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mozart  作者: 蒼開襟
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第2話 我らは皆、愉快な旅をする獣よ

 愚か者どもの行進だ。パペットが奇妙で奇抜な服を着てラッパを吹きながら人々を引き連れている。

 ぞろぞろと歩く愚か者どもの服はボロボロで、金も家もない浮浪者だ。街の者たちはそれを屋内で眺めている。ほんの少し開けた窓の隙間から、ドアの隙間から、何も言わずただじっと見ている。

 パペットは時折道の端にある家々に視線を投げる。それは恐ろしい目つきで、見られたものたちは瞬時に戸を閉めた。今までも愚か者たちはこの街にいた。物乞いをしたり、体が元気な者は仕事を求めたりした。

 しかし街の人々はそれを歓迎せずに、彼らを毛嫌いし、しまいには路上で眠る彼らを見て唾を吐く有様だ。パペットはそのようなことを全て知っていて、彼らを安寧の地へと向かわせている。

 ラッパはパンと高く鳴り、遠くの空まで飛んでいく。美しい音色だ。

 愚か者どもたちはゆっくりと歩いている。その顔は安堵で緩み、隣の者が足をふらつかせたら手を貸してやり、臆病になる者がいれば手を繋いだ。それぞれは名前も持たぬ、言葉もほんの少しだけで、知恵など小指ほどかも知れない。

 タンタンと足を鳴らしてラッパを吹き鳴らす。軽快なリズムでパンパンと大きく鳴らす。また街角の家のドアが薄く開いた。そこから四つの目が行列を眺めている。下のほうにあるから子供だろう。何がそんなに物珍しいのか、何がそんなにおかしいのか。パペットは視線を飛ばしてまたドアを閉じさせた。

 救いもしないくせに、悪戯に好奇心ばかりを向けている。それがどれほど怖いことかも知らないで。パペットはパーンと長くラッパを吹くとそれを降ろした。

「今日から皆で愉快な旅さ、歩けど歩けど行く道は遠いが、我らは皆愉快な旅をする獣よ、遠くへ行く前に腹ごしらえをして、満月を見て歌おうぞ、踊ろうぞ」

 愚か者たちが汚い歯を見せて笑い、同じように歌う。それは朗らかで楽しそうな歌声だ。パペットは同じフレーズを繰り返し歌い、その後を愚か者どもたちが続く。果てしなく楽しい旅の始まりを告げる歌は、街の外れまで続き、街を出るととんと聞こえなくなった。街の人たちは静まり返った外の様子にそっとドアを開ける。皆顔を出してきょろきょろと首を振ると、どこかホッとした顔で外に出た。

「まったく人騒がせなパペットだよ」「やかましいったらありゃしない」「これで道が綺麗になったじゃないか、パペットには感謝しなくちゃね」「ああ、本当に」皆が口々に好き勝手言っている。ふと、遠くから美しい歌声が響いてきた。街の入り口に黒いマントが立っている。じゃりじゃりと小石を踏んで石畳に上がるとカツンと音を立てた。街の人々はそれをじっと眺めていた。この街ではあのような者は見たことがなかった。黒いマントは歩くたびにふわりふわりと揺れている。頭まですっぽり包まれて、顔は黒いマスクで何者かはわからない。ふと子供が声を上げた。

「あれ……なんか大きいね」指差した子供の視線の先に黒いマントがいる。街灯にスラッと登り、その上から人々を眺めている。街灯は街のシンボルでもある。この街の大人の男が隣に立っても街灯は大きく見えるのだ。なのに黒いマントは街頭の半分近くに感じられた。

 人々は少し身構えるように一歩後ずさる。ドアを開けて体を半分沈める者、大きな体の後ろに隠れる者。それぞれが見ている何かに畏怖を感じ始めた頃、それはスッと腕を上げた。白銀の鱗にフワフワとした羽毛がびっしりとついている。鳥のように長い爪をゆらゆらさせて、黒いマントに風を纏うとゆっくりと地上に降り立った。鳥が降り立ったのだと人々は錯覚した。そして聞こえてきた優しい歌声に耳を澄ませると、一人ずつバタリバタリと倒れていく。最後の一人、小さな子供は口を開けていた。そこから泡が漏れるとパタリと倒れた。

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