クロさん?
いつもと変わらない自分の部屋。
夜勤明けでもぐりこんだベッドはそのまま。
洗濯物もたまってる。
テレビをつけて日付を確認する。
日付が変わっていないことに安堵。
「よし、クロさんお風呂入るよ」
≪はーい≫
帰ってこれたことはうれしいんだけど、もともとの原因を作った大元にちょっとだけ制裁を加えることにする。
お風呂好きなクロさんは素直についてくるけど、いつもの手加減なんてしてやらない!
≪あきら、僕ね、ずーっと考えてたんだー≫
はいはい、何をですかね。
Tシャツにハーフパンツに着替えて風呂場に直行。
片手にクロさん。
反対にタオル。
≪あきらが望んだからこの姿でいるけどさ≫
首根っこをつかまれてぶらぶらされながら、クロさんは尻尾を振る。
シャワーのお湯をぬるく出してクロさんの背中へ。
≪こっちの方がもっとくっついて居られるよね≫
「え?」
黒髪、青目の綺麗な全裸の男の子にシャワーを奪われて、抱きつかれた。
驚いて叫ぶとか、シャワーを取り返して水かけるとか。
乙女な回路は働きませんでした。
綺麗な顔に見とれはした。
でも、クロさんだって分かっちゃってるから、なんだろう……
諦め?
逆にかわいいーってぎゅーってしたくなった。
かわいい物好きの私の心を鷲掴み。
かわいいってやっぱ最強だって実感しました。
「あきら、今度はどこに行きたい?」
「どこにも行きたくない」
「えー……」
おそらく20代前半くらいの容姿になったクロさんは私の膝でゴロゴロしてる。
服?
捨てきれなかった元彼のモノですが、なにか?
あー、それにしても、かわいいわ。
髪はサラサラで、青い目はくりくりしてて、声はちょっとだけ低い。
そんで、私のこと大好き?
最高じゃない!
誰か来たときはにゃんこになってもらえばいいし、人間の姿でもなんとかなるか。
「一応ね、下見には何か所か行ってみてるんだよ。楽しいよ」
ないのに、尻尾の幻覚が見える!!
思わず頷いてしまいそうになって、慌てて気を引き締める。
「絶対に行かないからね」
「えー、じゃ、下見に何回か行ってみて、お土産話するからさ、行きたくなったら言って?」
そうか、まだココに帰ってくる気ではいるのか……
私が行かないって言い張ったら、元の世界に戻るか、ほかのトコに旅立つかするかと思った。
仕事から帰ってきて、クロさんの冒険談を聞きながらゴロゴロする。
それも良いかもな。
膝枕で寝てしまったクロさんを撫でながら、キラキラの目を想像して、ほんわりと体があったかくなった。
でも、トリップはホントに勘弁してください……
「……どういうこと?」
「僕らがずーっと一緒にいるために必要だって思ったんだ」
「お仕事……」
「あきらに化けて退職願出しといた」
「帰れる希望は」
「ないよ。だって僕もフツーの人間になっちゃたんだし」
クロさんと出会って2年。
色んなトコに行ってきたけど、これは……
なんかの神様に頼んで本物の人間になったらしいクロさん。
最後の力で渡ってきたのはどっかで見たことのある世界。
隣でにこにこしてるクロさん。
嫌だけど。
全部計算されてたみたいで癪なんだけど……
クロさんと一緒ならいっか。
元の世界で彼とずーっと一緒にいることなんて不可能だってわかってたし。
……ずーっと一緒にいたいなって思ってたのはクロさんだけじゃなくて…
「幸せにしなさいよ」
笑って頷く彼のほっぺたに小さくキスをした。
人型になっちゃいました……。
後日談をいつかアップしたいと思ってます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。