後日談②
最後の力でクロさんが私を連れてきた場所は、昔の日本にそっくりな世界でした。
時代で言うなら明治あたり。
ちょうど大きな戦争が終結した年だったみたいで、戸籍は何とかごまかした。
黒髪、黒目。たまに金髪碧眼。
言語は神様がおまけでつけてくれたらしい能力っぽいもので不自由はしてません。
でも、やっぱり数年は生活環境の違いで周りから変な顔をされることもあって、慣れるまでには結構時間がかかりました。
でもね、やっぱり一人じゃないから。
楽しく暮らしてます。
「クロさーん、クロさーん?あれ、どこいったのかな」
本日私、仕事お休みにした。
本当は期日の迫ってる原稿があるんだけど、今日はクロさんもお仕事お休みだから、一緒にだらだらしようと思ってたのに。
私のお仕事は物書きです。
ご縁あって町の出版社と契約して書かせてもらってます。
何を?
そりゃ、体験談をちょっと変えた冒険談よ。
色々……行ったし、ほら、命の危険もあったでしょ。
好評だそうだ。
ま、しばらくは何とかなるんじゃないかな?
それにしてもクロさんどこに行ったのかな。
家の周りをぐるっと回ってみる。
裏山に向かって大声で呼んでみる。
どっかで昼寝でもしてるに違いない。
だって、お昼寝大好きで、よく仕事場でも怒られてるって聞いた。
そう、クロさんもお仕事してます。
あの、何にも知らなかったクロさんが、今は立派に稼いでいるのですよ。
現代でいう、保育所みたいなとこ。
ちっちゃい子供たちに混ざって遊ぶクロさんはめっさ可愛いっす。
みててほんわかします。
一緒にね、お昼寝しちゃうんだって。
可愛いでしょ。
で、今日はお休みなのに、ほんと、どこに行っちゃたんだか。
「クロさーん……いいや。待ってれば出てくるでしょ」
庭に出してあった長椅子に腰かけて首を回す。
日に日に大きくなっていくお腹は重い。
でも、存在が嬉しくてゆっくりとお腹をなでる。
時々蹴るようになったベビーちゃん。
パパどこに行ったんだろうね?
温かいお日様にあたってたら、だんだん眠くなってきて、あくびが出た。
「あきら、風邪ひくよ」
肩にふわりとかけられた温かい感触と、声に目を開ける。
クロさんのしょうがないなっていう笑顔と、クロさん愛用の外套。
「…どこ、いってたの?」
変に声がかすれてしまって、クロさんの眉間にしわが寄った。
「ほら、風邪ひいたんじゃないの。早く中に入ろう」
怒ったような声。
優しいのは嬉しいけど、本当に……
「一人で、どっかいっちゃったかと思った……」
寝起きだからかな、頭がぼーっとしてる。
「おいて行かないでよ」
普段なら絶対に言わないようなセリフ。
クロさんの顔が優しい笑顔に変わる。
「ずっと、一緒って、言ったよ。置いてなんか行かないよ。どっかに行くときは一緒でしょ」
頭をなでられて、少し恥ずかしい。
でも、安心した。
「うん、一緒に連れてってよ」
あたしはこの言葉を一生後悔することになる。
まさか思わないじゃない。
人間にはなれたけど。
空間を渡る力が、なくなったって嘘だった、なんて。
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