ディザの巣②
ティアナは、下半身に圧迫感を感じて目を覚ました。
目を開くとそこは見たこともない洞窟のような場所の入口で、そこに下半身が殆どを砂に埋まった状態で倒れていた。
ぽっかりと空いた岩壁に囲まれた空洞は、入ってこいとでも言っているかのようだった。
その場所は、洞窟への入口以外は進めるような場所はなかった。
ティアナの足が埋まってしまっている砂は上までびっしりと積もっていて、砂をかき分けても何処かに出られるとは思えなかった。
足を砂から引き抜き、どうしてこんな場所にいるのかと思い返した時、ティアナはディザたちに襲われたことを思い出した。
「そうだ…! ミランは…!?」
そんな風にティアナが慌てて辺りを見回すと、ミランも体の殆どは砂に埋まった状態で倒れていたが、幸い顔は埋まっていないようで、窒息の心配はなさそうだった。
ミランに駆け寄っていき、ミランの体にのしかかっている砂をどけていると、ミランは身じろぎしてからゆっくりと目を開けた。
「ミラン! 良かった…大丈夫?」
そうティアナはミランに聞く。
そのティアナの問いかけに、ミランはこくりと頷いて、あたりを見回した。
「…どこ…? ここ…」
「分からないの。足場が崩れたところまでしか覚えていなくて…」
ティアナの言葉にミランは、自分もだというように頷くと、立ち上がった。
だが立ち上がった瞬間にミランは嫌そうに顔をしかめると、おもむろに腰紐を緩めた。
すると、上着の中に入っていたであろう大量の砂がばさっと落ちて砂埃を立てた。
「わっ…! だいぶ入ってたわね」
あまりの砂の量に、ティアナは小さく笑ってしまう。
「多分ティアナも背中の方に詰まってると思うよ」
そう言いながらミランはティアナの背中を軽く叩く。
そのミランの手には、布越しにも砂の感触が伝わってきた。
「うーん…でもこれ、脱がないと出てこないでしょう?」
「……うん。僕はちゃんと別の方向いてるから…」
「ううん、面倒だからいいわ。そんなに重くも感じないし!」
そう言って笑うティアナに、ミランはいつもの事ながら姫とは思えない適当さに少しだけ呆れた。
そしてミランは、ゆっくりと辺りを見回す。
「…ここに入って行くしか無いのかな…?」
「うん、そうみたいよ。クレアたちは大丈夫かしら…」
「クレア兄さんたちは大丈夫でしょ。みんな強いしね…」
そんなミランの言葉に、ティアナはこくりと頷く。
「そうね! 私達も頑張って、みんなと合流しなきゃね」
そういって笑ってみせるティアナだったが、心臓がいつもよりも早く脈打っているのを自分で感じていた。
心の中にある不安を払うように自身の顔を両手で挟むようにして叩く。
その音に、ミランが隣でびくりとして固まった。
「…なにしてるの」
「喝を入れたところよ! 行きましょう!」
そう言ってティアナが歩き出そうとした時、ミランはティアナの服を引っ張って止めた。
「…ティアナ、不安なの?」
「……それは…少し不安だけど、でも大丈夫よ! 私頑張るから!」
そう言ってティアナは両手で拳を作ってみせるが、ミランは何も言わずにティアナの両手を覆うように握った。
ミランには、ティアナの不安そうな、寂しそうな表情が色濃く出ているように見えたのだ。
「…? ミラン?」
「僕はクレア兄さんみたいに頼りないかもしれないけど…」
そう言いながらミランはじっとティアナの目を見つめる。
「祭器使いとして、ティアナのことを支えるから。だから今は、クレア兄さんたちが居なくても大丈夫だよ。」
ミランはそう決意を持った声色で言った。
その言葉にティアナは目を見開いた。
少し前まで、王族はみんな殺してやると苦しそうな表情で言っていたのに…
一緒にいるうちにミランが少しずつ変わっていっていたのはわかっていた。
それでも元々口数の少ないミランのことだ。
ティアナはミランからこんな風に言ってもらえるのは、本当に嬉しかった。
王族を毛嫌いしていた少年と、第一王女のティアナという二人には、確かな信頼関係が芽生えていた。
「…ありがとう、ミラン」
ティアナはそうミランに笑いかける。
たった一人でこの場所に落とされていたら、今頃どうなっていただろう。
いつの間にか、激しかった心臓の音は、いつものように穏やかな間隔に戻っていた。
まだ少しの不安はある。
けれど、ミランと一緒ならば、きっと大丈夫だとティアナは思うのだった。
二人で洞窟の入口に立つ。
そして目線が同じぐらいの二人は、一瞬目配せすると、洞窟の中へ入っていった。
洞窟の中は、思ったよりも明るかった。
というのも、至る所で岩壁にある鉱石か何かが光っているのだ。
「…不思議なところね。こんな所が本当に砂漠の下なのかしら…」
「……わからないけど…砂で結構流されていたから、クレア兄さんたちと離れた所からは、相当離れちゃってるのかも」
ミランの言葉に、そうかもしれない、とティアナは頷いた。
そして、もう一つティアナには気になることがあった。
左右や上は頑丈そうな黒っぽい岩壁に囲まれているのに対して、地面だけは柔らかい砂で覆われているのだ。
そして、この洞窟は、恐らくカークであれば頭をぶつけてしまうぐらいに高さがなかった。
一歩一歩踏み出す度に少しだけ足が砂の中に沈む。
ということは、この砂はある程度の深さはあるという事だ。
そして、こんな洞窟の中にこれ程砂が溜まっているということが、自然の現象で起こるのだろうか。
そこまで思案して、ティアナが出した結論はこうだった。
「…ミラン、ここに、ディザがいる気がするの。私達をここに落としたのもディザだったし…」
そうティアナが言うと、ミランも頷いた。
「たくさん出てくると少し面倒だけど…一体ずつなら大丈夫だよ」
「うん、そうね」
ティアナはそう返事をすると、また歩みを進めた。
この時ミランとティアナは気づいていなかった。
二人の行く手には無数の砂の塊が蠢いていることを。




