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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
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二つ目の祭器の塔へ④

ガッという鈍い音が聞こえ、カークは固く瞑っていた目を開いた。

すると、最初に目に入ったのは、綺麗な長い金髪を揺らしながら軽やかにカークの目の前に着地したティアナの姿だった。

すぐ横の壁を見れば、もう一人のティアナが壁に打ち付けられてそのまま倒れた。


「…ふぅ…」


カークの目の前に仁王立ちしたティアナが小さくため息をついた瞬間、壁に打ち付けられた方のティアナは短剣を残して緑色に光り、跡形もなく消えた。


「ちょっと! まだ出てきちゃダメじゃん!!」


そんな聞きなれない声が聞こえたかと思うと、ティアナのすぐ横に小さな緑色の光が舞い降り、そしてその光が小さくはじけると、そこには透き通る緑色の羽をもった小さな妖精が舞っていた。


「どうして? カークはもうあなたが言った条件を全部クリアしているでしょう?」


ティアナはそう言いながら、小さな妖精の姿を無視して、カークの方へと駆け寄る。


「カーク、大丈夫? ごめんなさい、もっと早くに助けに入れればよかったのだけど…」


ティアナはそう申し訳なさそうに言いながらカークの目の前に屈みこんだ。


「は…い、俺は大丈夫ですけど…姫様、怪我は…?」


「治った!」


「なわけあるか!?」


カークがそう声をあげ、ティアナの足を見ると本当に足のどこにも怪我はなく、綺麗な肌色に戻っていた。


「その子、一人で隔離しておこうと思ったら這って進みだすわ、壁まで着いたら壁を殴ってヒビ入れるわで、全然大人しくしてくれないから、怪我は治してあげるから祭器使いへの試験が終わるまで大人しく待ってって僕が頼んだんだよ」


そう言いながら緑色の短い髪を持った少年のような姿をした小さな妖精は、ティアナの横へと飛んできた。


「なのに試験が終わる前に部屋の壁突き破って出て行っちゃうしさぁ…」


「あら、約束は守ったわ。カークが私の偽物を見破って、それでもその偽物を殺そうとしなかったら合格って、あなたが言ったのよ」


そう言いながら、ティアナはカークの怪我の具合を見る。


「早く止血をしなきゃね…。ウンディーネ」


ティアナが呼びかけると、ティアナのすぐ側に水色の長い髪と、透き通る水のような美しい羽をもつ、ティアナと同じぐらいの身長の妖精が現れた。


「はーい。力を貸すわ、ティアナ」


ウンディーネはティアナににっこりと笑いかけると、優しくティアナの肩に片手を添えた。

そんなウンディーネの姿を、カークは驚いて見つめた。

同じ妖精でも、塔の主であるピクシーと、妖精使いに力を貸す妖精は、姿かたちも大きさも、まったく異なていた。


ティアナは一度ウンディーネの姿を夢の中でとはいえ見たことがあったからか、特に驚きはしなかった。

ティアナの手の甲が水色に光、その手をカークの怪我にかざすと、カークの怪我は見る見るうちに治っていく。


「ありがとうございます…姫様。この妖精が…ウンディーネなんですね…?」


「うん、そうよ」


ティアナはそうカークに笑いかけながら、ウンディーネの手を引いた。


「ウンディーネ、塔の中ではこうして直接姿が見えるのね」


「えぇ、ティアナ。あなたが祭器を全て集めれば、外でもこうして私の姿が見えるようになるのだけれど、まだ少し先の話ね……それで…あなたはどうして私が出てきた途端に逃げようとしているのかしら?」


