受け継がれる想い
それからというもの、王都の裏で密かに大々的な計画が動き出した。
表向きではスラム再開発計画は「地下道の掘削作業」だけが何とか部分的に始動し、それ以外の上下水道や住居建設は完全に停止した。なぜなら、魔力炉の根本的な改修を進めなければ、どれほどの余剰魔力が生まれるのかという正確な数字が出せないため、肝心の魔力導管の工事が出来なかったからである。
とはいえ、この「魔力炉の改修」そのものが王家最大の機密である。たとえどれほど優秀な役人や実務者であろうとも、真の理由を漏らすわけにはいかなかった。
結果として、現場は奇妙な混乱に包まれることになった。
「地下道だけをひたすら掘り進めるが、肝心の魔力導管は一切引かない。しかもその地下道はなぜか広めの設計」という、上層部からの不可解な決定。土木系の職人たちや担当の役人からすれば、導管がなければ街の区画や施設への給魔もできず、建設工事の始めようもない。彼らにとっては、ただ目的の分からない無意味な穴が地下へ広がっていくだけに映り、あちこちから強い不満の声が上がった。
だが、そこは百戦錬磨の執事であるセバスが絶妙な言いまわしと圧倒的な手腕で関係者たちをうまく煙に巻き、何とか暴動寸前の現場を抑え込んでくれたらしい。本当に頭が下がる思いだった。
そして、この前代未聞かつ極秘の計画――魔力炉改修は、やはりあの工房が全権を任されて担当することになったのだった。
工房の親方とその職人たちは、重々しい空気の中、完全な人払いがなされた謁見の間で、国王アルバスより勅命を受けた。
重い足取りのまま王族たちに連れられ、彼らはそのまま地下深くへと潜り、ついにその目の前で「魔力炉」と対面した。
彼らが炉の構造を細かく調査し始めるよりも先に、宮廷魔術師団長であるアルヴィンによって、全員の舌に黒々とした魔術の刻印が打ち込まれた。
それは、この秘密を外部に一言でも口外した瞬間、容赦なく命を奪う死の呪印。
だが、誰一人としてそれを拒む者はいなかった。王国の命運を、そしてこの国の礎を支える真実を知った彼らにとって、そんな誓約など恐れるに足りなかったのだ。
呪印の痛みを気にする者すら誰ひとりいない。さらに言えば、アンネローゼに挨拶すらしなかった。
職人たちの視線は、ただ一途に、目の前にある魔力炉とそこから放射状に伸びる無数の古い導管へと向けられていた。
じっと見つめるうちに、職人たちの表情が変わっていく。
「……確かに、今の時代から見れば、作りは古いかもしれない……」
「効率だって、俺たちの現代の基準じゃあ、お世辞にも良いとは言えねぇ……」
口々にそう呟きながらも、彼らの手が、指先が、震えながら冷たい金属の表面をなぞっていく。
そこにあったのは、千年前の職人たちが、来るべき未来の世代のためにと、持てる技術と情熱のすべてを尽くして組み上げた、まぎれもない「本物の仕事」だった。
設計の古さや効率の悪さの向こう側に見える、気の遠くなるような職人たちの執念と技術の結晶。その圧倒的な歴史の重みと、千年間休むことなく国を支え続けてきた尊さに触れたとき、頑固一徹で知られた親方が、まず一つ、ぽろりと大粒の涙をこぼした。
それに釣られるように、一人、また一人と、腕利きの職人たちが泣きに泣いた。
無骨な男たちの頬を伝う熱い涙は、静まり返った地下に、言葉なき最大の賛辞となって響き渡るのだった。
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