西方国境
ティアナは森の中、はっと目を開ける。そしてすぐにティアナの目に写ったのは、いつもの天井では無く、たくさんの木々であった。
そしてティアナは、昨夜ついに城を抜けてきたのだと再確認させられた。
もう、他力本願は止める。
もしもなんて考えるのも止める。
私に出来ることなら何でもする。
それでもダメだった時はその時考える!
ティアナはそんな決意を胸に、朝日が差し込む森の中を歩き出した。
歩いても歩いても同じ木々が並んでいるがティアナには自分がどこにいるのか大方わかっていた。
なにせティアナの頭の中には地図さえも鮮明に記憶されているのだから。
歩いて歩いて、夜になれば眠った。
そうしてやっと、二日近くかけてティアナは西方の国境へとたどり着いた。
日が高く登っているのを見る限り今は正午ぐらいだろうか?
ティアナは、明るいうちにと周囲を警戒しながらクレアの一団の搜索を始めた。
けれど、ティアナは何時間歩き回っても、何の痕跡も発見できなかった。
疲れがたまりにたまり、そろそろ休もうかと考えていた時だった。突然ティアナが踏み出した方向の地面が消えて、ティアナは斜面を滑り落ちてしまったのだ。
「い…たた」
ティアナは滑り落ちた拍子に腰を強打してしまったようで、痛みに少し顔を歪めながら腰をさすろうとした。
だが、その行為はあるものによって阻止される。それは、ティアナの手のひらにベッタリとついた赤い液体だった。
気づけば、むせ返る鉄のような臭い。
それは、紛れもなく血だった。
ティアナが滑り落ちたその場所は、そこだけが不自然に直径5mほどえぐれて丸い窪みになっており、そこに血が溜まっているのだ。
だが、おかしなことにその窪みには、死体のようなものはひとつもなく、ただ血が溜まっているだけであり、どんな生き物が流した血なのかはわからなかった。
ティアナは目を見開いて悲鳴も上げられず、よろよろと立ち上がった。
そして、赤く染まった外套を脱ぎながら、斜面をよじ登る。
そうして、よじ登ったその先に、なにか黒い棒のようなものがそびえ立っているのが見えた。
ティアナは、何だろう…と思いながら、目線を徐々に上へと上げていく。
そこでティアナが目にしたのは、その長く太い棒をつかむ巨大な手で、驚いてその手から更に視線を動かすと、人のような形をした巨大な一つ目の怪物が、こちらを見下ろしているのだとわかった。
「…っ!!!!」
書物でも見たことのない異形な生き物に、ティアナは鋭い恐怖を感じて目を見開いた。
こんな生き物聞いたこともない!
そんな風に心の中で叫ぶティアナを見る怪物の目が細められ、大きく裂けた口の端が片方つり上がった。そして持っていた巨大な黒い棒を振り上げると、その棒をティアナに向かって勢いよく振り下ろしたのだ。
ティアナは、間一髪で左へと転がって、その棒を避けた。そして、数秒前まで自分がいたところへ目を向けると、そこには怪物が振り下ろした黒い棒深くめり込んでおり、怪物がその棒を持ち上げると、地面には先ほどティアナが滑り落ちた窪みと同じようなものができていた。
恐怖でガクガクと震えて、使い物にならなくなりそうな膝に喝を入れて、ティアナは立ち上がった。
…私は、クレアを連れ帰るためにここへ来た。クレアを見つけ出す前に、無様になんて死ぬものか!
そう、ティアナは自分を奮い立たせた。
幸い、怪物の動きは少し鈍いようだし、隙を見つければ勝機はある!
頭を必死に回転させれば、大量の戦闘に関する知識が飛び出してくる。それを感じて、ティアナは怪物を前にしてすっと冷静になった。
それからは、ティアナの猛攻が始まった。
怪物攻撃はワンパターンで、黒い棒を振り下ろすという事しかしない。そんな単純な動きを見切ることは、ティアナにとって容易かった。
怪物の攻撃を全てかわしながら、ティアナは独学の体術を怪物へ打ち込んでいくが、殴れば殴るほど、蹴れば蹴るほど、こちらの骨が折れるのではないかというぐらいの怪物の硬さに、徐々に心が折られていった。
そんな時だった。
ティアナが何もしていないのに、怪物が膝をつき、そして中心からはじけ飛ぶように消えてしまったのだ。
ティアナが唖然としてその光景を見ていると、怪物がいた場所へ誰かが立っているのが見えた。
その人物は、肩につくかつかないかぐらいの長さの後ろに一つに束ねた水色の髪を揺らして、こちらへ振り向いた。




