幕間「王都五家」
ある屋敷に、四人の剣士が集まっていた。
ある者は、丸太よりも太い腕を。
またある者は、その顔に大きな十字傷が付いている。
その内の1人は、足が不自由な男だった。
さらに1人は、全身が傷に塗れていたが、その背中には一切の逃げ傷は無かった。
その異様な光景だが、剣の達人が見れば分かったであろう。
彼らは、人の領域を超えしもの…鬼狩りの一族。
そのトップに君臨する、五人の剣士の内の四人。
彼らは、一族の長を守る五つの分家という事から、こう呼ばれていた。
『王都五家』と。
では、最後の五家の一人はどこにいるかというと……。
その前に、この場にいる、他の分家の様子を見てみようではないか。
「あの男はまだ現れんのか!?」
そう叫ぶ男は、五家の中で最も独自に動くことを許されている『王の剣』、御剣家。
その当主、戦場で縦横無尽に鬼を屠るその姿から、付けられた名前は『雷獅士』。
「まあまあ、それはいつも通りじゃありませんか、御剣さん」
そう言って憤る男を諌めるのは、五家の中でも最も剣術指南が多い一族で、数多くの流派を抱えるその剣術は、まるで流れる水の様に多彩な剣術を持つとされる『王の番人』、氷見家。
その当主は、齢五十を越えようとしていたが、その身には一切の傷すら付いていない。
その姿から、巷では『明鏡止水』と呼ばれている。
「これが落ち着いていられるか!」
男は、諌められてもなお、それでも叫ぶのをやめようとない。
「ガハハ、相変わらず血気盛んですな、御剣の!」
そう言って、男を煽るのは五家の中でも王と最も繋がりが深いと言われている『王の懐刀』、帯刀家。
当主は、代名詞の鬼の血で真っ赤に染まった刀を扱う事から『紅蓮腕』の異名を持つ。
「………来たか」
先程まで、微動だにせず、無言だった男は国の中の警備を担当する一族で、別名『王の盾』、鎧塚家。
当主は代々同じ色の鎧を身につけている事から、付いた名前は別名『黄金騎士』。
そして、遅れてやって来た、最後に残っている一族が国の外での警備を担当する一族。
「おっと、遅れたか?」
障子を乱暴に開けて入って来たのが、その一族の長。
その腰に刺している代名詞の大刀を使った戦闘スタイルから『鎌鼬』と呼ばれている。
最後の一族は、国を護る為に存在する最初の守護団。
『王の城』天城一族こと天城家。
今回は、そんな一族の話し合い『五家会談』の風景だ。
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「だから、言っておるだろうが!」
いつもの流れは、御剣家が痺れを切らす所から話はスタートする。
それを皮切りに、天城家が人を食ったような喋り方をして、それをエスカレートさせる。
「おいおい、御剣のおっさん。
そんなこと言ってたら、血管切れちまうぜ?」
「若造、舐めた口を聞いていると二つに裂くぞ!」
「フハハ、二人とも俺を置いて話すな!」
「お前は黙っていろ、帯刀の!」
だいたい、この五家の会談がまとまる事はない。
ある人が現れるまでは。
「おやおや、あのお三方は元気ですねえ、鎧塚さん」
「………」
「まるで、昔の私たちを見ているようだ」
そんな三人を見つめながら、氷見家の男はどこか遠い目をしている。
「だから、俺が次は先陣切るって言ってんだろ、御剣のおっさん」
「先陣は御剣家の役目だと、言っとるだろうが!」
「ガハハ、俺に任せてみるのはどうだろうか?」
鎧塚の男は、三人を見ながら呟いた。
「………貴様ら、静かにしろ」
それだけで、三人は口を閉ざす。
鎧塚の男に黙らされたのではない。
五家会談、この会議で最も重要な男が姿を現したからだ。
「やあ、みんな元気かい?」
とぼけたような顔で、軽い口調でそう言って男は現れる。
五人の男達は、崩していた足をすぐに戻し、その場に跪いた。
五人の男達は、目の前の男に忠誠を誓っている。
彼が、五家を束ねる本家筋の家、皇家だからだ。
先程の声を荒げていた男が、静かに話す。
「御館様こそ、無事であられており、我々一同嬉しく存じます」
「顔を上げてくれ、半蔵。
君たちは、私にとっては家族も同然なんだ。」
御館と呼ばれる男は、透き通る様な声でそう告げる。
彼の言葉には魔法が、呪力のような響きが宿っている。
「ハッ、では失礼ながら」
「ああ、そう言えば総一郎」
「ハッ、なんでございましょうか」
総一郎と呼ばれる男に皇家の男は告げる。
「そう言えば、君の子どもが鬼を退けたらしいね」
「はい、ですが、あれはトドメを刺したのは私でございます」
「そうなのか、やはり総一郎は優秀だね」
「いえ、アレは私が外で仕留め損なった鬼でございます故、我が一族で始末をつけるのは当たり前の事でございます」
「そうかい、じゃあまた、私にもその子を紹介しておくれよ」
「ははっ、ありがとうございます!」
かつては、天城家の神童、いや悪童と呼ばれた『鎌鼬』も御館様と呼ばれる男の前では、まるで子どものようだ。
そんな御館様が、神妙な顔でこう告げる。
「じゃあ、五家会談を始めようか。銅山、話を進めてくれるかな?」
無口な鎧塚の当主に話を進めるように促す。
「承りました、議題は静岡奪還作戦の-」
こうして、五家会談は幕を開けた。