第3話 信仰というのは誰にでも平等でしょうか?
鶫が空を飛んでいる。
街を挟む石の橋を旗のかかった棺が運ばれている。橋の下は昨日の大雨で増水し川べりを削っていた。雨は長く続いている。だらだら降ったかと思うと、急に大雨になり、嵐が来る。
風が酷く吹く時は、街の家々はどこかしら不具合が出た。雨漏りに屋根の欠損、それから川の増水を気にした老人が行方不明となり、その週末あたりには死体で見つかった。老人だけならまだしも子供が見つかると街は通夜のように静まり返る。当たり前だが子供は街の未来なのだから仕方ない。今回の雨も子供を二人連れて行ってしまった。
鶫は橋を渡る棺が行ってしまうのを見送ってから、ゆっくりと旋回して橋の上に降り立った。長い足の爪で石を鳴らして、ぶるぶると頭を揺らす。ゆっくりと羽根を伸ばして折りたたみ、後頭部を覆うとそのまま頭上を通って前に降ろす。鳥の顔だったそこには、美しい人の顔が現れた。顔は首を伸ばし背筋を伸ばしていく。その動きに合わせて鳥の体が人間の姿へと変化していく。それは美しい変化で全てが整う頃には若き紳士の姿がそこにあった。
若き紳士は美しいスーツを着ており、街では金持ち連中が着るものよりも豪華に見える。街の娘たちはその若き紳士を見ると、恥ずかしげにしながら目で追った。若き紳士もまた、彼女らに気付き優しく目配せをしてみせる。ただ彼は彼女らにそうしただけで声をかけることもせずに、酒場へと入っていった。
酒場には酔っ払った男達が酒を煽っている。テーブル席に、入って右手にカウンターがあり、体の大きな女主人がにこやかに挨拶をした。
「おや、新顔だね。いらっしゃい」女主人に軽く会釈して、奥の席にいるいかにも牧師の顔に微笑みかけた。
「合席しても?」若い紳士の顔を見て、牧師は数度頷いた。牧師は目の前の若い紳士に驚き何度も瞬きを繰り返した。このような美しい人は見たことがなかった。まるで神が自分の元へ天使を送ってくれたのかと錯覚するほどに、その若い紳士は目を奪った。振る舞い、話す仕草、柔らかな微笑み、瞬き、唇から漏れる声、髪の動きが完璧で、牧師は何度も目が潰れてしまうのではないかと思う。
ふと若き紳士がグラスの酒を傾けながら言う。
「信仰というのは誰にでも平等でしょうか?」伏せた瞼の先で長い金色の睫毛が揺れている。
「はい、私はそう思っておりますし、そのようにしております」
「安心しました。あなたは敬虔な方だと信じておりました」
美しい指先が牧師の手に触れる。牧師は顔を赤らめたが一瞬、若い紳士の瞳の中に何かを見た気がした。しかしその瞳の美しさに囚われたのかすぐに忘れてしまった。
「そういえば」と酒場に入ってきた男達が大きな声で話している。牧師と若い紳士はそちらに視線を向けると口を閉ざして彼らの話に耳を傾けた。
「橋の下で見つかった子供、あの子滑って落ちたんじゃないらしい」「どういうことだ」「それがさ、街の子供達で増水してる川を見に行こうって話になったらしい、それを聞いてた親が危ないからやめとけって言うから、そん時は黙って聞いたらしい」「まさか?」「ああ、夜になって五人ほどで見に行ったんだと。そしたら誰かがよく見えないとか言い出して、覗き込んで見てみろなんて遊びをし出して、そうしたら、その内の一人がぽんと背中を押したんだそうだ。危ないって思った時にはもういなかった。だから急いで帰って寝たんだって」「それ……誰に聞いたんだよ?」「マーシル、うちの隣に住む子だよ」「まさか押した奴の名前も……」「ああ知ってる」男達の話を聞いていた牧師は真っ青な顔で立ち上がると酒場を出て行った。若い紳士は椅子にもたれると腕を組む。
「敬虔な方だと……信じていたのですが……」




