大蛇が現れた場合(後編)
セドリックの案内でオーブとカミーユは城の見張り塔へと走った。
「あれを見てくれ!」
見張り台に到着するなりセドリックが指差しながら叫んだ先は城の中庭だった。
太陽が沈み暗くなった夜空を魔法で作り出した複数の光玉が地面を照らしている。そして、その中心では兵たちが武器を構えて巨大な蛇を取り囲んでいた。
蛇は地面の穴から顔だけを出しているが、その顔の部分だけでも二メートルはある。一口で人間の二、三人は簡単に食べられそうだ。
その光景にオーブが人ごとのように言った。
「でかいなぁ。どっから入ってきたんだ?」
「地中からだ。地中には結界がないから盲点だった。あのサイズの蛇となると魔力耐性もあるから、生半可な攻撃は効かないんだ。ここにいる兵だけだと追い払えるか、どうかってところだ」
焦りが見えるセドリックに対してカミーユがのんびりと言った。
「しかも、あれ毒持ちですよ。兵たちをもう少し下がらせたほうがいいです」
傍観者となっているカミーユにセドリックは頭をかいた。
「おまえ、見ているだけのつもりじゃないだろうな。ちょっとは力を貸してくれよ」
「僕が力を貸さなくても勇者様がそこにいるじゃないですか」
「オレ!?」
思わぬ言葉にオーブが自分を指差す。
「働かざる者、食うべからずです。さっさと倒してきて下さい」
当たり前のように言うカミーユにオーブも負けじと反論する。
「カミーユだって働いてないだろ」
「僕は勇者様の道案内という仕事をしました。オーブは今日、なにか仕事をしました?」
何が何でも動く様子がないカミーユの雰囲気にオーブはため息を吐いた。
「わかったよ。一宿一飯の礼にちょっと倒してくるか」
言い終わると同時にオーブは見張り台の窓に足をかけて五メートルはある高さから飛び降りた。
「おい、本当に行っちまったぞ!」
慌てるセドリックに対してカミーユは窓枠に肘をついて観劇するような軽い様子で下を眺めた。
「勇者様の実力が観られるいい機会じゃないですか。僕たちは楽をさせてもらいましょう」
「相変わらず性格悪いな」
「計算高いと言って下さい」
「どっちも変わらねぇよ」
そう言ってセドリックも窓枠に肘をついて下を見る。
そこでは部下である兵たちが突然あらわれた美少女の容姿に巨大蛇のことを忘れて呆然としている姿があった。
「おい、オメーら!ぼけっとしていたら死ぬぞ!」
セドリックの怒鳴り声に兵たちが我に返る。
「将軍!この少女は一体!?」
「その蛇は勇者様が退治するから、おまえらは邪魔にならないようにもっと下がれ!」
「勇者様!?」
「この少女が!?」
驚きの声とともに全員の視線がオーブに集中する。だが、オーブは気にすることなく巨大な蛇を見上げた。
「こんなのが地中にいたのに気づかなかったとは。殺気がなかったとはいえ、オレも平和ボケしたかなぁ」
そう呟きながらオーブが地面に触れると、巨大な蛇を囲むように土壁が現れた。だが、蛇は土壁に埋もれまいとどんどん顔を出していく。そうして、いつの間にか土壁と蛇との高さ比べになっていた。
終わりの見えない勝負に思えたが、見張り台の高さを超えたところで蛇が顔を出さなくなったことで、それは終わった。
「はい、終了」
オーブの声に土壁がそのまま蛇を押し固める。見張り台の視界を塞ぐように建っている土壁を指差してカミーユがオーブに向かって叫んだ。
「あの、これ邪魔なんですけど!」
「わかってるって」
次の瞬間、土壁は崩れ去り地面の中へと吸い込まれていった。あれだけ巨大だった蛇の欠片もない。
その光景にセドリックは唸った。
「まさか詠唱もせずに魔法を使うとは。カミーユが気にするわけだ」
「これだけの力を見せれば勇者様を襲おうというバカなヤツもいないでしょう。勇者様の貞操も守れて、兵の規律も守れる。一石二鳥ですね」
「だといいがな」
セドリックの視線の先には、勇者が男だという情報を知っているにも関わらず恋する少女のようにオーブを見つめている兵たちがいる。
「もう一度、絞めとくか」
セドリックの呟きに兵たちの背中に悪寒が走った。