ウンディーネは、笑顔を崩さずに、何もないところに手を伸ばす。

そして、そこで何かをつまんで引っ張るような手の動きをすると、何もなかったところから小さな緑の妖精が引っ張り出された。


「わぁ! えっと……すみません、ウンディーネ様…」


「この者には別に何も試験を課さなくとも、主への忠誠心が確かなことはわかっていたはずでしょう? 人間をもてあそぶのは止めなさい」


「…はい、ウンディーネ様」


ピクシーは、透き通る緑色の羽を下げて、しゅんとしたように俯いた。


「では、私はとりあえずおいとまするわ。また何かあったら呼んでね、ティアナ」


ウンディーネはそう言い残すと、水色の光を放って姿を消した。


「ありがとう、ウンディーネ」


ティアナは小さく礼を言うと、カークに手を差し伸べた。


「立てる?」


「はい、大丈夫です。本当、情けないです、こんなにボロボロになっちゃって…」


「そんなことないわ、カッコよかったわよ、カーク」


カークがティアナの手を取ると、ティアナはそれを引っ張ってカークを立たせた。


「そういえば、姫様どこから見てたんです?」


「部屋の中に、そこの妖精さんがカークの様子を映し出してくれたの」


「本当に何でもありだな…」


「とりあえず…」


カークとティアナの間に入るようにして飛んできたピクシーは、そう切り出した。


「君のことは、認めてあげるよ。というか、本当は最初から認めなきゃいけないぐらい、主に対する忠誠心は良かったんだけど…ちょっと試してみたかったんだよね」


「試すって?」


カークがそう聞き返すと、ピクシーは腕を組んで至極真面目な顔で言った。


「普段は気丈な女の子が急にか弱くなったら、可愛い、守ってあげたいってなって、惚れちゃうんじゃないかってね」


「無いな」


「別に言ってくれなくても僕にはあんたの心の中なんか筒抜けだしわかってるよ。違和感しかないとか思ってたもんね。トモダチなんでしょ?」


「あぁ」


「大切なトモダチ…ねぇ……?」


「なんだよ?」


「人間の友情なんて、めんどくさそうなものに僕は関わりたくないもんだね。さて、眠ってもらってた二人にも、こっちに来てもらうかな」


ウンディーネに見せたしおらしさは何処へやら、すでにピクシーは偉そうな態度に戻っている。

ピクシーがそう言い、手を振ると、緑色の光が床の付近で発光し、その光が消えるとクレアとミランが姿を現した。

二人とも意識は無いようで、床に横たわっている。


「クレア、ミラン…!」


ティアナは二人に駆け寄って、しゃがみ込む。


「もう一人は随分自由に歩き回ってくれてたみたいだけど、四つも祭器を持ってる特別な人間みたいだから、大目に見てあげるよ」


ピクシーがそう言った瞬間、廊下の奥の方から、ミスティの声がした。


「えへへ、ありがとう、ピクシーちゃん。やっぱり祭器の塔の中は居心地がいいね」


その声とともに、ミスティが姿を現した。

にこにこと笑いながら、壁に寄りかかっている。


「そんなこと言う人間、あんたぐらいだと思うよ。そこのでっかい人間なんて、今すぐここから出たいって顔してる」


「姫様に襲い掛かられるなんて悪夢を体験した場所だからな」


「クレアじゃなくてよかったじゃない?」


ティアナは、ミランとクレアの脈を確認しながら言う。

そんなティアナに苦笑いしながら、カークは言葉を返した。


「いや、姫様のほうが怖いですよ」


「え…?」


「でっかい人間、女の子に向かってその言い草はないよ」


「その呼び方止めてくれないか…俺の名前はカークだ」


「あんたみたいな人間にたいそうな名前が必要なのか疑問だけど…じゃあカーク。これはあんたにあげるよ」


緑色のピクシーは、そう言いながら金色の腕輪を二つ、カークに渡した。

その腕輪には、ミランの短剣と同じような文様が彫られて、神々しい雰囲気を放っている。


「これが…祭器…」


「勘違いしないでよね。僕はあんたに一応、形式的に祭器を渡すだけで、別にあんたのことはそんなに気に入ってないし、力を貸すかは僕の気分だから」


「…わかった。なら、お前に認められるように頑張るよ」


カークのまっすぐな言葉を聞いても、ピクシーの表情は変わらない。


「まぁ、せいぜい頑張りなよ人間」


ピクシーはそういうと、カークに渡した祭器にそっと触れた。

金色の祭器は、黄緑色の光を放ったかと思うと、その場に居た全員のことを飲み込んだ。

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