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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
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ヴィレムと少女

ヴィレムは、長く続く森を抜けたかと思うと、今度は地平線まで見えてしまう広い平野を目にしてうんざりとした。

祭器の搭を探してカトランガの南部まできたのはいいものの、暑すぎていつもの外套は取り払い、自身の手で自身を煽ぐ。


「ヴィレムー! 遅いよー! 置いてっちゃうよー!」


そんな声が、平野の先の方からヴィレムの耳に届いた。

その声の主は、青みがかった黒髪を二つに結わえた幼い少女だった。


「…。」


もはやヴィレムはその少女の呼びかけに答えるのも面倒で、ただのろのろと歩みを進めた。


「もー! 遅いよ! ミスティ待ちくたびれた!」


追いついてきたヴィレムに、ミスティという少女はむすっとしたようにそう言い放つ。


「あまり急ぐな。後で疲れて動けなくなっても知らんぞ」


ヴィレムがそう言い返すと、ミスティはヴィレムの背中に飛びついた。


「その時はヴィレムが運んでくれるでしょ?」


ミスティはそう言いながらにこにことして、ヴィレムの肩にぶら下がる。


「勘弁してくれ…ただでさえ暑いんだ」


「えぇーヴィレム、炎の妖精さん使うくせに暑いの苦手なの? ミスティはこれぐらいの暑さ全然平気だけど」


「平気なら自分で歩け」


そう言いながら、ヴィレムはミスティを引き剥がし、地面に下ろした。


「えー…まぁ、いいか。ミスティはヴィレムが一緒なだけで嬉しいもん」


そんなことを言いながら本当に嬉しそうにしているミスティの横をヴィレムは歩きながら、口を開いた。


「この間は、何も言わずに出掛けて悪かった」


そのヴィレムの言葉に、ミスティはにっこり笑った。


「いいよ。シュティレが一緒に居てくれたし、ラミアは色んな面白いお話教えてくれたし、イレブロスはお菓子いっぱい買ってくれたから!」


そんなミスティの顔を見て、ヴィレムも小さく笑った。


「あ、でもミスティが一番大好きなのはヴィレムだから安心してね!」


「…なんの話だ…」


「そうだヴィレム! あの子とは、お友達になれそうなの?」


ころころと変わる話題に見た目通りの子供らしさを感じながら、ヴィレムはミスティに言葉を返した。


「何のことだ?」


「あの金髪の…そうそう、ティアナって子!」


その名前に、ヴィレムは少し眉間にしわを寄せた。


「あれは、友などになるために連れてきたんじゃない。扉が開くのを止めるためだ」


「そうなの?でもあの子優しそうだから、ヴィレムがちゃんとごめんなさいしたら、きっと友達になってくれると思うよ!」


「何故俺が謝らねばならない。」


「もーヴィレム意地っ張り! ミスティにはちゃんとごめんなさい出来るのに~。ヴィレムだってお友達欲しいでしょ?」


「居らない」


「えぇ~だってヴィレムいつも寂しそうに見えるよ?」


「誰が寂しそうだ。大体俺はそんなものに割く時間を持ち合わせていない。」


ヴィレムがそう言い放った後、ミスティは呆れたような目をして、口を開こうとしたが、その前にヴィレムはミスティの顔の前に喋るなと言うように手のひらを向けた。

ヴィレムが鋭い視線を向けている方向に、ミスティも視線を向けた。

すると、平野の随分奥の方に、兵士の隊列のようなものが見える。

カトランガの兵士達なのだろうか。

そんなふうにヴィレムが考えている時、ミスティは嬉しそうに少し小さな声でヴィレムに言った。


「ねぇねぇ、ミスティの出番でしょ?」


そんなふうに言うミスティの顔を、ヴィレムはちらりと見ると、少し間を置いてから頷いた。


「そうだな、頼む」


そうヴィレムが返事をすると、ミスティはにこにこしながら、


「最初からミスティの力を使えばよかったのに」


と、言い放つ。

