としてお花畑まで見えそうになる。


 その光景にオレールが新緑の瞳を大きくした。


「カミーユが共にいるということは、勇者様なのか?しかも男?」


 オレールの言葉にカミーユが呆然と訊ね返す。


「そっちこそ一緒にいるということは、この少女が勇者様なのですか?」


 情報に対して半信半疑だった二人は、伝聞通りの勇者の姿に硬直している。


 そこに紫依が平然とオレールに声をかけた。


「オレールさん。こちらはオーブです。私と同じ世界からきました」


「同じ世界!?」


 確かに顔見知りというより親しげな二人を見れば初対面でないことは分かる。

 だが、多数ある異世界の中から強い魔力の持ち主を召喚するのだから、大抵は一つの世界から一番強い魔力を持つ一人が召喚される。同じ世界に他世界より魔力が強い人間が二人もいること自体、滅多にないのだ。

 その証拠に今まで同じ世界から二人以上の勇者が召喚されたということは、ほとんどない。


 驚きで固まっているオレールを置いて紫依はマイペースに紹介の続きをしていく。


「オーブ、こちらはオレール・ベルドランさんです。魔法騎士というお仕事をされているそうです」


「そうなのか。よろしくな、オレール」


 オーブは呆然としているオレールに一方的に挨拶をすると、紫依にカミーユを紹介した。


「紫依、こっちはカミーユ・ビオ。職業は旅芸人って言っていたけど、実はそれに扮して国内の情報収集をする密偵」


 オーブの紹介にオレールと同じように驚いていたカミーユの意識が戻る。


「そのことは話していないのに、どうして知っているんですか!?」


「ん?オレの勘」


 驚きの衝撃で呆然としていたところに揺さぶりをかけられて乗ってしまった自分に落ち込みながらも、カミーユは職業柄、平然を装って話題を変えた。


「その様子ですとオーブの予想は当たったようですね。こちらの方が家主さんですか?」


「そう」


 肯定したオーブの言葉を紫依が慌てて否定する。


「あの家は父様の物ですよ」


「同じことだって。これで、この街にいるのと王都にいるのが超不機嫌な二人ってことだな」


「もしかして、蘭雪と朱羅もこの世界に喚ばれたのですか?」


「たぶんな」


「いや、それはないでしょう」


 ようやく意識が戻ったオレールが否定する。


「多数ある世界の中で同じ世界から二人、しかも知り合いが召喚されたということだけでも前代未聞のことです。それが四人なんてありえません。そんなに強い魔力を持った人間が四人も同じ世界にいること事態ありえないのですから」


「そこは、こっちにも事情があってな。だからこそ一緒に暮らしているっていうのもあるんだけど。まぁ、ここで議論していても終わらないから答え合わせに行こう」


「答え合わせとは?」


「神殿に行って、この街の勇者を見れば分かるだろ。食材も買ったし、ここでの用事は済ませたからな」


 いろんな食材が入った袋を見せるオーブに紫依が両手を胸の前で叩く。


「久しぶりにオーブの手料理が食べられるのですね」


「再会した時より嬉しそうだな。まぁ、いいや。カミーユ、神殿まで案内してくれ」


「こちらです」


 こうして合流した四人は神殿に向かって歩いていった。




 神殿に到着すると連絡を受けていたフェリクスが入口まで出迎えにきていた。


 フェリクスにはオレールとカミーユの姿しか見えないらしく、探し物をするように周囲を見回している。


「二人共、勇者様はどちらに?」


 その質問にカミーユが後ろに声をかけた。


「ここでは気配を消さなくてもいいと思いますよ」


「そうですね」


 紫依の声が聞こえたフェリクスは二人の後ろに視線を向けた。するとフェリクスの目に紫依とオーブの姿が写った。


 現実離れした二人の容姿にフェリクスが一瞬見とれたが、すぐに姿勢を正して幾人もの女性を虜にしてきた笑顔で自己紹介をした。


「フェリクス・オードランといいます。お見知りおきを」


 そう言ってフェリクスが手を差し出す。

 紫依が少し微笑んで手を出そうとしたところで、歓喜に溢れた女性の声がその体とともに突き刺さってきた。


「紫依!会いたかったわー」


 フェリクスを跳ね除けた女性が泣きださんばかりに紫依の体を抱きしめる。


 その姿を横目で見ながらオーブが声をかけた。


「蘭雪、それぐらいにしないと紫依が窒息するぞ」


 その言葉に蘭雪が顔を少しだけ上げる。


「あら、オーブいたの?」


「最初からいたよ。で、厨房借りていい?昼飯作るから」


 蘭雪は我が家のように答えた。


「いいわよ。厨房はこの通路の突き当たりを左に曲がって二つ目の右側のドアを開けたらあるから。紫依、昼食ができるまで一緒にお茶しましょう」


 蘭雪が紫依の手を引っ張っていく。

 嵐のような流れにオレールが慌てて二人の後を追いかける。


「お待ち下さい。その前に神官長に挨拶を……」


 オレールの声が姿とともに神殿内へと消えていく。


 その光景を眺めながらオーブはカミーユに視線を向けた。あえて足元に転がっている物体は無視して。


「じゃあ、オレは昼飯作ってくる」


 そう言うとオーブは足取り軽く神殿内に入って行った。


 そして残ったカミーユは無残な姿で床に倒れているフェリクスを見た。


「回復魔法をかけましょうか?」


 蘭雪に跳ね飛ばされ、硬い大理石の床に顔面強打して血の海に沈んでいるフェリクスから返事はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