闇に乗って
《じゃあ、行くよ》
セルの木から闇が生まれる。
今までと違うのは木に触れてる指先から始まって、染まっていく私の身体。
「うわわわわ、ク、クロさん!」
《大丈夫、そのまま木を触っていて》
クロさんの呑気な声に脱力するも、不安は拭えない。
ぐっと目を閉じた。
《ほら、感じて》
なにを?!
っておもって目を開けば、目の前には上空から見た自然があった。
闇に染まる直前の、光に満ちた美しい山。
寝床に帰る動物?たち。
闇のスピードに乗って、景色が移動する。
《キレイでしょう、この世界も》
クロさんの姿はないけど、声が聞こえて、私は頷いた。
《あの山の向こうに、あきらが近くで見たいって言ってた竜の谷があるよ》
緑がまぶしい、山を超えると、白く輝く岩でできた谷が見えた。
《姿は見えないと思うよ、だって今から夜になるからね》
目を凝らしても、しっぽの先さえ見えなかった。
ちょっとがっかりだけど、しょうがないね。
景色はどんどん流れて、山間に家が見えるようになってきた。
《見える?あれがヒトの町だよ》
城があった。
白く、大きな。
そして城下町。
カーン、カーンとならされる鐘。
城と海のコントラスト。
《見ててね》
クロさんの声がしたとほぼ同時に町が闇に包まれて、家に明かりがともった。
キラキラのネオンなんかは無いけれど、街灯もあった。
化学が、発達してるの?
魔法とかだったりするのかな。
《降りるよ》
クロさんの声に引っ張られるように目線が下がっていく。
ふわりと足を付く感触がしたと思ったら、傍に街灯が一本立ってた。
街灯って言っても、そんなに大きくなくて、私の身長より少し大きいくらい。
周りに家は見当たらない。
明かりに照らしてみるけど、闇に染まってた体はすっかりもとに戻ってた。
《外に出てると、怪しまれるよ。とにかく隠れよう》
足元に現れたクロさんは、さっさと歩き出した。
もう少し人口の明かりを感じていたいなんて、我儘を言ったら呆れられそうなので、言わないでついていく。
さっきの街灯は町はずれだったらしい。
うっすらと明かりを確認できる位置に林があって、私とクロさんは隠れるように座った。
《さ、後は寝るんだね。セルの木に守られてるわけじゃないんだから何かあったら逃げるからね》
クロさんの声もいつもより硬くて、私も緊張する。
緊張……したよ?