そして、腰に下げていたやや大きめの袋から、蝶のような模様が入った鎖を取り出し、ヴィレムの右手を左手で握るとその鎖を右手でぶんっと振り回し始めた。

その鎖は、次第に黄緑色に輝いていく。


「ピクシーちゃん。お願いね」


そうミスティがつぶやくと、一瞬にしてヴィレムとミスティの姿はその場から消えた。


「着いたよー!」


次の瞬間、ヴィレムは横から聞こえた声に目を開ける。

その時、ヴィレムの眼前に広がっていた景色は、果てしなく広がる平野ではなかった。

オルゼビアでは見られないような、気温の高い地方特有の木やその他の植物が生い茂る林のようなところに、ヴィレムとミスティは立っていた。

声がした方に視線を向けると、ミスティがヴィレムの右手を握りながらにこにこと笑っている。


「どこまで飛んだ?」


そうヴィレムが聞くと、ミスティは首をかしげながら答える。


「えーっとね。さっき見た兵隊さんたちよりもずーっと先の方だよ」


ミスティは、そう言い終えたあと、閃いたように繋いでいたヴィレムの手を引っ張った。


「そうそう! こっちにね! すっごくおっきな水溜りがあったんだよ~! ピクシーちゃんが見せてくれたの!」


はしゃぐミスティにヴィレムがついて行くと、林が途中で途切れ、一気に視界が開けた。

そこは、地面は白い砂が広がり、そしてヴィレムの右手には、水が一面に広がっていた。


「…ミスティ。これが前に話した海だ」


そうヴィレムが言うと、ミスティは瞳を輝かせた。


「これがそうなの!? じゃあこの水、なめたらしょっぱいんだよね!」


そう言いながら、波打ち際にミスティは近づいていく。


「ねぇ! これ持ってて! ヴィレム!」


そう言いながら、ミスティはやけに重い腰から下げた袋をヴィレムに放り投げた。

それをヴィレムは無事受け止めたが、中身がほとんど飛び出てしまった。

蝶の紋章入りのセスタス、蝶の紋章入りの鉄球、蝶の紋章入りの弓矢、そして、蝶の紋章入りの鎖。

少女が持つには重すぎるほど、中身が詰め込まれた袋だった。

そんな邪魔な荷物をヴィレムに預け、ミスティは波を見て目を輝かせた。

それを遠くから見ながら、ヴィレムは保護者のように小さく笑っていた。

ミスティはもはや靴などを脱ぎ捨て、足を海の水に浸しては嬉しそうに笑っている。

その細い足に残る引き攣れたような傷跡が目について、ヴィレムは顔をしかめた。

その時、何故だかチクリと首が痛む気がして、ヴィレムは首に手を当てた。

いつもは外套で隠してあるはずの首元は、暑いという理由で外套が取り払われているために剥き出しになっている。

その剥き出しの首の左側には、ミスティの足にある傷と同じような引き攣れた傷跡が、大きく残っていた。


「……」


ヴィレムはほかの場所の肌とは明らかに手触りの違うその場所を忌々しそうに撫でると、外套を羽織った。

そして、海ではしゃぐミスティに呼びかけた。


「ミスティ! 搭を探しに行くぞ」


「うん!」


ミスティは元気よく返事をすると、片手に靴を、そしてもう片方のてを握りしめながら、ヴィレムのそばに来た。


「ね、ヴィレム。これあげるね!」


そう言いながら、ヴィレムの手のひらの上にミスティが置いたのは、赤寄りの橙色をした貝殻だった。


「ほら、ヴィレムの髪の毛の色にそっくりでしょ?」


ヴィレムは、そう言いながら笑っているミスティの頭を無言でぽんと撫でると、その貝殻を懐にしまい、ミスティに袋を返した。

その重い袋を、ミスティは文句を言うことなくもう一度腰にぶら下げた。

そして、ミスティはその袋を優しくポンポンと叩いて呟くように言った。


「ね、ピクシーちゃん達。みんなのお友達は何処にいるの?」


その言葉に反応するかのように、袋から四色の細い光が一直線に林の方へ伸びていき、その光はすぐに消えてしまった。


「あっちだって! 行こうヴィレム!」


そう言いながらミスティはヴィレムの手を両手で引いていく。

そんなミスティに大人しく手を引かれながら、ヴィレムは歩き出した。

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