世界の果てに
「うおおおお?!クロさん!すてき!」
やってくれました。
変身。
この世界にもいるのか、私の考えがわかるのか、ネコさんになってくれました。
真っ黒のつやつやの毛並みに、青い瞳の美人さん♪
「かわいいかわいいかわいい」
撫で倒したくなる可愛らしさ。
「にゃーっていって!言えるかな?にゃー」
クロさんには私の言葉がわかってる。
だから希望を持った。
もしかしたら何かお話してくれないかなって。
でも、私を見つめるだけでクロさんは鳴いてもしゃべってもくれなかった。
がっかりって言ったら、ひどいよね。
だって勝手に期待したんだもん。
明らかにテンションの落ちた私の周りをクロさんが歩き回る。
なんか心配そうに。
《にゃ》
「ほ?」
《にゃー》
「ええ?」
《にゃー。あってる?にゃー?》
「……あってる」
《後は、なに喋る?》
声、ではなく。
体の芯に響くような、振動。
それは、心配そうに私を見上げるクロさんから聞こえてきた。
《やっと、通じたんだね。ぼく、ずっと話しかけてたんだよ》
「そ、そうなの?」
突然のことに、パニックですよ。
落ち着いているように見える?
うん、よく言われるけど、内心すごくテンパってるのよ。
ほら、すごくドキドキして胸が苦しい。
《ね、あなたはヒト、だよね》
ヒト、クロさんは私をヒトって言った。
それって…
「うん、ヒトだよ。……私のような姿の人は、近くにいるの」
ヒトを知ってる。
この世界に人がいる。
《ずーっと遠くにいるよ。世界の中心、セルの木から、一番遠い光の地》
「世界の中心」
中心と聞いてあの大木を思い出した。
《闇が生まれて、闇が還る場所》
「……私は、ヒトの居るところに行ける?」
《…行きたいの?セルの木の傍は世界で一番安全で、あなたを傷つけるものを寄せ付けたりしない》
試すような目だ。
クロさんのキレイな青の目が細められる。
小さな体なのに、威圧感で背筋が伸びた。
知らず、唾を飲み込む。
「…行きたい。安全でも、クロさんが居てくれても、やっぱり私は元の世界に帰りたい。少しでも情報を得るためにも、行ってみたいよ」
クロさんはじっと私を見ている。
なんだか、少し非難されているような気がした。
《…わかった。ぼくが連れて行ってあげる》
「え!?ほんと?」
《嘘は言わないよ。ぼくらは嘘をつかない》
その言葉に安堵して大きなため息をついてしまった。
気が抜けたって言っていいかも。
それくらい安心した。
《でもね、一つお願いがあるんだ》
クロさんの瞳はいたずらっ子のように輝いていた。